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🔶【15話】倩䞊の楜園・圌の映画サチ

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パ゜コンの画面を眺めながら、動画配信サヌビスの䜜品䞀芧をスクロヌルする。

ナりちゃんの出挔映画を芳ようず思い立ったものの、䜜品䞀芧を開いお途方に暮れた。出挔䜜が倚すぎるのだ。どれから芳ればいいんだろう。

あれこれ眺めおいるうちに、ふず目に留たった人気俳優特集のペヌゞ。あたしでも知っおいる倧埡所達が名前を連ねおいる。その䞭に桂朚ナりタの名前もあった。すごいなぁ、ナりちゃん。

どれにしようか悩みに悩み、比范的新しい二本を再生するこずにした。

『愛の果お』

『倢二の女達』

『倢二の女達』は明治生たれの画家、竹久倢二が題材の映画だった。この人の描く矎人画は『倢二匏矎人』ず呌ばれ、倧正浪挫を代衚する画颚のひず぀だ。生粋のプレむボヌむずしおも名高い。デザむンの専門孊校時代に、授業で倢二を題材にしたこずがあった。最初にこれから芳おみよう。

あたしは買い物袋から、フラむパン圢の容噚に入っおいるポップコヌンを取り出した。コンロであぶるずパンパン匟けるダツだ。出来たおの熱々。映画を芳る時には必ずこれを頬匵りながらず決めおいる。あ、あずキンキンに冷やしたビヌルゞョッキ。この䞭にたっぷりず氷を詰め蟌み、コヌラを泚ぐのだ。

郚屋の明かりを萜ずす。うん、準備オッケヌ。ピッ、意気揚々ず再生ボタンを抌す。

あ、ナりちゃんだ。ふぅん  竹久倢二がナりちゃんなんお䞍思議な感芚。和服姿なんお想像も぀かなかった。共挔しおいる女優達も皆、倢二匏矎人ず呌ばれたモデル圹にふさわしく、枅楚で矎しい。

倧きく最んだ瞳。長い睫毛。抜けるような癜い肌。倧正浪挫調の衣装も目を匕いた。

竹久倢二《黒船屋》 (郚分)

赀玫色の地に倧柄なたんぜぜ暡様。赀い薔薇の垯。藍色の着物の奥に芗く、半襟の鮮やかな梅。倧きめに胞をはだけた独特の着こなし。凛ず矎しい倢二の恋人達は、艶やかな埮笑を絵筆を持぀ナりちゃんに投げかける。

そしお、その埮笑を受ける圌はそんな圌女達に負けないほどの色銙をたずっおいた。

脳裏に焌き぀くような匷烈な色圩の枊の䞭で、埋もれるこずなく曎に光を攟぀ナりちゃんの存圚感。あぁ、圌は本物なんだなっお挠然ず思った。

日本の圹者も捚おたもんじゃない。

スマホの着信音が響く。ナりちゃんからだった。二十二時過ぎ、圌にしおは珍しく早い時間。昌間、代官山での出来事が頭をよぎり少し緊匵した気分で電話に出た。

『あ、サッちゃん、こんばんは』

い぀ものナりちゃんの声。なのに、どきんず胞が跳ね䞊がる。

『昌間はさ、お隒がせしたした』

ちょっずバツが悪そうに圌はそう蚀った。

「あ、うぅん  」

歯切れの悪い返事。銬鹿銬鹿あたし。もっずこう、気の利いたゞョヌクずか返せないものだろうか。

『あ、今忙しかった 䜕しおたの』

䜕っお  だけど、話題を振られおほっずした。䜕を話したらいいのか思い぀かずに困っおいたのだ。

「あのね、動画配信でナりちゃんの映画を芳おたの」

『え  俺の どの映画』

「竹久倢二のや぀」

『あぁ、あれはサッちゃんの奜みかも』

「うん。すごく良かった。今、゚ンディング芳たずこ。ナりちゃんが倢二なんお意倖だったけど、すごい合っおる」

『サッちゃんに蚀われるず、お䞖蟞でも嬉しいよ』

「お䞖蟞なんかじゃないよ。他のも芳るの楜しみだもん」

『えっ、他のもっお、倢二以倖も芳る぀もりなの』

そうだよ。ず、あたしはもう䞀本のタむトルを告げた。

『駄目っ。サッちゃん、“愛の果お”は芳ちゃ駄目だよ』

突然取り乱した圌を䞍審に思う。

「どうしお駄目なの」

沈黙  ナりちゃんの困り果おた雰囲気が䌝わっおくる。

『それっおさ、指定なんだよね』

  

「いやだぁ、ナりちゃん。あたし23よ。R15っお䞭孊生はご遠慮䞋さいっお意味でしょう」

『最近のっおすごいんだよ。いや、俺のファンもそれなりに幎霢局䞊がっおきおるから問題ないかっお  事で』

「すごいっお䜕が 血ずかがドハ〜っお感じ」

『いや、そうじゃなくおさ  あの  』

性描写がさ  消えそうな声でぜ぀りずナりちゃんは蚀った。

セむビョりシャ

「倢二にもあったよ、ラブシヌン。えっずね、党然嫌らしくなくおすごく綺麗だった」

『うん。たぁ、恋愛映画だからさ。でもそっちのは芏制がかかるほどの内容なんだ。俺、それ芳られたら恥ずかしくおもう、サッちゃんに顔芋せられない』

泣きそうな声だった。可哀想になっちゃっお、あたしは思わず玄束しおしたった。芳ない。“愛の果お”は芳ないから。

『本圓 ごめんね。他の䜜品遞んで、今床、関係者甚の芖聎リンク送るね。でもさ  どうしたの 急に。俺の出おる映画なんお』

どうしおっお  。

「今日の女の子達芋お思ったの。あたしナりちゃんの事䜕にも知らないんだなぁっお」

『えっ』

「ナりちゃんの事、もっず色々知りたいず思ったの」

『  』

あれ 電波の調子悪いかな 䜕にも聞こえないや。ふっふ〜っっ 息を吹きかけおみる。アンテナいっぱい立っおいるんだけどな。

「もしもし」

話しかけおみる。

『あ  ごめん。うん、ちゃんず聞こえおる。ただ、もう俺さ  』

コホンず小さな咳払いをしおナりちゃんは蚀葉を繋げた。消えそうに震えた声だった。

『  なんか、嬉しくっお』

溜息のようなナりちゃんの蚀葉が、あたしの錓膜をくすぐる。耳がカッず熱くなる感芚。䜕だか慣れなくお、気を玛らわすかのように、あたしは話し始めた。

「それでね、ホント今曎なんだけど、ナりちゃんの本も最初からちゃんずじっくり読んでみようかなっお」

『本 あ、いいのアレほずんどフェむクだから』

「フェむク」

『本圓は俺が曞いたんじゃないんだ。ゎヌストラむタヌが、ファンが喜びそうな桂朚ナりタの半生を䜜っただけなんだ』

「そう  なの」

『サッちゃんにはさ、これからの俺だけ芋お欲しいんだよね』

うん、小さくそう盞槌を打぀。

『でも、ひっでぇ、サッちゃん。俺の本読んでなかったんだね。衚玙自分で描いたのに、そんなに䞭身に興味なかった』

サ〜っず血の気が匕く。

『いやっ  間に挟んである写真は芋たのっ。あれ、半分は写真だったじゃない 文字は  ごめんね。飛ばし読みしちゃった』

ぷっ。受話噚の向こうでナりちゃんが堪え切れずに吹き出す音がする。

『たぁ、サッちゃんらしいよね。それを銬鹿正盎に蚀っちゃうトコ。でもさ、今曎でも俺の本読みたいだなんお思っおくれお嬉しいよ』

銬鹿正盎  そうだ、わざわざ本をちゃんず読んでいない事なんお暎露する必芁もないのに、あたしっお。

『そうだ話は倉わるんだけど、今日仕事の垰りに岡郚が倉な事蚀うんだよ』

「倉な事」

『おっきり今日の事でドダされるず思っおたんだけどさ』

「  怒っおなかったの」

少しナりちゃんは次の蚀葉たで間を眮いた。そしお、怪蚝そうな声色で蚀った。

『䞀週間くらい、䌑暇をやろうかっお。条件付きで  』


カチッ。
ナりちゃんずの電話を切ったあず、再び再生ボタンをクリックする。画面には『愛の果お』のタむトルが映し出されおいる。

だっお。だっお。

芳ちゃ駄目だず蚀われれば芗きたくなるのが人のサガず蚀うものだ。なんおさ、もぉ、倧袈裟なんだから。

それにしおも、さっきの電話でナりちゃんが蚀っおいた、ヒロの話は意倖だった。䞀週間の䌑暇かぁ。ナりちゃんにしおみれば倧センセヌショナルだ。岡郚の埩讐かもしれないから、あんたり期埅しないんだず、ナりちゃんは蚀っおいた。どうせ䞀週間の䌑暇ずいう名の劎働だよず。

埩讐っお、仕事を抜け出したお仕眮きっお意味かな ヒロはナりちゃんにそんな事しないず思う。厳しくお嚁圧的なトコはあるけど、埩讐なんおねぇ。

条件付の䌑暇。気になる内容はただ提瀺されおいないらしい。

ボンダリしおいるず、映画が始たった。さっきの倢二ずは党然違うナりちゃんが映し出される。ナりちゃんの圹どころはお金にしか興味のない売れっ子ホスト。盞手圹は意倖にも幎䞊の小孊校教垫。ホスト通いの資金源は䞍倫盞手ず亀通事故死した倫の保険金だ。逢い匕きの途䞭に巻き蟌たれた事故で、倫ず愛人はたるで心䞭のように仲良くあの䞖に飛び立っおいった。圌女はこの金を党お男遊びに䜿い果たそうず決意する。

「  やばい」

あたしより倧人だし、圓たり前なのかもしれないけれど、ナりちゃん、こういう堎面が劙に様になっおいた。あたし、最埌い぀したっけ え〜っず。二幎近く埡無沙汰しおいる  かも。

昔の圌に、お前が盞手だず、調子狂うよっお蚀われた事を思い出す。あたしあの時、悪気はなかった。ただ、ほら男の人っお毛深いじゃない。くすぐったくお、あの最䞭に笑っちゃったんだよ  ね。

トラりマになったよっお圌は苊笑いしおいた。実際、その埌ぎくしゃくしお、い぀の間にかあの圌ずは自然消滅ずいう結末を迎えた。

やばい。あれ以来の埡無沙汰。しかも、いわく぀きのくすぐり䜓質。あたしナりちゃんず、セックスする事なんおあるのかしら


「サチはパスポヌト持っおる」

銎染んだ車の助手垭に座っおいるず、突然䜕の脈絡もなくそう問いかけられた。

ヒロのその質問は“海倖行ったこずあるの”ず倉換されお耳に届く。倱瀌な、芋くびっおもらっちゃ困る。

「持っおたすよ。ハタチの時にむギリスに行きたした」
「期限残っおる」

は どういう意味かしら 期限なんおあったっけ。

「  」

黙り蟌むあたしにヒロは質問を続けた。

「ハタチのその旅行の時にパスポヌト新しく発行したの」
「うん」
「じゃあ、倧䞈倫だな  」

圌は独り蚀のように小さく呟いた。

なぁに なにがダむゞョりブなの

「来月の二週目ずか、サチ、仕事忙しい」

えっず、頭の䞭でパラパラずスケゞュヌルを思い浮かべる。

「う〜ん、その週のど真ん䞭に締め切りがありたすねぇ」
「その仕事っお締め切り前に終わらせられないかな」
「急げばなんずかなるかなぁ」
「俺、手䌝うから」
「は」
「仕事、消しゎムかけでも䜕でも手䌝うから、その䞀週間ナりタに付き合っおやっお欲しい」
「ぞっ 䞀週間、ですか」
「無理匷いは出来ないが  」

話が唐突すぎお返事に詰たる。あたしの仕事をヒロが手䌝っお、それで䞀週間ナりちゃんに付き合うっお

そもそもヒロが消しゎムかけだなんお、笑いそうになった。そんな䜜業、ほずんどないんだけど。

「ゆっくりず、たたあずでナりタも䞀緒の時に説明するから。その話もあっお、い぀もながら急遜お誘いしたんだ。た、あんたりサチに䌚えないず、アむツが脱走を䌁おるっおいうのもあるんだけど」

“岡郚がさ、䞀週間䌑暇をやろうかっお  ”

先日、電話をした時に耳にしたナりちゃんの台詞が頭に浮かぶ。

「あっ、あ〜」

キィッ〜 い぀もは滑るように停車するのに、赀信号を前にゞャガヌは雄叫びをあげお停たった。

「おたっえっ、びっくりすんだろ。その声、心臓にくるんだよ」

「  ごめんなさい」

名前で呌び合うようになっお、䞍思議ずお互い口調も慣れ芪しんだものになっおいた。だけど、怒られたのは初めおだ。しゅん、ず反省しお小さくなる。

「おい」

ヒロが進行方向を芋ながら呌びかけおくる。

「  」

たた、怒られるのかなっお暪顔を盗み芋る。

「肉食動物に怯える矊みたいな目で芋るのはやめなさい」

あらたたった䞁重な蚀葉遣いずは裏腹に、口元が笑いを噛み殺しおいる。

「さっきの奇声の根源は」

あたしはおずおずず質問に答えた。

「もしかしお、ナりちゃんの䌑暇の条件っお海倖っお事」

「  ふぅん、サチっお意倖ず  」

キキッ。アスファルトを擊るタむダの音を響かせ、車は芋芚えのある重厚なマンションぞず入っおいく。カヌドず顔認蚌のために車は䞀時停止した埌、ピッずいう短い電子音が鳎った。シックな王様の鉄栌子が自動で開き、地䞋駐車堎ぞ向かっお緩やかなスロヌプを降りおいく。

あたしは黙っおヒロの話の続きを埅った。その雰囲気が䌝わるのか、圌は口の端だけで薄く笑ったたただ。

ぶぅん。

停車した埌、䞀床だけ䜎い゚ンゞン音を響かせるず、息を殺したような静寂に包たれる。

「そうだ、条件は海倖。しかも究極の  」

ぎんぜ〜ん

クむズの正解者に莈られる効果音が頭の端で響いた気がした。

「サチさ  」

ヒロの指が䌞びおきお、あたしの頬をなぞった。

ひやり。

ナりちゃんの枩かい手ずは違う指先の枩床。ヒロは顔にかかっおいた埌れ毛を、そっず払っおくれた。頬の産毛をなぞられおこそばゆい  なんお感じながら、頭の䞭では新しい謎々が走り回っおいた。

究極の海倖っおなあに

ヒロがやっず、さっき蚀いかけおいた台詞の続きを口にした。

「サチっおさ、がんやりしおいるようで意倖ずあなどれないのな」

その台詞は䜕故かこう倉換されおあたしの耳に届いた。

“あんたっお意倖ず銬鹿じゃないんだね”




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