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火星——赤い地平の向こう(18):第4章 火星の進化史——持続できなかった惑星(1)

この章の目的は、単なる年代整理ではない。ここで問うのは、火星はいつ、どのようにして「持続できなくなった」のか、そしてその「老い」とは何を意味するのか、という問いである。火星の進化史とは、地球との分岐の構造を時間軸上で捉え直す作業である。

4.1 原始火星(約45億年前)——共通の起源

太陽系は約46億年前に誕生した。太陽の周囲に広がる原始惑星系円盤の中で、塵が集積し、微惑星となり、微惑星同士が衝突・合体を繰り返して惑星が形成された。
地球と火星は、ほぼ同時期に形成された。約45億年前、両者ともマグマオーシャン——惑星全体が溶融した状態——を経験した。微惑星の衝突エネルギーにより、惑星内部は高温に達し、鉄やニッケルなどの重い元素は中心に沈降してコアを形成し、軽い元素はマントルを形成した。
初期の大気は、脱ガスによって形成された。マグマオーシャンから放出された気体——主に二酸化炭素と水蒸気——が原始大気を構成した。
ここまでは、地球と火星はほぼ同様の過程を辿った。

後期重爆撃期——大規模な衝突の時代

惑星形成期の後、太陽系は比較的安定した時期を迎えたと考えられていた。約41億年前から38億年前にかけて、太陽系内惑星は再び激しい隕石衝突に見舞われた。これが「後期重爆撃期」(Late Heavy Bombardment, LHB)である。
この時期、木星や土星などの巨大惑星の軌道が変化し、小惑星帯や外太陽系の天体が内太陽系へと送り込まれた。その結果、地球、月、火星などの内惑星は、大量の隕石衝突を受けた。
月のクレーター年代測定から、後期重爆撃期の存在が示唆されている。アポロ計画が持ち帰った月の岩石試料の多くが、約38億年前に衝突によって形成されたことが分かっている。
火星もまた、この時期に大規模な衝突を受けた。火星最大の衝突盆地であるヘラス盆地(直径約2,300キロメートル)や、アルギュール盆地(直径約1,800キロメートル)は、この時期に形成された可能性がある。
後期重爆撃期の衝突は、火星の地形を決定的に変えた。巨大な衝突は地殻を破壊し、マントルを露出させ、大量のエネルギーを解放した。衝突の熱により、一時的に大量の水蒸気が大気中に放出され、気候が変動した可能性がある。
この激しい衝突の時代が終わると、火星はノアキアン期へと移行する。

分岐の萌芽

分岐の萌芽は、既にこの段階で存在していた。
火星は地球よりも小さい。質量が小さいということは、重力が弱いということであり、大気を保持する力も弱い。さらに重要なのは、質量が小さいほど表面積対体積比が大きく、冷却が速いということである。
惑星の冷却速度は、体積と表面積の比に依存する。体積が大きいほど熱を蓄えやすく、表面積が小さいほど熱を失いにくい。地球は大きいため、ゆっくりと冷える。火星は小さいため、速く冷える。
この冷却速度の差が、のちに決定的な違いを生む。火星は速く冷えたため、マントルの対流が弱まり、磁場を早期に失い、プレートテクトニクスが機能しなくなった。
火星の運命は、この質量差によって既に決定されていた。

(続く)

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(2026.3.9 公開)

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