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火星——赤い地平の向こう(14):第3章 火星の基礎的性質と地球アナロジー(1)

この章は単なる物理データの列挙ではない。ここで問うのは、火星は地球とどこまで連続しているのか、そしてどこから分岐しているのか、という問いである。火星を理解するとは、地球との類似と差異の構造を理解することに他ならない。

3.1 惑星サイズと内部構造——質量差という運命

火星の半径は約3,390キロメートル。地球の半径(約6,371キロメートル)の約53パーセントである。体積は地球の約15パーセント、質量は約11パーセント(正確には6.4×10²³キログラム、地球は5.97×10²⁴キログラム)に過ぎない。
この質量差は、些細なことではない。それは火星の運命を決定した。
惑星の内部構造は、その質量に大きく依存する。惑星が形成される際、微惑星の衝突により膨大なエネルギーが解放され、惑星全体が溶融状態——マグマオーシャン——になる。その後、重い元素(鉄、ニッケル)が中心に沈降し、コア(核)を形成する。軽い元素(ケイ素、酸素)はマントルを形成する。
火星もまた、地球と同様に、鉄を主成分とするコア、ケイ酸塩マントル、そして地殻という層構造を持っている。2018年に着陸したインサイト(InSight)探査機は、火星の地震(火星震、marsquake)を観測し、内部構造を推定した。その結果、火星のコアの半径は約1,830キロメートル(火星半径の約54パーセント)であり、地球のコア(半径約3,480キロメートル、地球半径の約55パーセント)と比率はほぼ同じであることが分かった。
だが決定的な違いがある。それは冷却速度である。
惑星が冷えるとは、内部の熱が表面から宇宙空間へと放出されることである。惑星の熱容量は体積に比例し、表面積は半径の二乗に比例する。つまり、小さな惑星ほど、体積に対する表面積の比が大きく、冷えやすい。
火星は地球よりも小さい。それゆえ、火星は地球よりも速く冷えた。
そしてこの冷却速度の差が、火星と地球の分岐点となった。

3.2 磁場の喪失——保護の喪失

地球は現在も磁場を持っている。この磁場は、地球のコアの対流運動——ダイナモ効果——によって生成されている。地球のコアは、固体の内核と液体の外核から成る。液体の外核では鉄が対流し、電流が生じ、磁場が形成される。
この磁場は、地球を太陽風から守っている。太陽風とは、太陽から放出される高エネルギーの荷電粒子(陽子、電子)の流れである。もし磁場がなければ、太陽風は直接大気を叩き、大気中の軽い元素(水素、ヘリウム、酸素)を宇宙空間へと剥ぎ取ってしまう。
火星にも、かつては磁場があった。
火星の地殻には、局所的な磁気異常が残っている。特に南半球の古い地殻には、強い磁化が記録されている。これは、火星がかつて全球的な磁場を持っていたことの証拠である。
だが現在、火星には全球的な磁場はない。
磁場が消失した時期は、約40億年前と推定されている。なぜ消失したのか。それは火星のコアが冷却し、対流が停止したからである。小さな火星は、地球よりも速く冷えた。コアが固化し始めると、ダイナモ効果は維持できなくなる。
磁場の喪失は、火星にとって致命的であった。それは大気を保護する盾を失ったことを意味した。

3.3 大気の散逸——呼吸できない惑星へ

地球の大気圧は海面で約101.3キロパスカル(1気圧)である。火星の平均大気圧は約0.6キロパスカル。地球の約0.6パーセントに過ぎない。
火星の大気組成は、二酸化炭素が約95パーセント、窒素が約2.7パーセント、アルゴンが約1.6パーセント。酸素はわずか0.13パーセントである。
この希薄な大気は、火星が大気を保持できなかったことの結果である。
惑星が大気を保持できるかどうかは、惑星の重力と大気分子の熱運動速度の関係による。軽い分子(水素、ヘリウム)は高速で運動し、惑星の脱出速度を超えると宇宙空間へと逃げていく。重い分子(二酸化炭素、窒素)は比較的保持されやすい。
火星の脱出速度は約5キロメートル毎秒。地球の脱出速度(約11.2キロメートル毎秒)の約半分である。火星は、地球よりも大気を保持しにくい。
だがそれだけではない。磁場の喪失が、大気散逸を加速させた。
2013年に火星周回軌道に投入されたMAVEN(Mars Atmosphere and Volatile Evolution)探査機は、火星の大気がどのように宇宙空間へ失われているかを観測した。太陽風が直接火星の大気を叩き、イオン化された大気分子を宇宙空間へと運び去っているのである。
MAVENの観測によれば、現在でも火星は毎秒約100グラムの大気を失い続けている。年間にすれば約3トン。これは現在の薄い大気から見れば微々たる量だが、数十億年のスケールで見れば膨大な量になる。
火星は、かつてはもっと厚い大気を持っていた。推定では、初期の火星の大気圧は現在の数十倍から数百倍であった可能性がある。だが磁場を失った火星は、太陽風による大気剥離に対して無防備であり、徐々に大気を失っていった。
その結果、火星は呼吸できない惑星になった。

(続く)

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(2026.3.5 公開)

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