シンガポールで研究職を得るまでの経緯
背景
2025年4月から、Duke-NUS Medical School (National University of Singapore:国立シンガポール大学)でAssistant Professorとして働くことになりました。今回は、その研究職のオファーを得るまでの経緯を、自分自身の振り返りも兼ねてまとめてみようと思います。将来、海外での研究職に興味がある方の参考になれば幸いです。(注:Tenure trackではない任期付き職のため違うところもあるかもしれません。)
シンガポールの最初の2年間
もともと私は、日本で救急医としてフルタイムで臨床に従事していました。大学院生時代は平日は研究に従事していましたが、生活費は土日の日当直勤務で得ていました。大学院卒業後も救命センターで週4で臨床業務(+オンコール/当直)をやりながら週1で研究にも関わるという生活をしていました。しかし2022年10月、研究助成金を得てシンガポールに渡り、Duke-NUSで博士研究員・客員研究員としての生活が始まりました。
それまで収入の100%が臨床業務によるものだった私にとって、2022年当時、研究目的で生活費を得て、またそれがシンガポールのWork pass(ビザ)の基準を満たすというのは大きな挑戦であり、キャリアの転機になりました。ここの経緯に興味があるかたは以前のnoteを参照ください。
最初は2年で帰国する予定でしたが、シンガポールでの新しい研究の仕事、研究環境での刺激、生活のしやすさ、子どもたちの教育環境などに惹かれ、次第に「もう少しここで頑張ってみたい」と考えるようになりました。家族と相談して、シンガポールにもっと仕事/生活できないかと考えるようになりました。
シンガポールに来て1年経過したくらいで、ボスに今後どうしたいかと方針を聞かれました。私は「シンガポールで研究を続けたい」というと、いくつかアドバイスをくれました。具体的には研究業績をしっかり出すことと研究資金をとるというものでした。その後、今回の役職のオファーをもらうまで意識してきたことを書いてみたいと思います。
意識してきた5つのこと
1. 研究力のアピール
シンガポールに来て最初に関わった研究プロジェクトが、幸いにもインパクトファクター20近くの雑誌に複数の論文が掲載されました。(当時はCOVID19の影響でImpact Factorがインフレしていたというのもありますが笑、今はそんなにIF高くないです残念)。またこの結果でシンガポール国内の学会で複数の賞を受賞することができました。この最初の研究結果をボスはとても評価してくれたように思います。この研究結果をいろいろなシンガポール国内のステークホルダーのところに持っていき、アピールしてくれました。この論文を通じて、自分のアイデアの独創性や方法論への理解なども評価してくれたように感じました。
また、次のプロジェクトでシンガポールで初めての熱中症の疫学論文を出版しました。幸いこの研究はニュースや新聞にも取り上げてもらいました。この論文はローカルな小さい医学雑誌に掲載されたに過ぎないのですが、シンガポールにとって「実践的なインパクト」を意識した研究を出版することができました。その後も日本、韓国、シンガポールとの国際共同研究の論文などを出版しました。この結果も、注目される成果を出すことができたように思います。
研究業績をだせるかどうかは運や色々な要素に影響されますが、こうした研究活動を通じて、研究力をしっかりアピールできたことはアカデミアでポジションを得るためにやはり重要なポイントをだったように思いました。
2. 研究資金の獲得
研究資金の獲得も重要です。上司からのアドバイスもあり、シンガポールにきてからも積極的に研究資金の申請に取り組みました。客員研究員という立場上、自分単独で応募できないことも多く、ボスと共同で応募したものが多いですが、自分が主体的に準備したもので複数のものが採択されました。
(2023~2024年の期間に採択されたシンガポールでの研究費)
約1億5000万円の大型研究費(チームで応募)
約2000万円クラスの研究費(分担PI)
アメリカDuke大学との国際共同研究資金(約2000万円, Co-I)
国際共同研究ワークショップ用の資金(約500万円Co-I)
個人での研究助成金(約1500万円, PI)
資金を獲得し、安定した研究体制を築くことが、研究者としての「自立」を示すうえで重要だったと思います。
3. 教育への貢献
また教育にも積極的に貢献するように意識しました。研究室では複数のインターンや学生と共同で研究を進めました。学生も、私の拙い英語での指導にも頑張って付き合ってくれました。幸いにも、原著論文を複数出版したり、学会で賞を取ってくれたりして、私もとても嬉しかったです。こうした学生への研究サポートやフィードバックを通じて、教育者としての役割をアピールすることができたのではと感じています。
4. 地元シンガポールへの貢献
またシンガポールで生活するなかでは、地元シンガポールに貢献することが重要だと思っています。シンガポールの救急医たちとネットワークを築いて共同研究の足場を確立することも重要だと思っています。シンガポールの救急医療体制の改善に資するようなプロジェクトにも積極的に参加しリードしてきました。シンガポールの消防庁や保健省とを交えたプロジェクトにも参画しました。幸い、地元の救急医から研究のお手伝いお願いされる機会も増えました。自身の経験が、シンガポールの救急医療に関する研究で役にたつと思ってもらえたらと思います。
5. 自分独自の強み
シンガポールにきて、私の強みは、日本での10年の救急での臨床経験をもとに「ガチ臨床医とガチ研究者の橋渡し」ができる点だと改めて感じました。シンガポールでも(日本でも)、研究に特化した人と臨床に特化した人が明確に分かれていることが多いです。研究部門には機械学習、疫学、統計、エンジニアリング、医療経済の専門家はいますが、その間を取り持ち、臨床における視点を提供するコーディネート役を担う人は多くはありませんでした。救急現場を知る者として、疫学、機械学習、公衆衛生といった異なる分野の研究者との連携・通訳のような役割も担えたことが、チーム内での自分の存在意義を高めてくれたように思います。
海外研究職に興味がある方へ
今回のAssistant Professorのオファーにつながった要因は、振り返ってみて以下の5つが重要だったなと思います。
研究業績
研究資金の獲得
教育への貢献とサポート力
地元シンガポールへの貢献への期待
独自の強みと役割
今後、海外での研究職を考えている方には、こうした点をを意識しながら準備をするのがいいかもしれません。(知らんけど、笑)
しかし、私のこの新しい研究生活はまだまだ始まったばかりです。偉そうな事を言いましたが、まだ何も成していないのです。
これから上の点をさらに確立できるように努力していけたらと思います。
気が向いたら、このAssistant Professorの評価のことについてもnoteを書こうと思います。また興味があれば読んでください。
<<追記>>
こちらに書きました。興味があれば、ぜひ。
