経済が自走する人工世界自律主体・人工市場・社会シミュレーション ── 77のシステム・研究基盤・研究系譜の比較調査

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1. なぜ「経済が自走する世界」の地図が要るのか

大規模言語モデルのエージェントを数十体、数百体と並べて動かす実験が、この二年で急速に一般化した。エージェントに役割を与え、記憶を持たせ、互いに交渉させる。そこまでは、いまや個人の手元でも動く。

だが、そこから一歩進んで「多数の主体が同じ世界に居続け、資源をやりとりし、価格が動き、誰かが儲け、誰かが破綻する」という種類のシステムを作ろうとすると、途端に参照すべき先行例が見えなくなる。マルチエージェントの論文は膨大にあるが、その多くは数十主体・数百ステップの実験であって、世界そのものを持続させる話ではないからだ。

しかし実際には、この種のシステムには三十年の蓄積がある。エージェントベースモデリング(ABM)、人工市場、マクロ経済シミュレーション、都市・交通シミュレーション。そして——最も見過ごされているが——商用ゲームである。

本稿は、その蓄積を一枚の地図にする試みである。「経済が自走する人工世界」に相当する事例を、欧州・米国・東アジアを中心に77件収録し、共通の八つの軸で採点し、地域・類型・公開度で並べた。想定している読者は、マルチエージェント系を設計している技術者、計算社会科学の研究者、そして制度設計や政策のシミュレーションに関心のある社会科学の読者である。

先に結論の一つを書いておく。今回の八軸で経済的な自走度が最も高かった上位10件は、ゲームまたはゲームに近い実装が9件、商用ライセンスが8件を占め、完全なOSSは一件も入らなかった。ただし後述するとおり、この結果は指標の作り方に依存する部分があり、そのまま「学術よりゲームが優れている」とは読めない。

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