打算の檻の外で
「それって、損じゃない?」
昼の光に濡れた声で、彼女は笑った。
唇から零れた言葉は、
まるで鋭い針のように私の胸を突いた。
——損得。効率。数字。
世界を覆う秤の片方に石を積み、
もう片方には心を押し潰す。
けれど私には、別の秤がある。
暗闇の奥で、妖しく光る天秤。
そこに置かれるのは「善」と「悪」だけだ。
断れば、私は楽になれる。
けれど、その顔を思い出すと、
どうしても手を伸ばさずにはいられなかった。
それは呼吸に似ていて、
選ばずにいることの方が、苦しかった。
打算に従えば、私は奴隷になる。
檻の中で、鎖の音だけが響く。
善悪に従えば、たとえ遠回りでも、
檻の鍵は音もなく外れていく。
彼女の言葉がまだ耳に残っている。
だが、私は静かに微笑む。
心の秤の示す方へ。
たとえそれが誰にも理解されなくても。
——檻を越えたところでしか、
ほんとうの夜の呼吸はできないのだから。
