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監視オペレーターという画面の前の戦場。AIなき過酷なIT現場を生き抜いたリアル

IT系のエンジニア、と聞くと、みなさんはどういった印象をお持ちでしょうか。

なんだかパソコンの前に座って、コーヒーを飲みながらのんびり仕事する。必ずしもオフィスにいなくてもいい。

そんな「楽」そうなイメージを持っておられる方も、いるかもしれません。

けれど、実際には末端、下請けの下請けになるほどもっと泥臭く、ミスが許されず、ピリピリして、えげつない。

そんな現実もあります。

実はこんな私も、IT系のエンジニアと称せる仕事を10年以上続けています。
(途中にキャリアブレイクが何度かあるので、連続した10年間ではないかもしれません。)

でもIT系の「エンジニア」も、本当にピンキリなんです。
今日は私の経験をお話します。
ぜひ、皆さんの今の仕事と比べて、少し想像してみてください。

監視オペレーターという「終わらない戦場」

私のキャリアの最初の方には「監視オペレーター」という業務がありました。

これがひどい仕事なんですよね……。

いや、今も続けておられる方には申し訳ない言い方です。
もちろん、もう離れてしまったので、今の業界的にどうなのかは、分かりません。
でも、当時の私の環境では、そうでした。

「監視」って物々しい雰囲気ですよね。

いったい、何を監視するのか。

「IT系」と言っているのだから、IT系の機器です。

サーバーや、ネットワーク。

皆さんがnoteのようなシステムにアクセスするためには、通信が皆さんのご自宅を出て、情報を処理するための「サーバー」が置いてある物理的な「データセンター」まで届く必要があります。

「届いた」だけでは足りません。

「サーバー」で処理したデータを、皆さんのスマホやパソコンに戻して初めて、皆さんの画面にnoteの画面が映ります。

行って、戻ってきて初めて通信として成立する。
だから、「帰り道」も同じくらい重要です。

その間、いくつもの中継地点(ルーターなど)を通ります。

その全てにおいて、安全に通信が保たれる必要があります。

当然、途中のケーブルや機器に問題があれば止まります。

それを守るためにはどうするか。

全てのプロセスを監視して、問題があれば対応する人が必要です。

「インターネットやサービスは一瞬たりとも止まってはならない」とみんなが思っているのですから、24時間365日、必要です。
(業界の人はニーヨンサンロクゴと呼んでました)

これを担う末端の末端が「監視オペレーター」です。

機械や通信経路から出た「アラート」(悲鳴)を見つけて、問題がないか確認し、問題がある場合は方々に連絡して解決を試みます。

私がやっていた当時、監視オペレーターの仕事は多岐に渡りました。

・メールでアラートをチェックする
・発生したアラートが問題かどうかを判断
・問題がある場合は手順書を元に、一次対応を試みる
・故障が発生していると明らかになった場合は、メールと電話で顧客に連絡
・解決しない場合はもっと詳しいエンジニアに電話をかけ続ける
 ※深夜は大体誰も電話に出ません。
・この間、顧客からの問い合わせの電話も取る
 ※故障してる場合は大体「つながりません」の電話が大量に来ます。
・サーバーやネットワーク機器が物理的に故障している場合、データセンターまで駆けつけて筐体交換(力仕事)
・これらの全てを時系列で記録する

これらを、皆さんが「IT系と言えば」で想像するような黒い画面にコマンドを打ったり、データセンターに電話してサーバーのランプの光り方やケーブルの状態などを確認しながら進めます。

もちろんパソコンは使いますが、

ほぼ全部人力で、3人だけのチームで回します。

AIが無い時代でした。

これを見ても、大したことないと思う方もいらっしゃるかもしれません。

確かに1時間に1回これが発生するなら、大した手間ではありません。

でも、当然ながら、いつどこで故障が発生するかは、私たちには選べないんですよね。

監視対象は細かく、数千にも及びます。

たまたま一斉に壊れると、数百のアラートが一気に飛んできて、上記のプロセスを並行してやらなければならなくなります。

だから、営業担当が、「新しい監視案件を取って来た!」と喜んでいても、現場が白ける。同じ組織内で、利益相反が起きるんですよね。

予測不能なタスクが降り注ぐカオス

当然ですが、こんな仕事、一人ひとりが自分の仕事に専念していたらまわりません。

「専念できない」とはどういうことなのか?
一般的なホワイトカラーの人にとって、少し不思議かもしれません。

例えば、誰かが「顧客にメールを書く」ことに専念していたとします。

その瞬間に別のアラートが発生したら?

そっちの方が優先度が高いかもしれないのに「今メール書いてるから後にして」とは言えません。

頭の中では、こう進みたいわけです。

1 Aに関する故障メールを書く
2 誰かにダブルチェックを依頼
3 問題なければ送信する
4 電話連絡もする

少なくとも10分くらいは、これに集中したい。

ここに突然、もっと緊急度の高いかもしれないB、C、Dの故障アラートがどんどん飛んできます。

0 B、C、Dのアラートに問題ないかチェック
0.5 B、C、Dのアラートに問題があったら先に優先度判断のため確認コマンドを打つ

1 Aに関する故障連絡メールを書く
2 誰かにダブルチェックを依頼
2.5 B、C、Dに問題があれば、対応を同時並行で始める
3 問題なければ送信する
4 電話連絡をしながらB、C、Dの対応も進める

といったカオスに陥ります。

一般的な仕事なら「あと10分これに集中した後、確認をする」と出来るのですが、「その10分の間に事態が致命的になる可能性があるのだから、確認を後回しにできない」。

ナースコールが鳴り続けているのに記録作成なんて出来ない状況に、近いかもしれません。

頭の中で

・それぞれの対応にかかる時間
・現時点で見込まれるユーザー影響の範囲と深刻度
・今自分が手で持っているタスク
・周りのメンバーが抱えているタスク

を瞬時に計算して優先順位を変えていきます。

自分がタスクを抱えすぎている場合、仲間に回すとしても、その人の習熟度やスピードなどを考慮して、渡すかどうかを決めなければなりません。手順書の場所から教えないと自走できない人には、回している暇がない。

そもそも3人しかいないので、誰かが現地に駆けつけていたら、オペレーションは2人で回すことになりますしね。

こういう複雑な状況をリアルタイムに見て、状況に応じて妥当と思われる判断を瞬間的に下し続ける必要があります。

人間というより、CPUの仕事です。

さらには、故障発生から10分以内に顧客に連絡するというルールもありました。

10分だとたいてい「なんか起きた」しか分からないわけですが、それでも伝える必要があります。

実は経験則で「多分、今起きてる大規模故障の影響でしょうね」と分かっている場合もあります。けれど、それを顧客に伝える権限は、オペレーターにはありません。

聞き返されても「調査中」としか言えませんので、顧客からはしばしば「何のために連絡してきたんだよ」と言われます。

でも、つながればまだマシなんです。

考えてみれば……。

日中なら誰かは出るかもしれません。

けれど深夜の電話はどうでしょうか?
寝てますよね。みなさん、ふつうに。

繋がらなければ何度も電話しますから、5分おきに電話をかけ続けるという継続タスクがさらに割り込んできます。

※繰り返しますが、AIは無い時代でした。

これを怠ると、後から「1回で出なかったとしても、なんでかけ続けてくれなかったの?」と責められるんですよね。

本音を言えば、

だって、あなたの機械を、専属で監視してるわけじゃないんだもん。
他に優先度の高い故障が起きていたんだもん。

と言いたいものですが、そんなの相手にとっては関係ないですものね。

少し説明しようとして、「忙しいのは分かったけど、それはあなたの事情でしょ?」と言われたこともありました。

相手は、お金を払ってサービスを受けているんですから、そうですね。
言い訳は嫌われますから、謝り続けるしかありません。

さらには、ミスも許されません。

コマンドのミス、機器の取り違え、見逃し、誤判断、メール文面のミス、あて先のミス、電話番号のミス。リスクはいっぱい。

時間はありません。次々故障が起きます。

でもミスは許されません。

ミスが起きた場合、その担当者は責められ、仲間からもちょっと白い目で見られます。皆で再発防止策を考えるため、会議などで説明責任が生じます。当然ですが、会議に出たり、そのための報告書を作る時間なんて、本当はありません。

でも、ミスした人が特別「うっかりさん」じゃない……というのも闇が深いんですよね。

そもそも、こういう超人的な能力が求められる現場では、属人化が進んでいくんです。

もはや「普通の人」は「できない人」。

記憶力があって、
大量の情報を素早く処理できて、
タスクを効率的に捌けて、
状況判断力に優れ、
文章を書くのが早く、
ミスが少なく、
他人のミスも見逃さず、
全体を見て動ける

……人じゃないと、「普通」の仕事すらこなせません。

一人のミスは全員の死活問題なので、お互いに対する目も厳しくなります。

私は「ミスは個人のせいではなく、仕組みのせいだ」と今もよく言います。

実際、そうなんです。

けれど、同じタスクをこなしても、ミス率が高い人と、低い人がいる。

仕組みはすぐには改善できない。

さらにそのミスで、すでに長時間働いた後の他の全員が、毎日3時間も4時間も残業することになるとしたら?

「仕方ない」とは思えても、ずっと変わらない態度でいるのは難しい。

怒号が飛び交う。冷えきったフロアに、舌打ちが鳴り響く。

人間は環境の生き物です。
根性や愛で「優しさ」が維持できない世界はある。

優しくいるためには、優しくいられる「仕組み」が必要です。

ハイパー・マルチタスクモンスターの誕生

時間圧、心理的安全性ゼロ、顧客からのお叱り、予測不能な大量のタスク。

ここに加えて、勤務は12時間続きます。

24時間監視しないといけませんから、12時間ずつチームを変えて勤務すればちょうど24時間カバーできる。

素晴らしい発想ですね。

もちろん、何も起きない日というのも稀にあります。

でも、下手をすると12時間、激しい故障対応が続く可能性があります。その時間働き続けて、人間が1つもミスなくいられるでしょうか?

しかも、12時間できっかり終わる日は稀です。

なぜなら、次のチームへの「引継ぎ」「記録」がどうしても必要だからです。

12時間で勤務が終わる日というのは、その最後の11時間目までにアラートが落ち着いていて、みんなが記録を書く時間があり、引継ぎ項目を引き継ぎ表(本当にExcelマクロで作られた帳簿があった)に書き残せたら…の「理想」に過ぎません。

実際には12時間のうち12時間目に、ちょうど、故障対応に追われている日もあるわけです。悠長に記録や引継ぎどうこうをやっている暇はありません。

何よりも優先されるのは、故障を直すこと、ユーザーや関係者に連絡すること、といった実対応ですから。

だから、12時間経過してもまだ次のチームが交代できず、数時間待機になることもあります。

引継ぎが終わった後に、記録を全部システムに手作業で残すことになります。

記録と言っても、日記や日報としてイメージされる、ざっくりしたものとは違います。

02時07分 アラート発生
02時13分 機器にログインし、確認コマンドを発行(ログ添付)
02時16分 〇〇社員へ荷電(現在調査中とのこと)
02時23分 ユーザーへ荷電(※温度感 お怒り)
02時30分 故障メール送信

全部時系列でパソコンに打ち込みます。

何百件あろうと、全部、タイピングします。

次のチームが引き継がないといけませんし、問題があったら後から振り返る必要がありますから、抜け・漏れ・ミスは許されません。

(あの時、AIさえあれば!)

私たちはこの仕事を、完ぺきに、短時間で、大量の割込みタスクに対応しながらやらないといけませんでした。

これ……読んでいる方、できそうですか?

皆さんの日常に置き換えてみても、なかなか想像を絶する状況ではないでしょうか。
こんな仕事に適応できる人はいない。
私も最初はミスばかりで、怒られていました。

……と思いきや。

始めてから1年後。

私は、コマンドを打ちながら、メールを書き、肩に受話器を挟んで顧客の話を聞きながら、記録も取り、仲間のチェックも同時にこなす、悲しいハイパー・マルチタスクモンスターとして育ってしまいました。

驚きです。

よく分かりませんが、あまりにも過酷で逃げ場もなかったので、脳が全力で適応しようと頑張り、適応してしまったのでしょう。

でも……望んでこんなふうになったわけではなかった。

私はのんびりするのが好きです。

ずっとぼんやりしていたいと思っているのに、自分の能力としては、忙しければ忙しいほど光る。

今は「保守をしない」という条件でプログラマをやっているために、あまり活かす機会はありません。

それでも、大量のタスクを同時進行したり、短い時間で優先順位を決めて的確な判断を下していくこと、ミスや論理的な矛盾を発見するのは、わりとまだ得意です。

「よく気づくね」

しばしば、言われます。

でも、やりたくてやってるわけじゃないんです。
できないと、生き残れなかったんです!
気づきたくないことにも気づく。

そして、私はこの現場をみんなで生き抜くために、空き時間で必死にプログラムを書き、業務効率化ツールを提案し、チームに回そうとし続けました。

その経験が活きて、今現在、プログラマをやっています。

今の私がシステム改善や効率化に心血を注ぐのも、きっとこの経験があったから。

システムを効率化し、少しでも時短に繋がるツールを作り続けることで、事前に準備を整え、大量にタスクが来たときに捌ける量を増やす。

もはやこれは、危機対応として、私の本能にしみついています。

どんな過酷な環境にも、必ず「学び」はある

この仕事を、先輩は

「命を削って働いている」

と称していました。

確かにものすごいストレスと緊張感があり、年末であろうとまとまった休みはなく、深夜・早朝を含む長時間勤務。

若い頃しかできない仕事だったと断言できます。

とはいえ、どんな仕事にもその仕事なりの「大変さ」はありますよね。

考えてみれば、フリーターだった頃にやっていたカラオケ店のアルバイトも、こんな感じでした。

結果の深刻さや仕事の意義は全く違うのかもしれませんが、看護師さんのYouTubeを見ていても、少しだけ共通するところがあるかもしれないと感じます。

つまり、

・ミスは許されない
・オペレーションと顧客対応を同時にこなす
・大量の予測不能な割込みタスク
・深夜早朝を含むシフト勤務

これが一部の飲食・医療・監視で共通する気がするんです。

でも、先輩がよく言っていました。

「俺たちの仕事は、失敗しても人が死なないからさ。まだ気楽よ」

(過労で倒れた人はいましたが)

その点では、看護師さんほどの深刻さはないのです。資格もいりませんから、少しでも共通するかもと言ったのは、失礼だったかもしれませんね。

とはいえ飲食に関しては今ほどシステム化が進んでいなかったので、牛乳やネギが無くなったらスーパーまで走っていました。

サーバーの交換に走るのも、牛乳を買いに行くのと、似たようなものだったかもしれません。

まぁ、牛乳と比べるとサーバーは重いですし、ケーブルの接続もミスできないですし、ケーブリングが「汚い」とか言って怒られます。

交換したとて直るかどうか分からず、ずーっとあのデータセンターの乾いた空気の中、待機。

一方で、牛乳はほぼ確実に買えますし、買い方が汚いとは怒られないので、私の経験の範囲内では飲食の方が気が楽だったかも。

(多忙すぎてビールジョッキを12杯同時に運び、階段から落ちて流血しながら仕事をしていた先輩はいました)


さて、長々と書いてきましたが、4月ですから、新しい仕事に就かれた方も多いと思います。

恐らく、今のIT系監視オペレーターの仕事はもっと属人化が減って、システムも整備され、戦場のような忙しさではなくなっている。

さらに昔はもっと過酷だったかと思いきや、先輩は「そもそも昔はインターネットが繋がらなくなっても、ゴメンで済んでたもんだよ~」と話していました。

私がいた時期がちょうど過渡期で、一番しんどかった可能性があります。

……と信じたいものですね。
きっとそうだと思います。

少なくとも、AIがあれば、大部分の仕事はかなり楽になるはず。

今、AIは「仕事を奪う」という文脈で語られがちですが、こんな過酷な環境では「人を守る」技術になります。

そして今になって振り返ると、あれは私の仕事のやり方や生き方、能力の方向性を決定づける仕事でした。

人間はどんな環境でも、必ず学びを得るものですね。

これから新しい仕事に取り組まれる方へ

どんな仕事でも、今は到底できそうにもないと思っても、なにがしかの学びはあるはずだと、まずは前向きに進んでみてほしいです。

もちろん、無理は禁物ですけど。

成長って、目に見えるほど分かりやすくない。何年も経ってから、意外な形で私たちの道を照らしてくれることがあるんですね。

この経験が、あなたにとって少しでも面白く、そして、何かのヒントになればうれしいです。


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