深淵の大魔道士 第14話「勝ち進む者たち」|創作大賞2026|ファンタジー小説部門|ライトノベル|

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初戦を終えたあと、中央演習場の空気は少し変わっていた。
ラビー・クリステイル班。
そう呼ばれていたはずの四人組は、いつの間にか別の目で見られていた。
ラビーの火力は、誰もが知っている。
ハイネ・ベルセルクが不気味なほど底を見せないことも、初戦で少しだけ広まった。
けれど、観客席のざわめきが本当に拾っていたのは、そこではなかった。
「さっきの作戦、誰が考えたんだ?」
「フラワーって、あんなことできたの?」
「ハイネ、ほとんど動いてなかったよね」
「いや、動いてないのに相手一人落としてたけど」
そんな声が、通路の端々から聞こえてくる。
フラワー・マンディは、胸元の白い花のブローチにそっと触れた。
初戦は勝った。
でも、自分が勝ったという実感はまだ薄い。
地下の排水路を通り、白い花を敵陣クリスタルまで届けた。
必要な一点だけを見て、魔力を流した。
できた。
確かに、できた。
けれどそれは、自分ひとりでは見つけられなかった道だった。
「次の相手が決まりました」
クロエの声がした。
淡い銀灰色の髪。
薄い灰色の瞳。
彼女は組み合わせ表の前に立ち、すでに次の試合相手を見ていた。
「高速機動型のチームです。去年は二回戦敗退ですが、今年はメンバーを入れ替えています。主な勝ち筋は、奇襲によるペンダント破壊」
「ずいぶん詳しいですわね」
ラビーが腕を組む。
「見ましたので」
「いつ?」
「初戦の前です」
「自分たちの初戦前に、他のチームの試合まで見ていましたの?」
「必要そうだったので」
ラビーは少し呆れたように息を吐いた。
「あなた、本当に実技下位ですの?」
「はい」
クロエは淡々と答えた。
「走るのは遅いです。攻撃魔法も弱いです。防御も並以下です」
「そこまで言い切られると、逆に清々しいですわね」
「でも、見ることはできます」
その一言だけ、少し重かった。
フラワーはクロエを見た。
見ること。
自分も、最近ずっとそれを学んでいる。
全部を感じ取るのではなく、必要な一点を見ること。
守りたいものを、最初に間違えないこと。
「第二試合は、速さに惑わされないことが大事です」
クロエは言った。
「相手は、こちらの視線を散らしに来ます」
「散らす?」
フラワーが尋ねる。
「はい。右に二人、左に一人、上に一人。動きを分散させて、こちらに全員を見させる。全部を追えば、必ず遅れます」
その言葉に、フラワーの胸が小さく鳴った。
全部を見るから遅れる。
まるで、自分に向けられた言葉のようだった。
「では、どうすればいいですの?」
ラビーが問う。
クロエは、フラワーを見た。
「守る一点を決めてください」

「一点……」
「自陣クリスタル周辺です。相手はペンダント破壊も狙いますが、本命はおそらくクリスタルです」
「どうして分かるんですか?」
「速いチームは、相手を追わせることで守備を薄くします。全員が個別に動いているように見えて、最後は一箇所へ集まる」
クロエは、指先で組み合わせ表の端を軽く叩いた。
「だから、追わないでください。来る場所を決めて、そこで待つ」
フラワーは頷いた。
怖い。
速い相手を見ないのは、怖い。
でも、全部を見ようとすれば、きっとまた押し流される。
「ラビーさん」
クロエは次に、ラビーを見る。
「あなたは大きな火を撃たないでください」
「先に言われましたわね」
「速い相手に大きな火を撃てば、外れます」
「当てればいいのでは?」
「その発想が、すでに相手の罠です」
ラビーの眉が少し動いた。
「どういう意味ですの」
「あなたは火を使う前に、もう勝った気になっています」
空気が、一瞬止まった。
ラビーの赤い瞳が、クロエを見る。
「……言いますわね」
「事実です」
クロエの声は変わらない。
「強い人間ほど、相手が強さ以外で来ると遅れます」
フラワーは息を呑んだ。
ラビーが怒るかと思った。
けれど、ラビーはすぐには言い返さなかった。
片耳の金朱色のイヤーカフに、そっと触れる。
光の祠で学んだ火。
燃やすためではなく、照らすための火。
「……なるほど」
ラビーは、少しだけ口元を上げた。
「面白くありませんが、聞くだけ聞きますわ」
「ありがとうございます」
「感謝されると、ますます腹が立ちますわね」
クロエは、少しだけ首を傾げた。
「なぜですか」
「あなた、わざとではなく本気で言ってますわよね」
「はい」
ラビーは、小さく笑った。
その笑みには、怒りよりも、ほんの少しの楽しさが混じっていた。
*
第二試合のフィールドは、夕暮れの街路だった。
石畳の道。
低い屋根。
細い路地。
中央に噴水広場。
視界が通る場所と、急に死角になる場所が入り混じっている。
高速機動型にとっては、有利な地形だった。
試合開始の鐘が鳴る。
次の瞬間、相手チームの姿が消えた。
いや、消えたように見えた。
風が走る。

右の屋根の上。
左の路地。
正面の噴水裏。
背後の壁。
魔力反応が一瞬ごとに移動する。
「速い……!」
フラワーは思わず杖を握った。
視界の端で、何かが動く。
追おうとすると、別の場所で気配が跳ねる。
全部を見ようとして、頭の中が白くなりかける。
「フラワーさん」
クロエの声が飛ぶ。
「全部を見るから遅れるんです」
フラワーは息を呑む。
そうだ。
全部を見ない。
守る一点を決める。
フラワーは自陣クリスタルへ意識を戻した。
青白く輝くクリスタル。
その周囲、半径三歩。
そこだけを見る。
水を集める。
噴水の水を細く引き、足元の石畳へ薄く広げる。
白い花の光を混ぜる。
大きな壁ではない。
相手を止める結界でもない。
ただ、そこを通ったものの揺らぎだけを拾う水膜。
「……ここだけ」
フラワーは小さく呟いた。
「ここだけは、見失わない」
水膜の上に、白い花が一輪浮かんだ。
その時、右の路地から風が抜けた。
速い。
目では追えない。
でも、水膜がわずかに震えた。
「来ました!」
フラワーが叫ぶ。
その声より早く、クロエが言う。
「ラビーさん、左前方へ灯火を三つ」
「承知しましたわ」
ラビーは大きな火を撃たなかった。
指先に小さな灯火を灯し、石畳の上へ置く。
ひとつ。
ふたつ。
みっつ。
火は燃え広がらない。
ただ、そこにある。
進路を塞ぐほどではない。
けれど、踏み込めば確実に魔力反応が乱れる位置にある。
高速で走る相手は、それを避けた。
避けた先に、二つ目の灯火がある。
さらに避ける。
その先に、フラワーの水膜があった。
水が跳ねる。
白い花が揺れる。
「見えました」
クロエが静かに言った。
「ハイネさん」
「はい」
自陣クリスタルのそばで、ハイネはほとんど動かなかった。
初級風魔法。
ただ、小さな風を相手の足元に流しただけだった。
高速で踏み込んできた相手の足が、ほんの少し滑る。
ほんの少し。
けれど、それで十分だった。
ラビーの灯火が、相手の退路を照らす。
逃げる方向が一つに絞られる。
そこへ、フラワーの水膜が白い花びらを伸ばした。
絡め取るのではない。
触れるだけ。
ペンダントが、わずかに浮く。
クロエが投げた小さな石片が、そこへ当たった。
ぱきん。
乾いた音が響く。
相手の一人が退場する。
観覧席がざわめいた。
「今の、誰が落とした?」
「クロエ?」
「いや、フラワーが動きを拾った」
「ラビーの火で誘導してたぞ」
フラワーは息を整えた。
まだ試合は終わっていない。
けれど、さっきより怖くなかった。
全部を追わなくてもいい。
守る一点を決めれば、そこに来たものは見える。
「次、上です」
クロエが言う。
ラビーが小さく笑った。
「見えているのですね」
「見える範囲だけです」
「十分ですわ」
ラビーは今度も、大きな火を撃たなかった。
屋根の上に、小さな火をひとつ置く。
その火が、相手の影を照らす。

フラワーは、影の落ちる先へ水を流した。
ハイネは、またほんの少し風を動かした。
クロエは、落とすべき瞬間だけを選んだ。
二人目。
三人目。
最後の一人は、クリスタルへ一直線に突っ込んできた。
本命だった。
フラワーの水膜が大きく震える。
「っ……!」
支えきれない。
一瞬だけ、全部を守ろうとした。
水膜が広がりすぎる。
輪郭が崩れる。
「広げないでください」
クロエの声。
「一点です」
フラワーは唇を噛んだ。
自分の水膜を縮める。
怖い。
周囲が見えなくなる。
でも、見なくていい。
クリスタルの前。
たった一歩。
そこだけに、白い花を咲かせる。
相手の足が、その一歩に触れた。
水が沈む。
白い花が浮かぶ。
相手の速度が、一瞬だけ落ちた。
ラビーの灯火が、その横顔を照らす。
ハイネの風が、ペンダントの紐を揺らす。
クロエの石片が飛ぶ。
ぱきん。
試合終了の鐘が鳴った。
第二試合、勝利。
フラワーはその場に膝をつきそうになった。
けれど、倒れなかった。
胸元の白い花のブローチが、かすかに温かい。
「できた……」
「できましたね」
クロエが言った。
「全部ではなく、必要な一点を守れていました」
フラワーは顔を上げる。
クロエはいつも通り無表情だった。
でも、その声は少しだけやさしかった。
「ありがとうございます」
「礼を言うのは早いです」
「え?」
「次があります」
ラビーが笑う。
「まったく、余韻を楽しませてくれませんのね」
「余韻で勝てる試合はありません」
「本当にそういうところですわ」
*
三戦目は、攻撃特化型のチームだった。
フィールドは、開けた岩場。
隠れる場所は少ない。
遮るものも少ない。
つまり、見えている攻撃が、そのまま届く。
開始前から、相手チームの魔力は荒く膨らんでいた。
火。
雷。
岩。
風。
それぞれの属性は違う。
けれど、狙いはひとつだった。
先に削る。
先に壊す。
相手が考える前に、押し切る。
正面から魔法が飛び交う、単純で危険な地形。
ラビーの赤い瞳が、ほんの少し燃えた。
「こういう相手の方が、分かりやすいですわね」
分かりやすい相手だった。
そして、分かりやすいからこそ、ラビーの中の火が、いつもの癖で前に出ようとしていた。
「分かりやすい相手ほど、雑に勝とうとしないでください」
クロエがすぐに言った。
「またですの?」
「またです」
「本当に、あなたは私に厳しいですわね」
「強い人には、強い人用の注意が必要です」
ラビーは一瞬だけ黙った。
それから、ふっと笑う。
「それは、少し悪くありませんわね」
試合開始の鐘が鳴る。
直後、相手の火炎弾が真正面から迫った。
大きい。
速い。
そして、粗い。
いつものラビーなら、迷わず上から焼き潰していた。
それが一番早い。
それが一番分かりやすい。
同じ火で、より強く。
同じ正面で、より高く。
その方が、ラビー・クリステイルらしい。
けれど、指先に集まりかけた炎を、ラビーは握りつぶすように小さくした。
燃やすためではない。
照らすための火。
光の祠で教わったものが、まだ胸の奥に残っている。
「フラワーさん、足場を」
「はい!」
フラワーは岩場の割れ目に水を流した。
そこへ白い花を一輪だけ咲かせる。
水花の足場。
一瞬だけしか保たない。
踏み外せば、崩れる。
火炎弾の熱で、花びらの端が焦げる。
でも、一瞬あれば十分だった。
ラビーはその足場を踏み、横へ移動する。
火炎弾が、彼女のいた場所を通り過ぎた。
岩が爆ぜる。
熱風が髪を揺らす。
ラビーは振り返らなかった。
大きな火を撃たず、小さな灯火を相手の足元へ置く。
相手はそれを踏まないように避ける。
避けた先に、クロエの読んだ隙がある。
「右から二番目、防御に戻るのが遅いです」
クロエの声。
「見えましたわ」
ラビーは小さな火球を放った。
派手ではない。
大きくもない。
けれど、相手のペンダントへ正確に届いた。
ぱきん。
一人退場。
相手チームの攻撃が乱れる。
「攻撃しか見ていない相手は、防御に戻るタイミングが遅い」
クロエは言った。
「攻めている間は、自分が崩されると思っていません」
その言葉に、フラワーは小さく息を吸った。
守るだけではない。
攻めるだけでもない。
見るべきなのは、その切り替わる一瞬。
そこに、小さな花を咲かせる。
二撃目。
今度は岩槍が三本、地面を抉りながら伸びてきた。
フラワーは思わず水膜を広げかける。
止めたい。
そう思った瞬間、白い花の水膜が大きくなりかけた。
全部を守りたい。
飛んでくるものを、全部止めたい。
けれど、それでは遅い。
それでは、また全部を見ようとしてしまう。
「フラワーさん」
クロエの声が、短く飛ぶ。
「正面ではありません。足元です」
フラワーは息を吸った。
守るのは、全部ではない。
ラビーが次に踏む場所。
ハイネの風が通る場所。
クロエが指示を出すための視界。
その三点をつなぐ、ほんの細い線。
フラワーは岩場の割れ目へ水花を浮かべた。
ラビーはそれを踏み、静かな火で進路を照らす。
ハイネは、最低限の風だけで相手の軌道をずらす。
岩槍の一本が、わずかに角度を失う。
もう一本が、空を切る。
最後の一本は、ラビーの灯火が置かれた場所を避けるように曲がった。
その先に、隙ができる。
クロエは、落とすべき順番だけを選ぶ。
二人目。
相手の表情が変わった。
攻撃しているはずなのに、削られている。
押しているはずなのに、足場を奪われている。
焦りが、魔力を荒くする。
「次、中央」
クロエが言った。
「今度は雷です」
最後方の相手が杖を掲げる。
雷光が走った。
観客席がどよめく。
威力は高い。
けれど、狙いが粗い。
フラワーは白い花の水膜を正面に広げかけた。
受け止めたい。
そう思った瞬間、クロエの声が飛ぶ。
「止めなくていいです。逸らしてください」
「はい」
フラワーは息を吸い、水膜を斜めに立てた。
真正面から受けない。
流す角度だけを作る。
雷光が当たる。
水膜が激しく震え、白い花びらが散った。
けれど雷光は正面へ抜けず、横へ流れる。
その先に、ラビーの灯火があった。
小さな火が、雷光の軌道を照らす。
「ハイネさん」
クロエが言う。
「少しだけ」
「少しだけなら」
ハイネは黒い魔導書を抱えたまま、眠たげに指を動かした。
小さな風が吹く。
雷光の角度が、ほんの少しだけ変わる。
雷光は、相手の自陣クリスタル横の岩壁を砕いた。
衝撃で、防御術式が揺れる。
「今です」
クロエが言う。
フラワーの白い花が、地面を伝って届く。
ラビーの小さな火が、クリスタルの表面だけを焼く。
ハイネの風が、散った花びらを押し出す。
花びらが、クリスタルの亀裂に触れた。
ぱきん。
試合終了の鐘が鳴る。
三戦目も勝利。
一瞬、会場は静かだった。
それから、観覧席が大きくざわついた。
ラビーが勝つのは分かる。
でも、その勝ち方が違う。
火力でねじ伏せるのではなく、相手の動きを誘導し、必要な一点だけを焼く。
フラワーが守るのは分かる。
でも、その守り方が違う。
大きな壁を作るのではなく、必要な場所にだけ花を咲かせる。
ハイネは相変わらず、ほとんど何もしていないように見える。
でも、なぜか要所で相手の軌道がずれる。
そして、クロエ。
彼女は派手な魔法を使わない。
走らない。
撃たない。
守らない。
ただ、見ている。
それなのに、試合全体が彼女の言葉で動いているように見えた。
*
試合後。
控室に戻る途中、フラワーはクロエの隣を歩いていた。
「クロエさん」
「はい」
「私、今日少しだけ分かった気がします」
「何をですか」
「全部を守ろうとすると、かえって遅れること」
クロエは少しだけ目を伏せた。
「はい」
「でも、全部を捨てるのとは違うんですよね」
「違います」
クロエは、足を止めた。
通路の窓から、夕方の光が差している。
「全部を捨てろとは言っていません」
その声は静かだった。
「最初に守る一点を間違えるな、という話です」
フラワーは、その言葉を胸の奥にしまった。
最初に守る一点。
それを間違えなければ、後から守れるものが増える。
間違えれば、最初から全部崩れる。
「クロエさんは、いつもそうやって見てるんですか?」
「いつもではありません」
「じゃあ、試合の時だけ?」
クロエは、少しだけ遠くを見るような目をした。
「たぶん、昔からです」
「昔から……?」
「よく分かりません。でも、物事の流れが、少しだけ先に折れて見えることがあります」
フラワーは首を傾げた。
「先に、折れる?」
「この道を選べば、次にここで崩れる。ここを残せば、後で救える。そういう分岐のようなものです」
クロエは淡々と言った。
「見えているというより、避けられない違和感に近いです」
その言葉を、少し離れた場所でメルスティンが聞いていた。
銀の懐中時計を手に、通路の影に立っている。
クロエは気づいていない。
けれど、メルスティンの表情から、いつもの軽さが消えていた。
「……兄さん」
誰にも聞こえないほど小さく、メルスティンが呟く。
クロノス。
十五歳で魔法理論の歴史を書き換え、時空の向こうへ消えた兄。
物事の流れを、線ではなく分岐として見ていた人。
似ている。
あまりにも、似ている。
けれど、メルスティンはすぐに首を振った。
ありえない。
そう思おうとした。
思おうとして、できなかった。
その時、クロエがふと窓の外を見た。
夕方の空を、記録水晶の光が反射している。
その瞳に、ほんの一瞬だけ銀色の輪が浮かんだように見えた。
メルスティンの指が、懐中時計の蓋を強く押さえる。
「……まさか」

声にはならなかった。
けれど、その疑念はもう消えなかった。
クロエはフラワーへ向き直る。
「明日からは、少し嫌な戦いになります」
「嫌な戦い?」
「次の相手は、生成魔道具の使用申請チームです」
フラワーの胸が、小さくざわついた。
生成魔道具。
その言葉を聞いた瞬間、なぜか、温度のない火を想像した。
「生成魔道具……」
「はい」
クロエは頷く。
「強いです。合理的です。そして、たぶん人間を見ません」
その言葉に、フラワーは胸元の白い花のブローチを握った。
ラビーも少し離れた場所で、その言葉を聞いていた。
片耳のイヤーカフが、静かに灯る。
ハイネは黒い魔導書を抱えたまま、眠たげに立っている。
けれど、その指先は、表紙をいつもより少し強く押さえていた。
「生成魔道具、ですか」
ハイネが低く呟く。
「嫌な予感しかしません」
「ハイネさんの嫌な予感は当たりますの?」
ラビーが尋ねる。
「わりと」
「最悪ですわね」
「はい。最悪です」
フラワーは、不安を飲み込んだ。
でも、目は逸らさなかった。
全部を見る必要はない。
でも、最初に守る一点を間違えてはいけない。
次に来る戦いは、きっと今日までとは違う。
勝つだけでは、足りない戦いになる。
クロエは組み合わせ表を見つめていた。
その灰色の瞳には、夕方の光が淡く映っている。
「ここからです」
彼女は静かに言った。
「この大会が、ただの試合ではなくなるのは」
第15話へつづく。
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