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短編小説「さりとてロックチューン」

いつだって、始まったものは終わる。
時間は止まらない。

『ソラニン』のイントロ、ギターのワンストロークだけが響く。
澄んだクリーントーンだ。祐介の音作りにはいつも感嘆する。

そこにドラムの8ビート。正確なバスが打ち込まれる。
大地のリズムキープはこのバンドの屋台骨だ。

俺の仕事は、ベースで曲を支えボーカルで音色を飾り付けること。
いつだってそれは変わらない。

これが文化祭だろうと、
俺たちの最後のライブだとしても。

なんてことない。
どこにでもある学生バンドが受験を機に解散する。それだけ。
2年後、これを聞いている奴らの何人が俺らを覚えているだろうか。
10年後、俺らはどれだけこのバンドを思い出としているだろうか。

イントロが終わる。
やけに冷たい空気を一気に吸い込んだ。

「さりとてロックチューン」

Aメロは淡々と歌うのが大事。
低めのメロディを掬い上げるように、丁寧に。

「なあ、お前はどうすんの?」
ふと、祐介の問いを思い出した。
「俺は大学いって軽音続けようと思うんだけどさ。お前やんねえの?」
あの時、確か俺は答えを濁した。

バンドは楽しい。音楽は好きだ。
でも、それはこのメンバーだったからなんじゃないか。
新しいバンドに入ったら、こいつらとの活動をただの履歴にしてしまうようで怖かった。

Aメロの途中に入る16小節の間奏。
祐介はのびのびとリフを奏でている。ピックの上下に合わせて音が踊る。

「出したい音を出せるって気持ちくね?」
そう言って最初にバンドの提案をしたのは祐介だった。
遅刻が多かったり金遣いが荒かったり、困らされたこともあったが。出したい音にこだわって、何時間も悩んでいる姿を俺は知っている。

やりたいことをやるためには強さがいる。
俺も、ああなれたら。

Bメロ、リズムが少し変化する。
フィルからビートチェンジ。さすが大地、安定感のあるプレイングだ。

こんなレベルの奴が音楽をやめるだなんて、やっぱりもったいない気がする。

「俺、就職するから音楽辞めるわ」
唐突にそう告げられた時は心底驚いたし、祐介と二人がかりでさんざん引き留めた。

「二兎を追う者は一兎をも得ず、っていうからさ」
大地はその一点張りだったが。

それだけ、音楽に対して真摯でいる証なのだろう。
部活や友達、今しか送れない青春の日々。
それらに脇目もふらずドラムに打ち込んでいた大地。
だからこそ、中途半端に続けるのは許せないのだろう。

大地の演奏は一朝一夕でできるものではない。
何年も練習して、何回も折れそうになって。
それでも続けてきた人間の、実直なサウンド。

それをこうも簡単に手放せるものわけがない。
きっと、血反吐吐くほど迷ったはずだ。

好きなものを手放すには覚悟がいる。
俺に、それがあるだろうか。

そんなことお構いなしと曲はサビに入る。
主メロが1オクターブ跳ねて、声が上擦る。
ギターとドラムが疾走感を増して捲し立てる。
俺は。

このサビが終わったら間奏、Cメロ、そしてラスサビ。
音楽は止まらない。
ずっと先にあった「終わり」がすぐそこでうるさい。
その先なんて、何も決まっちゃいないのに。
続ける強さも手放す覚悟もない。
ギターが、ドラムが、俺を置いていくような。
俺は、どうしたら。

再びギターのストロークだけが響く。間奏。
ベースから手をおろす。
曲はあと2分と少し。このバンドも同義。

諦念と執念のどっちつかずの気持ちが湧いてくる。
追いやるように、祐介と大地の方を見た。

2人は目を瞑っていた。
祐介はあらん限りの表現をするためだろうか。
大地は少しでも後悔を残さないためだろうか。
目は合わない。
音に、今に集中している。

Cメロが熱量を帯びていく。
この演奏は、このバンドは今だけだ。
踊るようなアルペジオ、響くバスドラム。
今だけなんだ。
今しか味わえないんだ。
今なら楽しめるんだ。

力が入る、でも丁寧に。
惜しむように、手向けのように。
笑うように、凱歌のように。

パッと目が合う。
やっと音が揃ったようだ。
待たせたな。

ラスサビ。
オクターブ跳躍はがなりすぎたか?
いや、これでいい。
走ってはいないか、足並みは揃っているか。
ベースとして支えろ。
ボーカルとして飾れ。

だから、かましてやれ。
あんだけこだわってただろ。
あんだけ悩んできたんだろ。

俺のことなんて後でいい。
何も決まっちゃいない。先のことなんて分からない。

それでも、
音楽は止まらない。
時間は止まらない。
なら、
今、この瞬間。
迷いも後悔も期待も歓喜も。
余すな、残すな。
追い越していけ。

出し切れ!!!

声がはち切れる。
呼応するようにギターが激しさを増して、ハイハットが切迫感を醸し出して、アウトロ。

止めるな、止めるな。
何も止まらない、音楽も時間も俺らも。

呼応するように加速して、汗が光って。
目が合って、笑って。

曲が終わった。

(1,924文字)



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