京都・白川町商店街の魔女【13】
13 運命はなんとなくで決まるらしい
お店を訪ね、感想文を、本と一緒に師匠へ渡す。
「ありがとうございました。一枚目がまとめで、二枚目と三枚目が一応、細かい感想です。ちゃんとは書けてませんが、正直な気持ちを書きました」
「お疲れさん、おおきに。この感想文、もろてええの?」
「はい、自分用にコピー取ってますから」
「フフッ、そうなんや。楽しみ。じっくり堪能させてもらうわ」
「いや、ほんとに、きちんとした感想文になってなくて」
「ミサキちゃん、私がきちんとした感想文書いてって言うた?」
「……言うてないです」
「やんなあ。別に本を売るための宣伝文書いてるんやないんやし、純粋にミサキちゃんが感じた事を知りたかっただけやから。正直な気持ちを読ませてもらえるんは、何より嬉しい事なんよ」
「……はい。ちゃんとはしてませんが、それが今の私です。えっと、楽しんでください」
「あははは、ありがとう。楽しませてもらいます。ほな、行こか」
最近の師匠のお気に入りはソフトクリーム。
バニラと抹茶のミックスソフトを食べながら、いつものように2人で商店街を散歩する。
ソフトクリームは、暑さで大急ぎで食べないとすぐ溶けてしまう。
ふと、シャーシャーという金属音が聞こえてくる。岩真さんの研ぎの音は、鋭過ぎることはなく軽やかで、楽器の演奏のようにも思える。
遠くでかしわ屋の女将さんの「お帰りィ、今日は学校どやった?」と子供達にかける声がする。
人々の話し声、車のエンジン音、蝉の声、額から流れ落ちる汗、通路から立ち登るムワッとした熱気。
埃だらけのシャッターが閉まった、閉店して年月が経った店の姿。
そして「……あそこも近々閉めはるらしいで」「跡継ぎさん、いはらへんもんなあ。寂しいなるなぁ」「ほんまになあ」と話す地元のおばあさん達の会話……。
何ともいえない、懐かしさと切なさが同時に胸に迫る。
師匠が話しかけてきた。
「残りもあとひと月やね。今、どんな気持ち?」
「あっという間の二月でした。ありがとうございます。正直、今の生活は楽しいです。でも、真剣に次の仕事をどうするかを決めていかないと、という焦りもあります」
「そやねえ。それを考えつつ、最後の課題もがんばってや。今こうして過ごしている時間は唯一無二の、大事な時間やもん」
「唯一無二……」
「そう。よく言うやん、過ぎた時間は戻らない。ほんまに時間が流れて過ぎ去るものなのか、未来へと戻るものなのかはわからんけど、二度と通れない一度きりの道、みたいなもんやと思う。だから、大切に味わいましょ」
ほんまに時間が流れて過ぎ去るものなのか、未来へと戻るものなのかはわからない。いや、何言ってるのか、本当にわからない。
でも、時間やこの瞬間が大事なのはわかる。
ずっとこうしていたいような気持になるけれど。
残りはあと一月なのだ。
「はい、大切に、しっかり味わいます。ところで、最後の課題って、なんですか?」
「フフフフッツ、有終の日を飾るのに相応しい、最高にスペシャルなものを考えたわよ」
師匠は、例のニヤッとした悪役顔を見せた。
ちょっと怖い。
「スペシャルって、何か怖いです」
「怖い事に挑戦するのって、ある意味、冒険に飛び出すって事と同じでしょ? ええやんか。お手軽に冒険できるなんて幸せじゃない」
「冒険……」
「そうそう、勇者気分でトライしてみて」
商店街のアーケードが終わり、もうしばらく歩き続けて、白川に行き着いた。
一つだけあるベンチに腰掛ける。
太陽がギラギラと照りつける。
「ミサキちゃん、一つだけ質問受け付けるわ。暑いし、手短にね」
「質問……あ、じゃあ、聞きたいです。なぜ、私を弟子にしてくれたんですか? なぜ、無償で色々お世話してくださるんですか?」
師匠はしばらく無言で川の流れを見つめてから、急に顔を私の方へ向けた。
「ミサキちゃん、運命を信じる?」
静かで、でも力強い声と瞳だ。
突然だったので、うまく返事ができない。
「え、あ、そうですね。……まあ、なんとなくは……」
「そう、それ。なんとなくよ。私もなんとなく、あなたを弟子にしたの」
「ええっ? どういう事ですか?」
つい、大きな声を出してしまった。
「だから、明確な理由なんてないの。弟子が欲しかった訳でもない。あの日、あなたに出会って、話をして、手を握って。フッと思ったの。この子を弟子として、しばらく一緒にいられたら、面白そうだなって」
「そんな理由で……? そんな事あります?」
なんとなくで、突然私を弟子にしたの?
何のメリットもないのに?
何故?
全然訳がわからない。という私を気にもせず、師匠は続ける。
「他の人は知らんけど、私はたまに、そういう事あるねん。その瞬間に生まれる、確信めいた強い感情。そして、感じる未来の姿。私は、ミサキちゃんとこうして、2人で白川にいる情景が見えた」
「ええっ! それって、予知能力ですか?」
「そんなたいそうなもんやあらへん。ただ、多分そうなるんやろうなって、感じるだけ。だから、まあ理屈じゃない。そういう事もある。そう覚えておいて」
「理屈じゃなくて、そういう事もある……。師匠の言葉で、こんなにびっくりしたのは、久しぶりです」
「びっくりしたん? アハハハ、それは良かった」
「どうして良かったんですか?」
「びっくりするのは、未知との遭遇だから。ミサキちゃんは、また一つ世界を知れた。その手伝いができて私も嬉しい」
そう言って笑った師匠は、いつもの無垢な笑顔でもなく、悪人顔でもなく、少し悲しげな、私を通して遠くをみているような、見た事のない表情をしていた。
私はつい、師匠の手をつかんだ。
どこかへ、連れて行かれてしまうように感じたから。
セミの声や白川のせせらぎの音が、一瞬止まった気がした。
しばらく、私たちは無言で見つめあった。
それから、師匠はニヤッといつもの笑いを見せた。
「そろそろ、戻ろか。夏好きの私でも、さすがに暑い」
音が、感覚が、フッと戻ってきた。
私はつかんでいた手を、そっと離した。
「はい、私も熱中症になりそうです」
そう言って、2人でお店へと戻った。
言葉でははっきり言えないけれど、今日、私はとても大切なことを学んだのだと思う。
そして、季節ってこうして移り変わるんだと、肌で感じた。
常に何かが、私達が気づいていてもいなくても、少しずつ変わっているのだと。
~続く~
お読みいただき、おおきにです(^人^)
イラストはAIで生成したものを使っています。
次話⇩
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【この物語について】
失恋して痛みを抱えた20代の女性が、レトロな商店街で「魔女いてます」の看板をみつけて、物語が動き出します。自称魔女からだされる様々な課題をこなし、商店街の個性的な店主達と交流する内に、癒され成長していく『まったりスポコン系シスターフッド』のお話です。
【こんな方におすすめ】
🟢毎日何だかしんどい、心をデトックスしたい
🟢ちょっとお節介な年上の先輩に背中を押してほしい
本作は、主人公の成長譚であると同時に、私的な『実在する大好きな場所を頼まれてもいないのに勝手に物語で応援する実験』でもあります。懐かしい商店街と地域コミュニティをご体感いただいた後は、ぜひおうちの近くの商店街でお買物を👍
⏩️京都東山の某商店街をモデルにさせてもらいましたが、内容は完全創作です。現実の店舗、存在と一切関係はございません。ご理解の程宜しくお願い致します。
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