#13 睡眠の質を下げる意外な習慣ーー第2章 メカニズム編
◼️|#13 睡眠の質を下げる意外な習慣
第2章 メカニズム編
「睡眠を大切にしなければ」と、ほとんどの人はわかっています。
でも、何が睡眠を妨げているかは、意外と氣づいていないものです。
スマートフォンやカフェインが、
睡眠に良くないことは、多くの人が知っています。
でも、「まさかこれが?」と思うような習慣が、静かに睡眠の質を下げていることがあります。
前回(#12)では睡眠のメカニズムを解説しました。
今回は「何が睡眠を妨げているか」を具体的に見ていきます。
知識として知るだけでなく、
「今日から変えられること」として受け取っていただけると幸いです。
ただし、最初にお断りしておきます。
これは「全部やれ」という話ではありません。
自分の生活の中に当てはまるものがあれば、
そこから一つ変えてみる。まずはそれだけで十分です。
◼️|習慣1|寝る直前までスマートフォンを見る

これについては、すでにご存じの方も多いと思います。
でも、「なぜ悪いか」を知っている人は少ないかもしれません。
✔︎ 問題はブルーライトだけではありません。
✔︎ スマートフォンのコンテンツそのものが、脳を覚醒させます。
SNSのタイムラインを流し見するとき、
脳は情報を次々と処理し続けています。
新しい投稿、感情を動かすニュース、既読への返信、いいねの数——これらは小さな刺激に見えて、脳の報酬系(ドーパミン回路)を繰り返し刺激します。
脳が「もっと見たい」という状態のまま布団に入っても、交感神経は高ぶったままです。目を閉じても、頭の中でコンテンツがリプレイされます。
加えて、ニュースやSNSには「心配の種」が無数に転がっています。就寝前にそれらを取り込むと、#9で扱ったデフォルトモードネットワーク(DMN)が「反芻モード」で動き続け、深睡眠への移行を妨げます。
スマートフォンを寝室に持ち込まないことが理想ですが、簡単でなければ就寝30分前から「見ない」だけでも変わります。目覚ましとして使っているなら、安価な置き時計に替えることを考えてみてください。
◼️|習慣2|寝る前の「少量のお酒」でリラックスする
「お酒を飲むと眠れる」という方は多くいます。間違いではありません。アルコールには鎮静作用があり、入眠を早める効果があります。
しかし、前回も触れたように、アルコールは睡眠の後半に大きなダメージを与えます。
アルコールが代謝されると、アセトアルデヒドという物質が生じます。これが脳を覚醒させ、深睡眠を分断し、レム睡眠を減らします。
「飲んで寝たのに夜中に目が覚めた」「朝早く目が覚めてしまった」という経験は、まさにこの現象です。
少量であれば問題が小さいと思われがちですが、
アルコールが完全に代謝されるまでには時間がかかります。
体重60kgの人がビール1缶(350ml)を飲んだ場合、完全に代謝されるまでに約3〜4時間かかるとされています。
就寝1〜2時間前の「寝酒」は、睡眠の後半に影響が出やすいです。
「お酒なしでは眠れない」という状態が続いているなら、それは睡眠の問題ではなく、依存のサインかもしれません。
睡眠の質を上げたいなら、まず寝酒を手放すことが大きな一歩になります。
◼️|習慣3|週末に「寝だめ」をする
平日に削られた睡眠を、週末にまとめて取り戻そうとする。その氣持ちはよくわかります。
しかし、「寝だめ」には副作用があります。
体内時計は、毎日ほぼ同じ時間に起きることでリズムを維持しています。週末に2〜3時間遅く起きると、体内時計がずれます。
月曜日の朝、眠れない・眠くて起きられない
——「社会的時差ぼけ(ソーシャル・ジェットラグ)」と呼ばれる状態です。これは文字通り、時差ぼけと同じメカニズムです。
体内時計がずれると、
コルチゾールの覚醒リズムもメラトニンの分泌タイミングもずれます。月曜日から疲れている、という状態の一因がここにあります。
睡眠負債を返すための「補充睡眠」は、
起床時間を変えずに「早く寝る」方向で行う方が、体内時計へのダメージが少ないです。
週末の朝、いつもより30分〜1時間程度の延長なら影響は小さいとされていますが、2時間以上の差は体内時計を乱しやすくなります。
◼️|習慣4|夜遅くに食事をする
消化活動は、カラダにとって「仕事」です。
胃腸が活発に動いているとき、カラダは完全な休息モードに入れません。
就寝の2〜3時間以内に食事をすると、
消化のために体温が上がりやすく、深睡眠への移行が妨げられることがあります。
また、夜遅い食事は血糖値を上げ、インスリンが分泌されます。血糖値の変動は、睡眠の分断につながることがあります。
介護や家事を抱えている方は、
自分の食事が後回しになり、夜9時・10時になってようやく食べる、という生活になりやすいです。
構造的な問題なので「早く食べてください」と言うのは簡単ではありませんが、その食事が睡眠の質に影響していることは、頭に入れておいていただければと思います。
可能であれば、
・夜遅くなる日は軽めに済ませる、
・消化に良いものを選ぶという工夫が助けになります。
豆腐、お粥、温かいスープなど、胃腸への負担が少ないものが目安です。
◼️|習慣5|寝室を「多目的な空間」にしている
脳は「場所と行動」を結びつけて記憶します。
仕事をする場所、食事をする場所、眠る場所——これらが分かれていると、その場所に入るだけで、脳は「次に何をするか」を準備し始めます。
しかし寝室で、スマートフォンを操作し、仕事のメールを確認し、テレビを見て、ベッドで横になりながら本を読む——これを繰り返すと、脳は「ベッド=眠る場所」という結びつきを作れなくなります。
ベッドに入っても脳が「ここは眠る場所なのか、活動する場所なのか」と混乱してしまいます。
これは「刺激制御法」と呼ばれる不眠の認知行動療法の基礎にある考え方で、エビデンスの積み重ねがあります。
理想は「寝室は眠るためだけに使う」ですが、ワンルームや家族と同室の場合は容易でないこともあります。
その場合でも、「ベッドに入ったらスマートフォンを触らない」というルールだけでも、脳の学習を助けます。
◼️|習慣6|「眠れない」ことを氣にしすぎる
これはあまり知られていませんが、非常に重要な習慣です。
眠れないとき、「また眠れない」「明日が辛くなる」「どうして眠れないんだろう」と考え始めると、その不安そのものが交感神経を高ぶらせ、さらに眠れなくなります。これを「睡眠への過覚醒」または「眠れないことへの恐怖」と呼びます。
慢性的な不眠の多くは、
最初の「眠れなかった体験」に続いて、
「また眠れないかもしれない」という不安が加わることで維持・悪化します。
眠れないこと自体より、
眠れないことへの恐怖が問題を長引かせることがあります。
眠れない夜があっても、
1〜2日で大きく健康が損なわれるわけではありません。
「今夜眠れなくても大丈夫」と思えることが、皮肉にも眠りへの近道になることがあります。
布団の中で30分以上眠れないとき、
無理に横になり続けるより、
一度起きて暗い部屋で静かに過ごし、眠氣を感じたら再び横になる
——この対処が、慢性不眠の認知行動療法(CBT-I)では推奨されています。
「眠れないなら起きる」という逆説的なアプローチが、脳の「ベッド=眠る場所」という結びつきを守るためにも有効とされています。
◼️|習慣7|カラダを動かさない日が続く
「疲れているから運動しない」という判断は、一見合理的に見えます。
しかし、適度な身体活動は睡眠の質を高めることが、多くの研究で示されています。
運動によって深部体温が上昇し、
その後の放熱が深睡眠を促します。
また、運動は「アデノシン」という眠氣を生み出す物質の蓄積を助け、夜に自然と眠りへ向かう流れをつくってくれます。
一方、カラダをまったく動かさない日が続くと、
「カラダが疲れていないから眠れない」という状態になりやすいです。
特に座り仕事やデスクワーク中心の生活では、脳は疲れていてもカラダは疲れていない、というアンバランスが生じやすくなります。
激しい運動は、就寝3時間前までに終えることが推奨されますが、夕方の軽いウォーキングや、就寝前のストレッチ程度なら睡眠を妨げないことが多いです。
「疲れているから動けない」ではなく「少し動いた方が眠れる」という逆説を、頭に入れておいていただければと思います。
◼️|著者より
術後の約25年間、15分に1回、痛みで起きるのが当たり前でした。長く眠れても、2時間。
痛みで目が覚める。
処置でさらに目が覚める。
眠たいのに、眠れない。
ずっとそんな状態でした。
最初の数年は、「早く眠ろう」「早く寝なきゃ」という思いがものすごく強かったのですが、眠れないものは眠れない。と、最終的には開き直って、「寝なくていいや」と思うようになりました。
だから、上記の|習慣6|「眠れない」ことを氣にしすぎるは、僕の実体験そのものです。
習慣6 では、一度起きて暗い部屋で静かに過ごすことを推奨しましたが、僕自身は、眠れないとき、暗い部屋で横になりながら、テニスボールで背中やお尻を丁寧にほぐすことをしています。
そうすると、いつの間にか眠っていることが多い。
だから、「Online Program 呼吸と姿勢」のメンバーや、セミナー参加者にも、眠れないときには、この方法をお勧めしています。
睡眠は、「早く寝よう」「早く寝なきゃ」と思うほど、眠氣は逃げていきます。
開き直る。そして、ほぐす。
それが、眠りへの近道だということを、長い試行錯誤の末に学びました。
◼️|眠れない夜は、眠ろうと頑張るより“ほぐす”
眠れない夜に必要なのは、
「早く寝なきゃ」と自分を追い込むことではありません。
大切なのは、
開き直ること。
そして、「ほぐす」こと。
そして、日常で、眠れるカラダの状態を、
少しずつ作っていくことです。
睡眠は、布団に入ってから急に始まるものではありません。
日中の姿勢、呼吸の浅さ、
カラダの緊張、情報の浴びすぎ、
動かなすぎ、疲れているのに力が抜けない状態。
そうした日常の積み重ねが、夜の眠りに影響しています。
だからこそ、眠れない夜だけを何とかしようとしても、うまくいかないことがあります。
「Online Program 呼吸と姿勢」では、
呼吸・姿勢・ほぐし・ストレッチ・体幹・バランストレーニング・その場ウォーク・日常動作の見直しを通して、
カラダが自然に休息へ向かえる土台を育てていきます。
眠れない夜に、氣合いで眠ろうとするのではなく、
カラダをゆるめ、呼吸を戻し、安心して眠りに向かえる状態をつくる。
睡眠を「意志の問題」にしない。
眠れるカラダを、日常から育てていく。
そのための実践の場が、
「Online Program 呼吸と姿勢」です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
「睡眠を大切に」と思っていても、眠れない夜が続くと、どうしても「自分が悪い」「ちゃんと寝られない自分がダメ」と思いやすくなります。
でも、睡眠は意志だけで変えるものではありません。
日中の過ごし方、夜の習慣、カラダの緊張、呼吸の浅さ。
その積み重ねが、眠りに影響しています。
知識を増やすためではなく、「一つだけ、今日から変えてみよう」と思ってもらえれば、それで十分です。
このシリーズは、全57本。
読んでくださっているあなたの存在が、
書き続ける力になっています。次回も、よかったら一緒に。
◼️|次回(#14)|体内時計の仕組み——なぜ朝型・夜型が生まれるのか
朝が苦手なのは意志の問題ではないかもしれません。時間生物学の視点から、疲労と睡眠の関係を掘り下げます。
◼️|この記事が役に立ったと感じていただけた方へ
このシリーズは全57本・6章構成で、第1章・第2章の全18本を無料公開しています。第3章以降は、疲れの「型」の自己診断から、回復の実践、疲れにくいカラダの設計まで、より具体的な内容をお届けしています。
有料マガジン「疲れているのに、休めない」では、第3章以降の39本をまとめて¥3,980でお読みいただけます。単体購入(¥300/本)との差額調整はできませんので、続けて読まれる予定の方はマガジン購入がお得です。
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