「私が愛した彼、僕を愛した彼」制作裏話丨二人で書いたら予想外の物語が生まれた話
7月8日(水)、創作大賞2026の締切日。noteの祭典が幕を閉じるその夜、宿木雪樹と五十嵐大はZoomを開き、画面を通じて酒を飲み交わしていました。
二人は今回、「私が愛した彼、僕を愛した彼」という小説を恋愛小説部門に応募しました。二人は……ということは、そう、共作です。
本記事では、打ち上げの中で語られた制作裏話の一部をお届けします。
本編をすでに読んでくださった方は「そんなふうに書いたんだ」とわかるよう、そしてまだ読んでいない方は「どんな物語なんだろう」と思っていただけるよう、具体的なストーリーやネタバレは入れていません。気になる方は、ぜひ読んでみてください。
最初は短編のはずが!?オンライン飲み会で生まれたアイデア
宿木:まずは執筆、おつかれさまでした!乾杯!
五十嵐:乾杯!
宿木:二人で書くのは大変ではあったけれど、すごく楽しかったです。
五十嵐:最初は気楽に「一緒にやりましょう」って感じでしたよね。
宿木:そうそう。いつものオンライン飲み会をやっていて、だいぶお酒も回ってきたところで、私が今度出すZINEの話をしていたら、五十嵐さんが「僕も書きたかった」って言ってくださったんですよね。
五十嵐:ZINEにそもそも興味があって、やってみたいなぁって思っていたんです。でも、いきなり一人でやるって言っても、何をどうしたらいいかわからないから。雪樹さん、外部の書き手の方を誘ったりしたんですよね。
宿木:そうなんです!でも、五十嵐さんってもうデビューしていらっしゃる作家さんですから、私なんかが声をかけていいもんなのか、と。
五十嵐:いやいや、やってみたいですから(笑)。で、「二人で何かやりましょうか」っていう話から、同じ出来事をそれぞれの視点で書いていくのはどうかってアイデアが出てきたんですよね。「ある男性のお葬式に、元奥さんと同性のパートナーがいて、それぞれの視点で書いたら読み応えある作品になりそうですね」と。その時点では、そこしか考えていなくて。
宿木:そうなんですよ。物語がどう転ぶかなんて、全然想像していなくてね。
五十嵐:お互いの気持ちを書いたら、切ない感じの短編になるかなぁなんて想像していたんです。それで、雪樹さんから届いた一章を読んでみたら、「あれ、これ、続きあるな!?」って。
宿木:勝手に続きものにしちゃってすみません!書いているうちに、二人の視点を交わらせたいなぁという欲望が出てきてしまって……(笑)。
五十嵐:二人が握手をしたから、じゃあこのあとはどうしようかと、打ち合わせをし始めた感じでしたね。それをもとに、交互に章を書き進めていきました。
プロットなしで転がる物語、共作だからこその面白さ
宿木:今回、プロットを立てずに最低限の設定だけ話し合って執筆を進めましたが、五十嵐さん、書きづらくありませんでしたか?
五十嵐:お仕事で小説を書くときはプロットを立てるのですが、今回は趣味というか、二人で遊ぶ感じでしたから、書きづらさはそれほど感じなかったかな。むしろ、打ち合わせをしながら出てくるアイデアを次々に反映していくのが面白かったですね。大変でしたけど。
宿木:終わりに近づけば近づくほど、あとから足した設定で辻褄が合わなくなって、苦しんでましたね。
五十嵐:そうそう、あれれ〜って遡って修正するところが多かったです。でも、それはプロットを立てていても起こることなので、あんまり変わらないかもしれません。今回は雪樹さんがいたから出てきたアイデアもあったじゃないですか。それこそ、エンディングノート。あれは僕はまったく考えていなかったもので、エンディングノートが出てきたことで物語がどんどん転がっていくというか、想定していない方向に進みました。
宿木:私が作った設定には「こういうふうになってほしいな」という願いが込められていたのですが、それに五十嵐さんが呼応して書いてくださったシーンがめちゃくちゃ良くて、本当に嬉しかったです。
五十嵐:まさに、共作ならではの面白さでした。一人で書いていると、やっぱりアイデアに限界があるんですよね。きっと多くの書き手さんが、自分の経験を越えるアイデアを捻り出すのに苦労していると思います。それが今回は、必然的に他人のアイデアを取り入れて書いていく状況に置かれたので、今まで考えもしなかったことが書けて、面白かったです。これ、ふつうに仕事に取り入れられたらいいなぁって……だからもう、ユニットでデビューしたいですよね。
宿木:そうですね、ユニット名決めましょう!二人組だから「ゆず」的な!
五十嵐:(笑)。
宿木:あと、二人で書いてみて思ったのは、登場人物の心の動きも流動的だったことですかね。私は今回の小説で佳乃子という女性の視点を書いていたのですが、五十嵐さんが書いている敬太の視点を読んで初めて、想像以上の苦しみを抱えてきたことなどを知って、またそこで佳乃子の反応が変わっていく、という体験をしました。これって、一人で書いていたらありえないんですよね。作中に登場する人物の心情に驚いて、新しい反応が生まれてくるなんて。
五十嵐:僕はもともと、人と人が影響し合って話が転がっていく小説が好きなんです。たいていの小説はそうかもしれないけど、人が想定外の行動に出ちゃうみたいな話が、すごく好き。だから今回の小説で、佳乃子さんと敬太が影響し合って変わっていったのがすごく良かったと思います。特に佳乃子さんは、はじめは嫌な女って印象があったけれど、最後のほうになるとまったく異なる印象の行動をしていくじゃないですか。これこそが「他者からの影響を受けること」だと思ったし、登場人物が生きている感じがしました。もしも一人で書いていたら、どうしても制御してしまっていたかもしれない。でも今回、雪樹さんの書いているところは制御不可能だから。
宿木:そうですよね。中盤の山場となるシーンのトリガーとなる佳乃子の一言は、五十嵐さんの担当する章で、ぜひ書いてほしいとお願いしたものでした。
五十嵐:打ち合わせでそのセリフを聞いたとき、僕だったら考えもしない一言だな、と思いましたよ。で、実際に書いてみたら……そんなこと言われたら、こっちだってこう言うじゃんって感じで、どんどん話が転がっていって。
宿木:私がケンカをふっかけたようなもんでしたからね(笑)。
五十嵐:そこがやっぱり、共作の面白いところでした。化学反応ですね。
抑圧を受けてもがいている人々の苦しみの先に
宿木:佳乃子が真樹と離婚するに至ったのには、本人に何かしらの理由があるわけで……私は今回、利他の精神がない女の心情を描き切ろうと思っていました。でも、そんな佳乃子が変わるくらい影響を与えてくれたのが、敬太だったんです。そう思わせてくれる敬太だったから、佳乃子は変われたんだと思います。
五十嵐:さっきは嫌な女って言っちゃいましたけど、佳乃子さんだって本人が悪いわけではないんですよね。家庭環境とか、女性が社会の中で背負わされる役割とか、いろんな外的要因が彼女をハリネズミみたいにしてしまっていた、というか。
宿木:それはそのまま、敬太もそうなんですよ。純粋に人として幸せになりたいだけなのに、社会がそうさせてくれない。だから、やっぱり二人は似た者同士だなと思います。
五十嵐:息苦しいから、もがいているんですよね。もちろん彼らも人間だから、「明日から100%気にせず生きられます」なんてことは無理だとは思いますが、今回の作品の中で、ちょっとした抑圧からの解放を二人に渡せたのは、良かったのかなと思います。……まぁその解放のきっかけが大好きな人の死って、なんて意地悪な話を書いてるんだって自分でも思いますけど。
宿木:でも、やっぱり何かしら大きな痛みを受けなければ、人って成長できない……変われないと思うので。
五十嵐:そうですね。願わくば、この作品を読んだ人が、本当に大切なものを失ってから気づくのではなくて、この作品を読むことで何かしらの気づきを得られたらいいですね。そうすれば、現実世界で大きな後悔をせずに済むかもしれないから。
宿木:小説を読むと、他人の人生を疑似体験することで、登場人物と似た気づきや成長を得られるからいいですよね。
五十嵐:本当にそう思う。
宿木:……また一緒に何か書けたらいいですね。
五十嵐:ね、やりたい。今回の作品で受賞できたら、まずは追加で書き下ろしを入れることになるでしょうから、その次、どうしますかね。
宿木:受賞前提で話を進めますねぇ(笑)。私はミステリーに挑戦してみたいです!加害者と被害者の視点が交互に楽しめる、というような。
五十嵐:物語の途中でそれがひっくり返るとかできたら面白そうですよね。加害性と被害性の逆転については、ふだんから考えることが多くて。ただ、もしもこのテーマを扱うとしたら、描き方によっては誤った解釈を生む可能性もあるから、難しいところではありますよね。でも、難しいからこそフラットな目線を意識しつつチャレンジしてみたいです。
宿木:そうですね。それこそ私たちが男女のユニットだからこそ、視点が偏ることがないと思うし、フラットでフェアな作品にできるかもしれませんよね。共作の利点は、そういうところにもあるかもしれません。とにかく、いろんなことができそうで今からワクワクしています!……あーっ受賞できますように!
五十嵐:とりあえず中間発表までは今回の作品からいったん離れて、次の作品のアイデアとか、ユニット名とかについて考えましょう。
宿木:そうだ、ユニット名!「ゆず」的なやつ!
五十嵐:ゆずから離れて、もうちょっと検索したときに強い名前にしましょう!(笑)
二人のお疲れ様会は、その後も夜更けまで続きました……。
ということで、今回宿木雪樹と五十嵐大が書いた作品、「私が愛した彼、僕を愛した彼」は以下のマガジンから全編読むことができます。創作大賞の恋愛小説部門で受賞を狙っているので、もしも「いい」と思ってくださったら、「スキ」をいただけると嬉しいです。ご感想もお待ちしています!!
いいなと思ったら応援しよう!
読んでいただき、ありがとうございました!もしコンテンツに「いい!」と感じていただいたら、ほんの少しでもサポートしていただけたらとってもとっても嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします。