【3分間小説】残響の彼方に鳴り響く幻の歌声|エイミー ― THE ORAL CIGARETTES
この作品はフィクションです。特定の曲や歌詞にインスピレーションを得て執筆していますが、実在の人物・出来事とは関係ありません。音楽をきっかけに生まれた短い小説としてお楽しみください。
「悪いな、対バンのやつら事故渋滞で間に合わねえわ」
ライブハウスの店長が、申し訳なさそうに頭をかいた。インディーズの僕らにとって、今夜のステージは重要な意味を持っていた。
穴埋めに連れてこられたのは、名前すら聞いたことのない謎の女性シンガー。
「代わりに見つけてきた。……エイミーだ」
舞台の袖から現れた彼女を見て、僕は息を呑んだ。
ブロンドの髪色が照明に透け、落ち着いた空気を纏っている。年齢不詳のその人は、挨拶もそこそこにマイクを握った。
音が鳴った瞬間、ライブハウスの空気が塗り替えられた。
低く、艶があり、それでいて胸の奥を直接掴んでくるような歌声。理想をそのまま形にしたような、圧倒的な存在感。
僕は自分の出番も忘れ、ただ呆然とステージの端から彼女を見つめていた。それは、一目惚れという言葉では足りないくらいの、雷に打たれたような衝撃だった。
終演後、挨拶をしようと楽屋に駆け込んだが、そこにはもう彼女の姿はなかった。店長に聞いても
「あいつ、風みたいに来て風みたいに帰るんだよ」
と煙に巻かれるだけ。
それから僕は、彼女が歌うと聞きつけるたびに、ライブハウスへ足繁く通った。
客席の隅から、一度も目が合うことのない彼女を見上げる。彼女が歌う切ないメロディは、まるで僕だけに向けられたメッセージのように錯覚した。
少しでも近づきたくて、でも声をかける勇気はなくて。ギターの弦を弾くたび、彼女の歌声が頭の中で鳴り響く。
「……また、いなかった」
季節が一つ巡った夜。
いつものライブハウスに彼女の名前はなかった。
店長は、空になったビール瓶を片付けながら、そっけなく言った。
「エイミー? ああ、あいつはもう来ねえよ。元々、どこから来たかも分からねえんだ」
彼女が立っていたステージには、もう誰もいない。
残っているのは、僕の耳の奥にこびりついて離れない、あの艶やかな歌声の残響だけ。
僕はまだ知らない。
僕が憧れた「エイミー」という存在が、あまりにも鮮やかな嘘で塗り固められていたことを。
エイミー ここで今二人、また出会えるってことを。信じて待つよ、何があってもずっと。
ねぇ、君もそうだろう?
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チップありがとうございます!
大変はげみになります。