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「59歳の私を支えたMr.Children。エクアドルの高齢者が『もっと踊りたい』と言った日」

前回の記事の最後に、私はこう書きました。
「日本ならどうするか」ではなく、
「この場所では、何ができるだろう。」
そう考えるようになった、と。

でも、考え方を変えたからといって、次の日から何かが大きく変わったわけではありません。
職員の人数は変わらない。
設備も変わらない。
日本のような介護制度があるわけでもない。
では、この場所で私は何ができるのだろう。
まだ答えはありませんでした。

ただ、一つだけ決めたことがありました。
それは、

「高齢者が毎日、安全で楽しく過ごせる場所にしたい。」

ということでした。
難しいことを始める前に、まずは高齢者の皆さんが笑顔になれる時間をつくりたい。
そこから始めようと思いました。


最初に取り組んだこと


私が最初に取り組んだのは、
認知症ケアでも、
職員研修でも、
衛生管理でもありませんでした。
レクリエーションでした。

高齢者センターへ来る時間が、
「今日も楽しかった。」
と思える時間になってほしい。

その思いから、まずは音楽を使った活動を考えました。

エクアドルの高齢者の皆さんは、音楽が流れると自然に笑顔になります。
歌ったり、手拍子をしたり、体を動かしたり。
その姿を見て、私は思いました。

「音楽なら、言葉が違っても一緒に楽しめるかもしれない。」

私を支えてくれた一曲


そこで私が選んだ曲があります。

それは、私が大好きなアーティスト、Mr.Childrenの
「innocent world」
でした。

実は、この曲には私自身の思い出があります。
日本にいた頃からMr.Childrenが大好きで、何度もライブへ足を運びました。
そしてエクアドルへ来てからも、この曲を何度も聴いていました。

慣れない環境。
言葉の壁。
思うように活動できない悔しさ。
「私はここで何ができるのだろう。」
そう悩む日もありました。

そんな時、この曲を聴くと少し前向きな気持ちになれました。
私自身を励ましてくれていた曲だったのです。
日本を離れて初めて、自分が当たり前だと思っていたものが、どれだけ自分を支えてくれていたのか気づきました。

だから、ふと思いました。
「この曲を、エクアドルの高齢者の皆さんと一緒に楽しんでみたい。」

予想以上の反応


最初は少し不安でした。
「日本の曲で、本当に楽しんでもらえるのだろうか。」
そんな気持ちもありました。

でも、曲を流して、私が前に立って体を動かし始めると、少しずつ変化が起こりました。

手を動かす人。
リズムに合わせて体を揺らす人。
隣の人と笑い合う人。

最初は様子を見ていた方も、少しずつ一緒に参加してくれました。
気がつくと、そこにはたくさんの笑顔がありました。
言葉ではなく、音楽を通じて同じ時間を共有している。

その瞬間、私は改めて感じました。
「コミュニケーションは、言葉だけではないんだ。」

「もっと踊りたい」


そして曲が終わりました。
私は、
「短い時間でも楽しんでもらえたかな。」
と思っていました。

すると、高齢者の皆さんから予想していなかった言葉が返ってきました。
「もう終わり?」
「もっと踊りたい。」


最初、私は5〜6分程度の活動として考えていました。
でも、高齢者の皆さんは言いました。

「最低でも20分は踊りたい。」

その言葉を聞いた時、私は驚きました。
私が5〜6分で終わろうとしていた活動を、高齢者の皆さん自身が20分へ変えてくれたのです。

私が教えてもらったこと


その時、私は大切なことに気づきました。
私は最初、
「高齢者のために何かをしてあげなければ。」
と思っていました。

でも、本当に必要だったのは、
私が一方的に考えた活動を提供することではありませんでした。

目の前にいる高齢者の声を聞くこと。
何を楽しいと感じるのかを知ること。
一緒に時間をつくっていくこと。
それが大切だったのです。

小さな一歩


今振り返ると、この時のレクリエーションは、とても小さな取り組みでした。

特別な道具があるわけでもありません。
大きな設備があるわけでもありません。
ただ音楽を流して、一緒に体を動かしただけです。

でも、その時間には、
笑顔がありました。
会話がありました。

「またやりたい」という高齢者の声がありました。

そして何より、私自身が初めて、
「ここでできることがある。」
と思えた瞬間でした。

まとめ:高齢者ケアで大切なのは、その人が「どう過ごしたいか」を考えること


この経験を通して、私は高齢者ケアにおいて大切なことを改めて学びました。
看護師として働いていた頃から、私は常に「安全」を意識してきました。

転倒を予防すること。
体調の変化に気づくこと。
認知症のある方が安心して生活できる環境を整えること。

それは、高齢者ケアにおいて欠かすことのできない大切な役割です。
しかし、エクアドルの高齢者センターで活動する中で、私はもう一つ大切な視点に気づきました。

それは、
「その人が、その人らしく、毎日を楽しめているか」
ということです。

今回の音楽を使った活動も、最初は「体を動かすためのレクリエーション」として考えていました。

しかし、実際に高齢者の皆さんから返ってきた言葉は、
「もっと踊りたい。」
というものでした。

その瞬間、私は気づきました。
大切なのは、支援する側が「良いと思うもの」を提供することではありません。

高齢者主体で考えること。
その人が何を楽しいと感じ、何を望んでいるのかを知ること。
そこから活動を作っていくことが大切なのだと。

高齢者ケアの目的は、単に身体機能を維持することだけではありません。

その人が笑顔になれる時間をつくること。
人とのつながりを感じられること。
「今日も楽しかった」と思える一日を過ごせること。

それは、生活の質(QOL:Quality of Life)を高めることにつながります。

また、今回の活動で見えたのは、高齢者の皆さんが持っている力でした。
「もうできない」と考えるのではなく、
今できること。
楽しめること。
誰かと一緒に取り組めること。
その力を見つけ、活かしていく。

それが、残存能力を活かすケアなのだと思います。

私はエクアドルへ来る前、日本で学んだ知識や経験を伝えることが自分の役割だと思っていました。

でも、この場所で教えてもらったことがあります。

高齢者ケアとは、何かを一方的に与えることではありません。

目の前の人をよく見て、声を聞き、その人の持っている力を引き出すこと。
それは、国や文化が違っても変わらない、看護の本質なのだと思います

「もっと踊りたい。」
あの日の高齢者の皆さんの一言は、私にとって単なるレクリエーションへの反応ではありませんでした。

高齢者主体のケア、生活の質(QOL)を大切にすること、そして残存能力を活かすこと。

これからの私の活動の軸となる、大切な学びの始まりでした。

そして、この小さな気づきが、その後の高齢者ケアへの取り組みを大きく変えていくことになります。


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