【福祉組織論第4回】「給料を上げれば人は残る」という幻想。――離職率をゼロにするのは「金」ではなく「構造」だ。
【※免責事項】
本記事の内容は筆者の実体験および独自の視点に基づくものです。記事内で使用する「診断」「処方」「治療」等の表現は、組織運営における比喩(メタファー)であり、医師法に基づく医療行為を指すものではありません。組織運営における最終的な判断は、各事業所の責任において行ってください)
「職員が定着しないんです。やっぱり、給料が安いからでしょうか」
経営相談を受けていると、10人中9人がこの言葉を口にします。 そして、無理をして基本給を上げ、手当をつけ、経営を圧迫させながら「これで辞めないはずだ」と安心します。
しかし、半年後。 一番期待していたエース職員が、退職届を持ってきます。 「お世話になりました。給料のいい別の法人に行きます」
絶望しますよね。「あれだけ金を積んだのに」と。
はっきり申し上げます。 その「昇給」は、ドブにお金を捨てたのと同じです。
なぜなら、あなたは人間の心理構造(OS)を誤解しているからです。 今日は、多くの経営者が陥る「賃金の罠」と、お金に頼らず人を定着させる「エンゲージメントの構造設計」についてお話しします。
明日の記事で公開する「あるツール」の話に繋がる、極めて重要な基礎講義です。
1. 「衛生要因」と「動機づけ要因」の履き違い
心理学者ハーズバーグの「二要因理論」をご存知でしょうか。 人間には、「不満足を招く要因(衛生要因)」と「満足を招く要因(動機づけ要因)」の2種類があるという理論です。
衛生要因(不満足): 給与、労働条件、対人関係。 👉 これらが不足すると不満が出るが、満たされても「当たり前」になるだけで、やる気は出ない。
動機づけ要因(満足): 達成感、承認、仕事そのものの面白さ。 👉 これが満たされると、人は熱狂し、定着する。
多くの経営者は、給料(衛生要因)を上げれば、やる気(動機づけ要因)が出ると勘違いしています。
しかし、給料アップの効果は、持って3ヶ月です。 3ヶ月後にはそれが「当たり前の基準」になり、また不満が生まれます。
給料で人を縛ろうとするのは、穴の空いたバケツに水を注ぐのと同じです。 永遠に満たされることはありません。

2. 「良い人」ほど、金で釣られると冷める
さらに残酷な真実をお伝えします。 福祉の現場にいる「本当に優秀な人材」ほど、金だけの提示を嫌います。
彼らは「意味(Purpose)」を求めてこの業界にいます。 「この組織は、利用者のために正しいことをしているか?」 「自分はここで成長できるか?」
この問いに対して、経営者が「給料上げたから文句ないだろ」という態度で接すれば、彼らは敏感に「軽視された」と感じます。 「私の想いを、金で買おうとしているのか」と。
金で繋ぎ止めた人材は、さらに高い金を出す競合他社が現れた瞬間、躊躇なく裏切ります。
あなたが作るべきは、金銭的な契約関係ではなく、「この船に乗っていること自体が誇りだ」と思わせる「心理的契約(エンゲージメント)」です。
3. 定着の正体は「公平性(Fairness)」である
では、給料は低くていいのか? もちろん違います。生活できないレベルの低賃金は論外です。
重要なのは「額(Amount)」ではありません。 「分配のロジック(Logic)」です。
職員が不満を持つのは、給料が安いからではありません。 「なぜあの人と私が同じ給料なのか?」 「頑張っている私より、サボっている古株の方が高いのはなぜか?」
という、「不公平感(Unfairness)」に対して絶望するのです。
私が設計する組織では、給与テーブルと評価制度をガラス張りにします。 「何をすれば上がり、何をすれば下がるか」という「構造」を明確にします。
人間は、結果が悪くても、そのプロセスが「公正(フェア)」であれば納得します。 逆に、どんなに高給でも、その決定プロセスがブラックボックスであれば、疑心暗鬼になり、組織は内部から腐ります。

4. 予告:その「処遇改善加算」、正しく配れていますか?
ここまで読んで、「なるほど、公正さが大事なのか」と納得された経営者の方へ。 最後に一つ、背筋が凍る質問をします。
「来年度の処遇改善加算、1円のズレもなく、論理的に配分する準備はできていますか?」
2026年3月末で経過措置が終了し、新加算体系への完全移行が求められます。 ここで計算を間違えたり、どんぶり勘定で配分したりすれば、行政の実地指導で返還命令(数百万〜数千万)を食らうだけでなく、職員に対し「私たちの権利を搾取した」という致命的な不信感を植え付けることになります。
「計算が複雑でわからない」 「社労士任せにしているが不安だ」
そんな声にお応えして、明日の記事では、私が実際に現場で運用している「絶対に減算させない・不公平を生まない『鉄壁の処遇改善管理シート』」を公開します。
精神論ではなく、Excelという「構造」で、組織の公平性を守ってください。 準備しておいてください。明日は、実務の話です。
【あわせて読みたい:構造で人を定着させる技術】
今回の記事で「定着(LTV)」の重要性を感じた方は、ぜひこちらの記事も併せてご覧ください。利用者の定着も、職員の定着も、根幹のロジックは同じです。
【福祉×経営】なぜ「売らない」事業所ほど、人が辞めないのか。平均1.5倍のLTV(定着率)を生み出す「構造」の正体。
(執筆者紹介) Welfare Growth Architect(福祉事業成長設計士)
経歴: 精神保健福祉士・社会福祉士・産業カウンセラー。元・理系専門商社営業(13年)× 現・福祉系企業管理職。
実績: インテーク成約率66%(業界平均の2〜3倍)、LTV(定着率)1.5倍。開設5ヶ月で満員を実現。
Style: 「マニュアルを作らない」を信条とし、臨床的対話と科学的営業を融合させた独自の支援を行う。Neuro-Strategic Advisorとして、個と組織の「真の生存戦略」を設計する。
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