【福祉LTV論(顧客)第2回】【福祉×経営】なぜ「売らない」事業所ほど、人が辞めないのか。平均1.5倍のLTV(定着率)を生み出す「構造」の正体。
多くの福祉事業所が、来る日も来る日も「どう集めるか(集客)」に頭を抱えています。 行政回り、チラシ、Web広告。 必死になって「空いた穴」を埋めようとします。
しかし、私がコンサルティングの現場で最初に計算するのは、集客数ではありません。 「LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)」です。
福祉の現場風に翻訳するなら、「一度繋がった利用者が、どれだけ長く、安定して通い続けてくれるか」という指標です。
私の運営する事業所では、このLTVが平均の約1.5倍(自社従来比)を記録しています。 利用者が「辞めない」のです。だから、無理な営業をしなくても、常に定員が満たされた状態(穴の空いていないバケツ)が続きます。
なぜ、彼らは明日も来たいと思ってくれるのか。 今日は、その「定着」を生み出す構造について、少し踏み込んだ話をします。
1. 「期待値のズレ」が離脱を生む
なぜ、利用者は早期に離脱するのでしょうか。 プログラムがつまらないから? スタッフが冷たいから?
いいえ、最大の原因は「入り口でのボタンの掛け違い」です。
数字(契約数)を追うあまり、インテーク(初回面談)の段階で「良いこと」ばかりを並べてしまう。 「うちに来れば就職できますよ」「楽しいですよ」と、相手の機嫌を取るような「売り込み(Sales)」をしてしまう。
するとどうなるか。 利用者は「魔法のような解決策」を期待して入所します。しかし、現実は地道な訓練の連続です。そのギャップに直面した時、彼らは「話が違う」と感じ、静かに去っていきます。
高い離職率(離脱率)を作っているのは、実は現場の支援員ではなく、入り口で「売り込んだ」相談員自身なのです。
2. 「診断」するから、覚悟が決まる
前回の記事で、私のインテーク成約率は66%だと書きました。 しかし、私は一度も「うちに来ませんか?」と勧誘したことはありません。
私がやっているのは「構造的アセスメント」です。
医師が患者に対し、「あなたの症状はこうで、治療にはこれだけの痛みが伴います。それでも治しますか?」と問うように、現状と課題、そして解決に必要なプロセスを淡々と提示します。
この「設計図に基づく契約」を経た利用者は、誰かに説得されたのではなく、「自分で選んだ」という自覚を持っています。 だから、多少の壁にぶつかっても、「自分で決めたことだから」と踏ん張ることができる。
「売らない対話」は、契約を取るための技術ではありません。 その後の「長い旅を続けるための基礎工事」なのです。
3. 「優しさ」ではなく「構造」で支える
もう一つ、定着率を高める重要な要素があります。 それは、スタッフの属人的な「優しさ」に依存しないことです。
私が設計士(Architect)としてこだわるのは、「制度によるセーフティネット(Positive Dependency)」の構築です。
障害年金の申請、手帳の更新、役所への同行、医療機関との連携。 これら面倒な手続きを、徹底的に「構造」としてサポートします。
これは単なる親切ではありません。 利用者にとって、事業所が単なる「訓練場所」ではなく、「生活を維持するための司令塔(Hub)」になることを意味します。
「ここを離れると、またあの複雑な手続きを一人でやらなければならない」 「ここには、自分の取扱説明書を理解してくれている専門家がいる」
そう感じてもらえる「構造的価値」を提供するからこそ、感情的なトラブルがあっても、関係性が断絶(離脱)することはありません。これをビジネス用語では「スイッチング・コストを高める」と言いますが、福祉の文脈では「命綱を太くする」と言い換えられます。
4. 設計士の仕事は「時間を設計すること」
「集客」は一瞬の花火ですが、「定着」は毎日の生活そのものです。
私たち支援者の仕事は、契約書にハンコをもらうことではありません。 その人の人生という長い時間軸の中に、「安心して息ができる空間」を建築し、維持し続けることです。
• 入り口では、売らずに「構造的にアセスメント」し「設計図を提示」する。
• 中では、感情ではなく「構造」で支える。
この両輪が回った時、事業所は「穴の空いたバケツ」から卒業し、利用者にとっても経営者にとっても、真に豊かな場所へと変わります。
LTV1.5倍。 この数字は、私たちがどれだけ真剣に、彼らの「明日」を設計してきたかの証明なのです。
(執筆者紹介)
Welfare Growth Architect(福祉事業成長設計士)
• 経歴: 精神保健福祉士・社会福祉士。元・理系専門商社営業(13年)× 現・福祉系企業本部管理職。
• 実績: インテーク成約率 66%(業界平均の2〜3倍)、LTV(定着率)1.5倍。開設5ヶ月で満員を実現。
• Style: 「マニュアルを作らない」を信条とし、臨床的対話と科学的営業を融合させた独自の支援を行う。Neuro-Strategic Advisorとして、個と組織の「真の生存戦略」を設計する。
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