【第76回】ビジネス書との出会い:才能の正体は「考え方」だった。『マインドセット「やればできる!」の研究』
この**【ビジネス書との出会い】**シリーズでは、私が出会い、人生やビジネスの視点を変えるきっかけとなったビジネス書を、毎回1冊ずつレビュー形式でご紹介していきます。
書籍と著者
本日ご紹介するのは、スタンフォード大学の心理学教授キャロル・S・ドゥエック氏による世界的ベストセラー**『マインドセット「やればできる!」の研究』**(原題:Mindset: The New Psychology of Success)です。
ビル・ゲイツも絶賛し、教育界のみならず、ビジネスリーダーやスポーツ選手の育成現場でもバイブルとされている、自己変革のための心理学書です。
導入:あなたの能力は「固定」されているか?
簡単な質問です。あなたは次のどちらの考えに近いですか?
A: 知能や才能は、生まれつき決まっている。努力で多少は変わるが、根本的には変えられない。
B: 知能や才能は、努力や経験次第で、いくらでも伸ばすことができる。
もし「A」を選んだなら、あなたは「硬直マインドセット(Fixed Mindset)」を持っています。 もし「B」を選んだなら、あなたは「しなやかマインドセット(Growth Mindset)」を持っています。
たったこれだけの違いが、人生の成功と失敗を分けます。 なぜなら、「硬直」した人は失敗を「自分の無能さの証明」だと捉えて挑戦を避けますが、「しなやか」な人は失敗を「成長のためのデータ」だと捉えて突き進むからです。
本書の核:2つのマインドセット
著者は20年以上の研究から、人間には2種類の思考パターンがあることを突き止めました。
1. 硬直マインドセット(Fixed Mindset)
信条: 「能力は固定されている」
行動: 自分を賢く見せようとする。失敗を極度に恐れる(失敗=才能がない証拠だから)。他人の成功を脅威に感じる。
結果: 自分の殻に閉じこもり、早い段階で成長が止まる。
口癖: 「私には向いてない」「才能がない」
2. しなやかマインドセット(Growth Mindset)
信条: 「能力は成長する」
行動: 学ぶことを優先する。失敗しても「まだできないだけ(Not Yet)」と考える。他人の成功から学ぼうとする。
結果: 困難にぶつかるたびに能力が伸び続ける。
口癖: 「どうすればできるか?」「もっと試してみよう」
前回【第75回】『世界史』で、変化を受け入れる文明が発展すると学びましたが、これは個人の脳内でも同じことが起きています。「しなやか」な人だけが、変化を栄養にして進化できるのです。
実践:大人になってからの「脳の書き換え」
大人になってからでも、マインドセットは変えられます。
「才能」という言葉を捨てる
「あの人は天才だ」と言うのはやめましょう。それは相手の努力を無視し、自分への言い訳にする言葉です。 ビジネスで成功している人は、最初からすごかったのではなく、「失敗してもやめなかった人(しなやかマインドセットの持ち主)」なだけです。 【第61回】『SHOE DOG』のフィル・ナイトもそうでした。彼は靴の素人でしたが、トラブルのたびに学び、ナイキを築きました。
「まだ(Not Yet)」をつける
何かに失敗したり、うまくいかなかった時、「自分はダメだ」ではなく、こう言い換えてください。 「まだ、できていないだけ」 この一言が、脳のスイッチを「評価モード」から「学習モード」に切り替えます。
再出発のためのOS
新しい環境で何かを始める時、あるいは未経験の分野に挑戦する時、最も邪魔になるのは「プライド(過去の自分)」です。 硬直マインドセットの人は、「いい歳をして失敗して、恥をかきたくない」と守りに入ります。
しかし、しなやかマインドセットを持てば、全ての経験がプラスになります。
仕事で成果が出ない → 「やり方を改善するチャンス」
人間関係がうまくいかない → 「コミュニケーションの幅を広げる訓練」
「脳の筋肉は、使えば使うほど強くなる」 これは精神論ではなく、脳科学の事実です。
まとめ:あなたは、今からでも何にでもなれる
本書のメッセージはシンプルかつ強烈です。 「人は、自分がなりたいと思ったものになれる」
もちろん、誰もがアインシュタインになれるわけではありません。 しかし、ピアノも、語学も、ビジネスも、プログラミングも、「今から始めて遅すぎる」ということは科学的にあり得ません。
自分の可能性を信じること。 それが、不確実な未来を生き抜くための、最初にして最強の武器なのです。
▼ 合わせて読みたい(過去の連載より)
『マインドセット』で学んだ「能力は成長する」という事実を、日々の行動習慣や、組織の文化レベルにまで落とし込むための必読リストです。
【第33回】『失敗の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』 [選定理由:しなやかマインドセットの組織論] 著者のマシュー・サイドは、本作の中でドゥエックの「マインドセット」を大絶賛し、理論の核として引用しています。個人の「失敗を恐れない心」を、どうすれば組織全体の「失敗から学ぶシステム(ブラックボックス思考)」へと昇華できるかが学べます。
【第88回】『なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践』 [選定理由:硬直マインドセットの正体] 「自分を変えたい(しなやかになりたい)」と頭ではわかっていても、なぜ私たちは「失敗して恥をかくこと」を恐れて守りに入ってしまうのか。その正体である「変化への免疫機能(自己防衛本能)」を解き明かし、心のブレーキを外す方法を教えてくれます。
【第68回】『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』 [選定理由:成長をシステム化する] しなやかマインドセットを手に入れたら、次に行うべきは「日々の反復」です。脳の筋肉を鍛えるために、「まだできない」ことを「できる」に変えていく毎日の1%の改善を、どうやって自動的な「習慣」に落とし込むかという実践的テクニックが詰まっています。
【第61回】『SHOE DOG(シュードッグ) 靴にすべてを。』 [選定理由:マインドセットの実践者] 記事内でも触れたナイキ創業者フィル・ナイトの自伝です。彼は最初から靴の天才(硬直マインドセットが好む才能)だったわけではありません。数々の裏切りや倒産の危機(失敗)を「成長の糧」として突き進んだ、究極の「しなやかマインドセット」の体現者としての生き様が読めます。
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