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【第61回】ビジネス書との出会い:ビジネスは「戦い」ではない。「遊び」ですらない。それは…『SHOE DOG』

この**【ビジネス書との出会い】**シリーズでは、私が出会い、人生やビジネスの視点を変えるきっかけとなったビジネス書を、毎回1冊ずつレビュー形式でご紹介していきます。


書籍と著者

本日ご紹介する書籍は、世界的スポーツブランド「NIKE(ナイキ)」の創業者、フィル・ナイト氏による自伝的ノンフィクション**『SHOE DOG(シュードッグ) 靴にすべてを。』**(原題:Shoe Dog: A Memoir by the Creator of Nike)です。


導入:成功物語だと思って読むと、裏切られる

前回【第60回】では、ピーター・ティールの『ゼロ・トゥ・ワン』で、スタートアップの美しい理論を学びました。 しかし、現実は理論通りにはいきません。

もしあなたが、「ナイキのような大企業がいかにスマートに成長したか」を知りたくてこの本を手に取るなら、やめたほうがいいでしょう。 ここには、華麗なサクセスストーリーは1ミリも書かれていません。

書かれているのは、 「自転車操業」 「銀行からの貸し剥がし」 「訴訟」 「裏切り」 そして、「オニツカタイガー(現アシックス)との複雑な愛憎劇」です。

これは、今日世界中で愛されている「スウッシュ(ナイキのロゴ)」が、いかに薄氷の上を走り抜け、奇跡的に生き残ったかを描いた、血と汗の冒険譚です。


本書の核:愛すべき社会不適合者たち

本書の魅力は、創業メンバーたちのキャラクターにあります。彼らは決して「スマートなエリート」ではありませんでした。

1.最強の負け犬集団「バットフェイス」

フィル・ナイトが集めた初期メンバーは、彼自身を含め、どこか社会に馴染めない「はみ出し者」ばかりでした。

  • ジョンソン: 異常なほど手紙を送りつけてくる、熱狂的なランニングオタク(社員第一号)。

  • ヘイズ: 巨漢で大酒飲みの会計士。

  • ストラッサー: 議論好きで攻撃的な弁護士。

彼らは互いを「バットフェイス(ケツのような顔)」と呼び合い、会議では怒鳴り合い、それでも「靴」と「ランニング」への異常な情熱だけで繋がっていました。 【第60回】で学んだ「賛成する人がいない真実(ランニングは世界を変える)」を、彼らは共有していたのです。

2.日本の商社マンとの絆

日本の読者にとって、この本は特別です。 創業期のナイキを救ったのは、日本の総合商社「日商岩井(現・双日)」のマンパワーと資金援助でした。 崖っぷちのフィル・ナイトに対し、日商岩井の担当者(スメラギ氏やイトウ氏)が「我々はナイキに賭ける」と、クビを覚悟で融資を決断するシーンは、涙なしには読めません。


学び:シュードッグ(靴の亡者)になれ

タイトルの「シュードッグ」とは、靴の製造・販売・デザインに人生のすべてを捧げる「靴の亡者」を意味する隠語です。

ビジネス書にはよく「情熱を持て」と書かれていますが、フィル・ナイトのそれは次元が違います。 彼は、靴を売ることを「商売」だとは考えていませんでした。

「ビジネスじゃない。絶対に違う。スポーツがそうであるように、私にとってビジネスは、人が毎日見る夢を嘆美なものへ変える手段だった」

借金取りに追われようが、ライバルに潰されそうになろうが、彼が足を止めなかった理由はただ一つ。「走るのが好きだったから」。 結局、最後に勝つのは「賢い戦略家」ではなく、「狂気的な愛好家(オタク)」なのです。


まとめ:ただ、止まるな

本書のラスト、成功した老年のフィル・ナイトが、若き日の自分や、これから何かに挑戦する人へ向けて送るメッセージがあります。

「とまるな(Don't stop)。」

たとえ不恰好でもいい。資金がなくても、誰かに笑われても、走るのをやめてはいけない。 【第58回】『HARD THINGS』が「経営の教科書」だとするなら、『SHOE DOG』は「経営者の魂」です。

理屈に疲れたとき、この本を開いてください。 「さあ、靴紐を結んで、もう一度走り出そう」 そんな熱い衝動が、身体の奥底から湧き上がってくるはずです。


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