【第84回】ビジネス書との出会い:親切な上司ほど部下をダメにする。沈黙と問いかけの技術。『アドバイスしてはいけない』
この**【ビジネス書との出会い】**シリーズでは、私が出会い、人生やビジネスの視点を変えるきっかけとなったビジネス書を、毎回1冊ずつレビュー形式でご紹介していきます。
書籍と著者
本日ご紹介するのは、Box of Crayons創設者であり、世界的なコーチングの権威マイケル・バンゲイ・スタニエ氏による『アドバイスしてはいけない 部下も組織も劇的にうまくいくコーチングの技術』(原題:The Coaching Habit: Say Less, Ask More & Change the Way You Lead Forever)です。
「コーチング」と聞くと、怪しい自己啓発や、特別な時間の掛かる面談をイメージするかもしれません。 しかし本書は違います。 「日々の立ち話10分でできる、極めて実践的な7つの質問」に絞り込んだ、忙しいマネジャーのための「行動変容マニュアル」です。
導入:あなたの心に住む「モンスター」
部下から「課長、この件どうしましょう?」と相談された時、あなたはどうしていますか? 食い気味に「ああ、それはA社に連絡して、いつもの手順で……」と答えていませんか?
著者はこれを「アドバイス・モンスター」と呼びます。 私たちは、問題を解決してあげることに快感を覚えます。自分が役に立つ人間だと感じるからです。 しかし、上司が即座に答えを出すと、以下の弊害が生まれます。
部下が考えなくなる(依存が深まる)。
上司が忙しくなりすぎる(ボトルネックになる)。
実は「的外れな問題」を解いている可能性が高い。
前回【第83回】で学んだ「恐れのない組織」を作るには、リーダーが正解を教えるのではなく、部下に正解を探させる必要があります。 そのための武器が、本書の「7つの質問」です。
本書の核:魔法の質問「AWE」
本書には7つの強力な質問が紹介されていますが、中でも最強の質問と呼ばれるのが**「AWE質問」**です。
「And What Else?(他には?)」
部下の話を聞いた後、すぐにアドバイスをするのではなく、ただ一言「他には?」と聞く。 これだけで、会話の深さが劇的に変わります。
最初の答えは、たいてい核心ではありません。「他には?」と聞かれて初めて、部下は「実は、本当に困っているのは……」と真の問題を口にします。
上司が黙って聞くことで、部下は「自分の意見が尊重されている」と感じ、心理的安全性が高まります。
実践:問題の核心を突き止める
もう一つ、アドバイス・モンスターを封じる重要な質問があります。 「フォーカス・クエスチョン」です。
「What's the Real Challenge here for you?(あなたにとって、ここでの本当の課題は何ですか?)」
部下が「あれも大変、これも大変」とパニックになっている時、私たちはつい「じゃあ私がやっておくよ」と手を出したくなります。 そこでグッとこらえて、この質問を投げかけます。
「あなたにとって」と聞くことで、部下は当事者意識を取り戻し、ごちゃごちゃした状況の中から「自分が解決すべき一点」を自ら選び取ります。 リーダーの仕事は、答えを与えることではなく、「問い」によって焦点を絞ってあげることなのです。
アドバイスは「最後の手段」
著者は「絶対にアドバイスをするな」と言っているわけではありません。 「アドバイスをしたくてたまらなくなっても、少しだけ我慢しなさい」と言っているのです。
「他には?」「本当の課題は?」と聞き続け、部下がこれ以上何も出てこない状態になった時、初めてこう言います。 「私からの提案を伝えてもいいかな?」
この順序を守るだけで、部下は「やらされ仕事」ではなく「自分の意思で選んだ解決策」として動くようになります。
まとめ:怠惰な上司になれ
この本の教えを一言で言えば、「もっと怠惰になれ」ということです。 必死に答えを出し、部下の仕事を肩代わりし、アドバイスをしまくる「働き者の上司」は、組織の成長を止めてしまいます。
もっと口数を減らし、もっと質問をし、部下に汗をかかせる。 一見、冷たく見えるその態度は、実は部下の可能性を信じる、最も温かい「支援」なのです。
あなたのモンスターを檻に入れ、明日から口癖を変えてみませんか? 「……で、他には?」
▼ 合わせて読みたい
今回の『アドバイスしてはいけない』で学んだ「沈黙と問いかけの技術」を、さらに深く、実践的に使いこなすための強力な武器庫です。
【第103回】『1万人のマネジャーを指導したコーチングのプロが教える 質問力で人を動かす』 [選定理由:深化] 同じくマイケル・バンゲイ・スタニエ氏による名著。本作で紹介された「7つの質問」をさらに掘り下げ、相手の心を開き、自発的な行動を引き出すためのコーチング技術を、より体系的にマスターできる完全版とも言える一冊です。
【第102回】『問いかける技術 ― 確かな人間関係と優れた組織をつくる』 [選定理由:源流] アドバイス(診断)がいかに相手の反発を生むか。組織論の巨匠エドガー・シャイン氏が、支援のパラドックスを解き明かし、「純粋な好奇心」を持って相手に問いかけること(ハンブル・インクワイアリー)の重要性を説いた、すべての質問技術の源流です。
【第106回】『すべては「前向き質問」でうまくいく 質問思考の技術 増補改訂版』 [選定理由:補完] アドバイス・モンスターが暴れ出すとき、あなたの脳内は相手をジャッジする「批判者の質問」で満たされています。それを「学習者の質問」へと切り替え、自分自身のマインドセットを根本から変えるための「質問思考(クエスチョン・シンキング)」の技術です。
【第98回】『世界標準の1on1 科学的に正しい「対話の技術」のすべて』 [選定理由:応用] 質問の技術を身につけたら、次はその武器を「どこで」使うかです。部下との対話の最前線である「1on1ミーティング」の場において、上司が喋りすぎるのを防ぎ、部下を主役に据えるための世界標準のフレームワークがここにあります。
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