見出し画像

時計専門店が教える正しい防水性能の選び方。~100m防水で泳いでも大丈夫?~

 こんにちは。

 昨晩、うっかり寝落ちしてしまって夜中に目が覚めたせいで、めちゃくちゃ眠たいウォッチラボ店長の池田です。

 さて、今日綴りたいのは「時計の『防水性能』って、結局どこまで信じていいの?」というお話です。

よく購入前、購入後のお客様から腕時計の防水性能について問い合わせをいただくので、しっかりと理解してご購入いただければと思い、まとめることにしました。




 腕時計を選んでいるとき、スペック表に必ず出てくる「5気圧防水(50m)」や「10気圧防水(100m)」という表記。

 これを文字通りに受け取ると実は危ないです。

「防水」という言葉の罠

 実は腕時計の防水テストは「静止した状態」で行われます。

 例えば10気圧防水の腕時計だと、「深さ100mの地点までそーっと沈めて、じっとしている状態で水圧に耐えられるか」、という試験です。

 でも、実際に水を使うときって、じっとしていないですよね。

 蛇口から勢いよく出る水に当てたり、プールでバシャバシャと腕を振ったり。

 この「動き」が加わると、瞬間的な水圧はスペック上の数字を軽々と超えます。

こういった水流には要注意

 イメージとしては、「時速100kmの風に耐えられる傘」があっても、思い切り振り回したり突風が吹いたりすれば骨が折れてしまう、という感覚に近いです。

 この「スペック上の防水性能」と「実生活で発生する水圧の差」が、罠というわけです。


防水性能・対照表(JIS/ISO規格)

 ここで、一般的にスペック表に書かれている「〇気圧(〇m)防水」が、実際にはどの程度のシーンに耐えられるのかをわかりやすくするために整理してみました↓

・【知っておきたい「防水」の公的ルール】

腕時計の防水性能は、国際的な基準であるISO 22810(日常生活用防水)やISO 6425(ダイバーズウォッチ)、およびそれらに準拠した日本国内の規格JIS B 7021、JIS B 7023によって厳密に定義されています。

「JIS(日本標準規格)」とか「ISO(国際標準化機構)」とか、なんだか難しい字面が並びますが、要は『世界基準のルールに則った規格』をクリアしているという証拠

防水表記は勝手に名乗っているわけではなく、ちゃんとした「お墨付き」のある表示なのです。

100m防水で泳いでも大丈夫?

 さて、上の表を見て「10気圧(100m)あれば泳いでもいいんだな」と思った方。

時計店の立場から言うと「理屈では大丈夫だけど、積極的にはおすすめしない」というのが本音です。

 実際には問題の無い場合がほとんどですが、場合によっては水没や故障につながることがあります。

 というのも、ここで盲点なのが「経年劣化」「確認不足」「環境」です。

・パッキンの劣化

 防水の要であり、ケースとムーブメントの隙間に挟まっているゴムパッキンは、時間をかけて少しずつ硬くなります。新品時は100m耐えられても、数年後には硬化してひび割れが原因で50m分も怪しいということがあります。
→定期的な点検や電池交換の際には必ず「防水検査」を行っています。パッキンの交換が必要な場合は内訳とともにご案内しております。

ケースと内部の隙間を埋めるためのパーツです

・リューズの閉め忘れ

泳ぐ前にリューズ(時刻を合わせるツマミ)が浮いていた場合、そこからの水の侵入を防ぐ方法はありません。

・水の勢いがある場所での使用

一口に水泳といっても、プールで泳ぐ場合と海や川で泳ぐ場合では腕時計にとって全く違う環境であるという認識が必要です。
プールは水の流れが比較的穏やかなため、気にせず使用しても問題ないです。
ですが、海や川では思いもよらない水の流れが発生していたり、岩などの硬いものにぶつける場合もあり、こういった場合は同じ防水性能でも注意が必要です。

実際に寄せられるお問い合わせと対処法

 当店にも、レジャーシーズンになるとお問い合わせがよく届きます。
 よくある事例から「これをやってはいけない」という境界線を学びましょう。

①「子供と川遊びをしていたら、時計が曇った」

夏休み中やお盆明けによくいただくお問い合わせです

 前項でも触れた通り、川遊びは、実はプールより過酷です。時計内部の水分量はゼロというわけではなく、少なからず水分子が紛れています。急流に手を突っ込んだり、冷たい水に急激に冷やされたりすることで、内部の空気が結露することで発生する事例です。

  • NG: 5気圧以下の時計で川に入る。

  • 簡易的な対処法: ガラスが曇ったら、リューズ(つまみ)を引いた状態で、ドライヤーを必ず「冷風」または「弱温風」に設定して20〜30cm以上離して当てて下さい。長時間の熱風は内部の油を乾かし故障の原因となるためお止めください。(あくまで応急処置です。熱でパッキンの劣化は早まりますので、基本的には時計店にお任せください)

  • 「乾けば治るでしょ」と放置するのが一番危険です。中の機械が錆びたら最後、修理不能となることがありますので、不安な場合は販売店までお問い合わせください。

②「サーフィン中にガラスが割れた」

海は思っているより時計には適さない環境です

 これは「気圧差」よりも、ボードにぶつけたり、波の衝撃で「リューズに強い力がかかって歪んだ」隙間から浸水した可能性が高い0です。(実際の割れの原因はメーカに修理依頼を出したうえで検査して推測します。)

海水は真水より数倍タチが悪く、一晩で内部を腐食させます。

  • NG: ネジ込み式リューズではない時計でのマリンスポーツ。

  • 対処法: 海水の場合は簡易的な対処法が存在しないため、もし海水が入った場合は、これ以上塩分を入れないためにすぐに真水で表面を洗い、そのまま乾燥させずに大至急時計店にお問い合わせください。

※「水」よりも怖い、身近な天敵

 そして、日常生活に潜む、水以上に気をつけてほしいのが「お湯」と「石鹸」です。

時計の天敵は身近なところに…

 「100m防水だから、お風呂もサウナも余裕でしょ!」と考える方がいらっしゃいますが、これは時計にとっては故障リスクを跳ね上げる行為となります。

理由としては

  1. 熱による膨張: 金属のケースとガラスでは熱膨張率が違うので、わずかな隙間が生まれます。

  2. 蒸気の侵入: 水滴は防げても、粒子が細かい「蒸気」はパッキンをすり抜けて中に入ることがあります。

  3. 石鹸・シャンプー: 界面活性剤は水の表面張力を失わせるため、普段なら弾くような隙間からも水が侵入しやすくなります。

こういった理由から、お風呂場や洗い物をする際には可能な限り腕時計は外すよう心がけましょう。


まとめ:時計と長く付き合うために

 実際のところ、20気圧/200M防水未満の時計の防水性能は、あくまで「万が一のときの保険」くらいに考えておくのが、愛機と長く付き合うコツです。

 ほとんどの腕時計は多少の水に濡れても問題ないことがほとんどですが、久しぶりに着ける時計などでは思いがけないことが故障につながることもございます。

  • 日常使い(3〜5気圧): 手洗い時の水ハネ、小雨ならOK。

  • アクティブ(10気圧): 水遊びや、うっかり水没させても耐えられる。

  • マリンスポーツ(200m以上): ここで初めて、自信を持って海へ。

 「防水だから大丈夫」と過信するよりも、「精密な機械を身に着けている」という少しの緊張感を持って接してあげる。そのほうが、時計も正確な時を刻み続けてくれるはずです。

 ではまた。


▼関連記事はこちら▼


いいなと思ったら応援しよう!