丁度いいと感じる赤よりも、もう少しだけ濃い赤を。
この文章は、新作小説の「第2話」です。
前作のエッセイ「すっごい考えて、一周して、地球の裏側に行くからなぁ。あなたは。」に登場する、「どんな感情も住んでいいアパート」の住人たちの物語。
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2、リソウの部屋
これ、大丈夫かな…?
鏡に映る鮮やかな黄色に、不安がよぎる。大好きな服だけれど、外に出ると目立つんだよな。ふと、近所のママ友の顔が浮かぶ。彼女は、どう思うかな。この、鮮やかな黄色を着る私を。まだ会ってもいないのに、ママ友に見られた時を想定して、勝手に恐れる。
不安がたぷんと腹の底に溜まるのを感じたけれど、ひとまず、ワンピースの腰紐を結ぶ。すると、スイッチが入る。
よし、今日は、これでいく。
赤いリップを塗る。私が丁度いいと感じる赤よりも、もう少しだけ濃い赤を。もう、時間だ。家を出なくちゃ。
あぁ忘れてた、イヤリング。もう若くないから、アクセサリーをつけないと顔が暗くなる、と聞いた。youtubeで流れてくるあの人の声と顔が浮かぶ。急いでイヤリングを選び、とりあえずポケットに入れる。
靴が綺麗な人は丁寧な暮らしをしている、とよく聞く。
玄関で靴を履く時だいたい急いでいる私は、自分の靴が綺麗かどうかすら、そもそも認識していない。
ギリギリ間に合いそう。玄関を出る。鍵を閉める。コッ、コッ、と音を鳴らして歩き出す。
すぐに立ち止まる。
鍵を閉めたか不安になるからだ。いつものこと。このタイムロスには、毎度がっかりする。でも仕方ない。泥棒に入られるよりはマシだから。
踵を返してドアまで戻り、確認する。やっぱり鍵は閉めてあった。そう、「ちゃんと閉めてある」。これも、いつものこと。ちゃんと閉めているのに、毎度、自分を信じられない。
階段を降りる。タン、タン…と、いつもの乾いた音がする。黄色いワンピースが、風に膨らむ。ただでさえ、この鮮やかな黄色に不安があるのに、膨らんで存在感を増した黄色い自分に、焦る。
すると、下の方から、タン、タン、と音が登ってきた。黄色の膨らみを抑えて視界を広げると、そこには。
…「泥棒」がいた。
黒づくめの人。
目が合ってしまったので、咄嗟に私の口角がキュッと上がった。
どうして。
どうして私は、こんなに怖いのに、それでも反射で笑顔を作ってしまうの?泥棒にまで。
鍵を閉めてきて、本当に、よかった。
この文章は、新作小説の「第2話」です。
前作のエッセイ「すっごい考えて、一周して、地球の裏側に行くからなぁ。あなたは。」に登場する、「どんな感情も住んでいいアパート」の住人たちの物語。
第3話をお楽しみに!
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