僕は奴隷じゃない

講談社のK氏から、これ以上『庭の話』のプロモーションに労力を割けないというメールが来た。発売から1年弱、事前に決めたプロモーションをほとんど当時の担当がサボタージュしたので、仕方なく僕が自腹でここまで数字をつくってきたのだけど、そろそろ限界なので講談社ももう少し動いて欲しいと連絡したら、「リソースがない」ので協力しない、という返事が戻ってきた。

心が折れた。

僕は会社から年収1000万円以上を保証されている講談社のエリートサラリーマンではなくて、働いた分しか金にならない自営業者だ。その僕が、担当編集がまったく動かない(マジで普通にサボっていた)ので仕方なく自前で膨大な資金と労力を使ってプロモーションをして、自分の取り分は印税10%しかない講談社の本を売って来た。

それは自分の作品が「かわいい」からやって来たのだけど、その僕に自分たちが「忙しい」からプロモーションに協力したくないと平気でメールに書くことが何を意味するか、僕がどう思うかほんの少しでも考えないのだろうかと思った。

僕が今回講談社にサポートをお願いしたのは別に難しいことではなく、費用(は僕が出すので)ゼロ円、所要時間90分程度のことだ。それが「忙しい」から「できない」のだそうだ。

いろいろ、馬鹿馬鹿しくなってきた。

正確には最初「費用の一部は出すからプロモーションはPLANETSでやって欲しい」と言われた。そもそもそれが限界というか、版元の協力がないとできることに限りがあるから、ここで講談社にサポートして欲しいのだと改めて事情を説明して「お願い」したところ、「忙しい」のでダメだと言われた。

この人たちにとって、僕は「奴隷」みたいなものなのだなと強く思った。本を書くだけでは許されず、10%の印税もらうだけの著者が無限に稼動してプロモーションし、自分たちは打ち合わせで決めたことすらサボタージュし、それが当然だと開き直る人たちなのだ。

ちなみに講談社の「リソースがない」という理由は「この本には現場担当がいない」から。その通りなのだが、「いない」理由は発売直後にその担当(Yさん)が事前に打ち合わせして決めていたプロモーションをサボって問題になったからだ。(他にも信じられないくらい事務処理の抜け漏れが多くて、普通に困った。)

この辺の事情は当時書いた、この記事にまとまっている。『庭の話』は当時Yさんの問題もあり、版元のプロモーションと流通がほとんど機能しておらず、12月発売の本なのに1月いっぱい、丸々品切れていた(僕は余ったら自分が買い取るから、もっと刷って欲しいと懇願したが、門前払いされた。そして案の定1カ月近く品切れが続いた)。

一連のトラブルの結果、そのYさんの上司Kさんが僕に謝罪してYさんを降ろし、Kさん自身がこの本についての講談社側の窓口になった。

そしてその上司Kさんが今回のメールの相手だ。「自分は忙しいから対応できない」「部下の現場担当がいないから仕方ない」というのが彼の言い分だ。まあ、そうなんだろうが、これはどう考えても僕の責任じゃないと思う。そもそも僕はYさんを降ろして欲しいとは一言も言ってなくて、Kさんが自分で判断して解任して担当を巻き取ったのだから、最後までしっかり面倒を見る責任があると思うのだが……。

とりあえず、講談社には発売前の打ち合わせを実行せず、実質的に一年間僕にプロモーションを丸投げして時間とお金を使わせた分を、少しは埋め合わせて欲しいと思う。それを僕がいま要求するのはとてもささやかなお願いのはずで、それに対してかなり失礼な内容のメールを返されたことに、僕はとても傷ついている。

しかし、ハッキリ言えば僕の心が折れたのは、Kさんから今日もらったメールの「文面」のせいだ。

なんというか、これを言ったら相手の心が折れるとなぜわからないんだろうな、と思った。Aは難しいから、代わりにBはどうかという前向きな提案ではなく、ただめんどくさそうに「拒否」。これをされたら関係が壊れると、なぜ分からないなだろうと思った。

僕はこんな邪険に、ゴミのように扱われるような仕事の仕方をしてきたんだろうか。さすがに違うと思う。必死に書いて、版元が動かない分自分で必死に売って来た。

さらに辛かったのは親しい友人に相談したら、あまりクレームを入れると講談社に実質「出禁」になるからやめた方がいいと言われたことだ。

その「アドバイス」を聞いたとき、僕は思った。要するに僕は「奴隷」の服従を求められているんだな、と。しかし僕は奴隷じゃない。僕だけじゃなく、あらゆる人間は奴隷じゃない。しかし人間は少し想像力を失うと、平気で他人を「奴隷」扱いしてしまうのだ。

自分が同じことをしないように、反面教師にしようと思った一件だった。

いいなと思ったら応援しよう!

宇野常寛 僕と僕のメディア「PLANETS」は読者のみなさんの直接的なサポートで支えられています。このノートもそのうちの一つです。面白かったなと思ってくれた分だけサポートしてもらえるとより長く、続けられるしそれ以上にちゃんと読者に届いているんだなと思えて、なんというかやる気がでます。