VUCA時代の財務戦略のあり方 #225
「低コスト資本」と安定市場の終焉
従来、企業の財務戦略は明確な前提のもとに成り立っていました。
• 低コストで資本を調達できる
• 市場はある程度予測可能である
• 成長は継続する
この環境のもとでは、売上は前年対比◯%増を前提に設定され、戦略はそれを実現するために後から組み立てる。
そんな「成長至上主義」が合理的だったのかもしれません。
ここで言う「低コスト資本」とは、単なる低金利ではありません。
借入は安く、株式発行も有利で、投資家も寛容などという、資金調達の難易度が極端に低い状態を指します。
さらに、市場も比較的安定していたため、
中長期の計画は「予測可能」であることが前提でした。
だからこそ、多少の非効率があっても、
「成長すればいずれ解決する」という発想が成立していたのだと思います。
予測不能な時代に、同じ戦略は通用しない
現代は、VUCA環境と称されるように変化が激しく、先行きの予測が難い環境と言われています。
更に、資金調達は厳格化され、インフレは常態化、景気の変動は激しい状態です。
もはや中期計画どころか、翌年の需要予測すら難しい状況です。
この環境で、直線的な成長を前提とした財務戦略は機能しません。

キーワードは「シナリオ」と「レジリエンス」
これからの財務戦略の軸は、大きく2つです。
1. シナリオベース
単一の将来を前提にするのではなく、
金利変動、為替変動、景気変動、需要変動、インフレ…など、
状況に応じた複数のシナリオを同時に想定し、それぞれに対して戦略を準備します。
重要なのは、完璧ではなく、
どのような将来であっても対応できる体制を布くことにあります。
実務的には、横軸・縦軸で複数の前提を組み合わせ、
複数の戦略オプションを持つことが望まれます。
2. レジリエンス(耐久性)
レジリエンスとは、外部環境の変化に対する強さ、回復力です。
重視すべきは、売上だけの成長ではなく財務体質の強化です。
• 無理な成長を前提にしない
• 不況でも耐えられる構造をつくる
これが出発点になります。
何を優先するべきか
結論はシンプルです。
売上ではなく、キャッシュフローとユニットエコノミクスです。
① キャッシュフロー
どれだけ利益が出ていても、
現金が残らなければ意味がありません。
利益には、必ずキャッシュの裏付けが必要です。
② ユニットエコノミクス
ビジネスを最小単位に分解し、
その単位で利益が出ているかを検証します。
「1つ増やすほど、ちゃんと儲かる構造か?」
これが成立していなければ、規模を拡大しても意味はありません。
当社の実務:MQ会計による分解
製造業である当社では、製品別を起点にMQ会計で管理しています。
• 売上 = 販売単価 × 数量
• 変動費 = 変動単価 × 数量
• 粗利 = 売上 − 変動費
• 営業利益 = 粗利 − 固定費
以上の要素は一部でありますがらこのように分解することで、
• どこに課題があるのか
• どこを改善すべきか
を迅速に把握できます。
不確実な環境においては、
分解できること=対応できることです。
経営資源の再配分も財務戦略
財務戦略は「数字」だけの話ではありません。
経営資源である ヒト・モノ・カネ・情報・知識 …
これらの配分も重要な意思決定です。
例えば人材不足に対しては、
• 採用強化だけでなく
• 生産性向上(AI活用など)
• リスキリング
といった複合的な対応が必要になります。
つまり、
経営資源の“組み合わせ”そのものが戦略になる
ということです。
財務戦略の方向性
これからの財務戦略は、
• シナリオベース(複数の未来への備え)
• レジリエンス(耐久性のある構造)
を軸に再設計する必要があると考えます。
変わったのは環境ではなく、前提です。
その前提に気づけるかどうかが、
これからの意思決定の質を分けていくのだと思います。
