努力が逆転する瞬間―ブレイクスルーポイント #82
新しい価値を生み出すことは決して容易ではありません。
特にスタートアップ企業、新規事業、新製品の立ち上げでは、努力してもすぐに成果につながらないことが多くあります。
むしろ、多くの場合、最初に訪れるのは「本当に前に進んでいるのだろうか」という不安です。
どれだけ努力しても成果が見えない。
周囲から評価されない。
時には、自分には才能がないのではないかと思ってしまう。
しかし、飛躍する企業や成長する人には、共通する考え方があります。
それは、成果が見えない時期でも、同じ方向へ努力を積み重ね続けることです。
■ 弾み車が教える、飛躍の瞬間
ジェームズ・C・コリンズ氏の著書『ビジョナリー・カンパニー② 飛躍の法則』では、「弾み車(Flywheel)」という概念が紹介されています。
「巨大で重い弾み車を思い浮かべてみよう。金属製の巨大な輪であり、水平に取り付けられていて中心には軸がある。直径は10メートル程、厚さは60センチ程、重さは2トン程ある。」
もし、弾み車(Flywheel)と言われてもピンと来ない方は、幼い頃に、公園で遊んだ、球体のジャングルジムで押すと回る遊具(正式名称: グローブジャングル)を思い出してみてください。
最初に押しても、ほとんど動きません。
力を込めても、わずかに動くだけです。
このまま押し続けて本当に意味があるのだろうかと思うほど、変化は僅かです。
しかし、押し続けことで、1回転…2回転…3回転と回り始めます。
その積み重ねによって、少しずつ速度が増していきます。
そして、ある瞬間——
弾み車は、自らの勢いで回り始めます。

■ ブレイクスルーは、努力の結果ではなく「努力の蓄積」の結果
努力の積み重ねから、ある時、突然回り出すタイミングが「ブレイクスルーポイント」です。
重要なのは、プレイクスルーポイントだけを見ると、本質を見失うということです。
周囲から見ると、「突然、成功した」、「急に能力が伸びた」ように見えます。
しかし、その瞬間を生み出したのは、直前の努力だけではありません。
1回転目。
10回転目。
100回転目。
すべての積み重ねが、突破の瞬間につながっています。
それは、ある意味、マインドセットの瞬間でもあります。
■ 経験したブレイクスルーポイント
私は学生時代、ある競技の選手でした。
中学生の頃、非常に競技センスに優れた同級生がいました。
私が1週間かけて、繰り返し練習して、ようやくできるようになる動き。
それを彼は、わずか1時間程度で身につけてしまいました。
私は練習を怠ることなく取り組んでいました。
一方で、彼は決して練習熱心なタイプではありませんでした。
それでも、実力も実績も彼の方が上でした。
正直、自分の不器用さを何度も恥ずかしく思いました。
「努力しても、才能には勝てないのではないか」
そう感じることもありました。
しかし、高校進学後、状況は変わりました。
高校2年生の春季大会。
私は、再び彼と対戦する機会を得ました。
結果は、自分でも驚くほど、簡単に勝つことができたのです。
その後、何度対戦しても負けることはありませんでした。
中学時代には、あれほど大きく感じた差が、いつの間にか逆転していたのです。
その時、私は中学時代の恩師の言葉を思い出しました。
「お前は不器用だから、他の奴らが簡単にできることにも時間がかかる。」
「でも、お前は、それでも諦めずに取り組むだろ。」
「お前にとって、不器用なことが素質なんだぞ。」
「不器用で良かったな。」
■ 企業にも、人にも「見えない期間」がある
当時、恩師の、この言葉の意味を完全には理解できませんでした。
しかし、後になって分かりました。
才能がある人は、早くできるのかもしれません。
しかし、できないことを何度も繰り返した人には、深い理解と揺るぎない力が身につきます。
私は、人より多く弾み車を押していただけだったのです。
この弾み車の概念は、守破離の概念にも通ずるものだと考えます。
守破離(しゅ・は・り)とは、武道などの修行の際に用いられる言葉で、最近ではスポーツやビジネスでも多用されるようになりました。
守とは、基本であり、なかなか成果に通じない地味な反復であったりします。
破とは、応用であり、身に着けた基本を糧として、より高い次元の取り組みにもチャレンジできるようになります。
離とは、独自の価値であり、基本と応用があってこそ、生み出されるものです。
ここに、無から守や破を通り越して、離に飛躍することはありません。
守を積み重ねたからこそ、破に取り組むことができるのであって、そこでの経験から離につながるのです。
決して、短期間で容易に離に到達することはありません。
スタートアップ企業、新規事業、新製品開発——
どれも最初から成果が出るわけではありません。
市場に認められるまで。
顧客に価値を理解されるまで。
組織として力を発揮するまで。
長い時間が必要です。
その期間は、外から見ると「失敗している時間」に見えるかもしれません。
しかし、実際には弾み車を回している時間なのです。
■ プレイクスルーポイントを迎えるために必要なこと
成功している企業や、成果を出している人を見ると、「あの人には才能がある」、「あの会社には特別な強みがある」と思うかもしれません。
しかし、多くの場合、その裏側には誰にも見えない積み重ねがあります。
プレイクスルーポイントは、偶然訪れるものではありません。
訪れるべくして訪れるものです。
ただし、その瞬間がいつ来るのかは誰にも分かりません。
だからこそ重要なのは、「いつ成果が出るか」ではなく、「成果が出るまで、弾み車を押し続けられるか」なのです。
今日の小さな努力は、まだ結果として見えないかもしれません。
しかし、その一押し一押しが、未来の飛躍を生み出しています。
そして、ある日突然――。
「あの時から変わった」
そう思える瞬間が訪れるのです。
