企業の未来を左右する「技能継承」という課題 #161
人事は「管理」から「戦略」へ
企業は、その目的を果たすために、経営理念に基づいた戦略を立案し、それに沿って事業活動をマネジメントしています。
そして、その活動を支えているのが「経営資源」です。
一般的に経営資源は、次の4つに分類されます。
• ヒト
• モノ
• カネ
• 情報
企業はこれらの経営資源を適切に配分し、組織全体として成果を生み出していきます。
その中でも、最も重要な資源が「ヒト」です。
そして今、この「ヒト」をどう活かすかという人事の役割が大きく変わろうとしています。
人事は本来「人の可能性に寄り添う仕事」
従来の人事部門は、次のような業務が中心でした。
• 労務管理
• 法務対応
• 制度運用
• マニュアル管理
つまり、人事は「制度を守る部門」であり、前例を重視する保守的・定型的なオペレーション業務に重点が置かれてきたと言えます。
しかし、人事の本質は本来そこだけではありません。
多くの人が人事の仕事を志す理由には、
• 誰かの役に立ちたい
• 人の可能性を支えたい
• キャリアに悩む人に寄り添いたい
といった想いがあります。
つまり、人事とは本来
人を管理する仕事ではなく、人の可能性を引き出す仕事なのです。

変化する企業環境と人事の役割
現在、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。
• 労働力不足の深刻化
• 従業員平均年齢の上昇
• 技能継承の困難化
• 機械化・デジタル化の進展
こうした環境の中で、従業員一人ひとりには、これまで以上に創造性や高度な能力の発揮が求められるようになりました。
その結果、人事は単なる管理部門ではなく、
経営戦略を人材面から実行する機能
としての役割を担うようになっています。
戦略的人的資源管理(HRM)
こうした背景の中で重要視されているのが
HRM(Human Resource Management)
=戦略的人的資源管理
です。
HRMとは、人材を単なる労働力ではなく、
企業の価値を生み出す戦略資源
として捉える考え方です。
企業の競争力は、
• 人材
• 組織
• 知識
によって生み出されると言われています。
そのため、人材戦略は企業戦略と切り離すことができません。
日本企業が直面する「技能継承問題」
HRMの重要課題の一つが、技能継承問題です。
技能継承が難しい理由は、
技能とは再現性の低い能力だからです。
言い換えれば、それは職人技です。
技能の特徴は次の通りです。
• 経験に依存する
• 言語化が難しい
• 再現が困難
そのため、技能の習得や継承には
長い時間が必要になります。
「2007年問題」から始まった課題
技能継承問題が大きく注目されたのは、
いわゆる2007年問題でした。
日本の第一次ベビーブーム世代
(1947〜1949年生まれ)
いわゆる団塊の世代が
2007年から一斉に60歳定年を迎えました。
これにより、
• 熟練技術者
• ベテラン社員
• 現場の技能者
が大量に退職し、
企業の技能が失われることが懸念されました。
その後、65歳までの雇用確保措置によって
一時的に問題は緩和されました。
しかしこれは、本質的には
問題を先送りしたに過ぎません。
現在は、当時以上の労働力不足の中で、
技能継承問題が再び深刻化しています。

「技能」と「技術」は違う
現場では「技能」と「技術」が
同じ意味で使われることもあります。
しかし、本来この2つは異なります。
✅技術
図面・数式・言語などで表現できる
共有可能な形式知
✅技能
経験や感覚に基づく
個人の暗黙知
つまり
技術は共有できるが、技能は共有しにくい
という違いがあります。
技能継承の進め方
技能継承を進めるためには、次の順序が重要です。
① 技術の継承を優先する
まずは、優れた技能者から
形式知として共有できる「技術」
を優先的に継承します。
この部分は
• デジタル化
• データ化
• マニュアル化
を進めることが可能です。
② 技能の技術化を試みる
次に、暗黙知である技能を
• 分解
• 言語化
• 数値化
することで、可能な限り技術化を試みます。
③ 残った技能を人から人へ継承する
それでも残る「純粋な技能」は、
人から人へ継承するしかありません。
そのため、
本当に人でしか継承できない技能に
時間とリソースを集中させる
ことが重要になります。
DXとナレッジマネジメント
この考え方は、
• Connected Industries
• DX(デジタルトランスフォーメーション)
の流れとも深く関係しています。
また、その実践手法として有効なのが
ナレッジマネジメントです。
企業に蓄積された知識を
• 見える化
• 共有
• 再利用
することで、組織として知識を活用していきます。
シニア人材とサクセスフル・エイジング
技能継承を考えるうえで、
もう一つ重要な視点があります。
それはシニア人材の活躍です。
技能を継承した後、
ベテラン社員の仕事を奪うのではなく、
人生の後半を充実させる
サクセスフル・エイジング
という考え方も重要になります。
企業は
• 技能継承
• シニア人材の活躍
• 健康と働き方
のバランスを取りながら
取り組みを進めていく必要があります。
企業の未来は「人」がつくる
技能継承は、企業の未来を左右する重要なテーマです。
しかし、それは
短期間で解決できる課題ではありません。
だからこそ、
• 戦略的人事(HRM)
• デジタル化
• ナレッジマネジメント
• シニア人材の活躍
といった複合的な取り組みが必要になります。
企業の持続的成長のために、
人と組織の視点からの変革が、今まさに求められています。

