「自分にしかできない仕事」を手放すと組織は強くなる #75 ナレッジマネジメント
人は一人で成せることに限界があります。
だからこそ私たちは、同じ目的を持つ人たちと共に組織をつくります。
しかし、同じ目的を持っているとはいえ、組織の成員一人ひとりには固有の人格があります。
考え方や価値観も違えば、目的を達成するための手段もそれぞれです。発揮できる能力も一律ではありません。
こうした多様な人材が集まる組織において、目的を達成するための機能がマネジメントです。
マネジメントとは、人材を含めた組織のさまざまな資源を活用しながら、あらかじめ答えが用意されていない未知のパズルを完成させていくような営みとも言えるでしょう。

マネジメントの本質は「シナジー」を生み出すこと
マネジメントとは、単に人や資源を管理することではありません。
それは組織の中にシナジー(相乗効果)を生み出すことでもあります。
シナジーとは、複数の要素が相互に作用し合うことで、単体で得られる以上の成果を生み出すことです。
つまり、個々の能力を単純に足し算するのではなく、
掛け算の成果へと変えていくことがマネジメントの役割とも言えます。
この点について、マネジメントの父と呼ばれるピーター・ドラッカーは次のように述べています。
「マネジメントとは、人に関わるものである。
その機能は人が共同して成果をあげることを可能とし、
強みを発揮させ、弱みを無意味なものにすることである。」
この言葉は、マネジメントの本質を端的に表しています。
組織とは、個人の弱みを補い合い、強みを掛け合わせることで、一人では到達できない成果を生み出す仕組みなのです。
ナレッジマネジメントという考え方
マネジメントの具体的な手法の一つに、ナレッジマネジメントがあります。
ナレッジ(knowledge)とは、知識や知見、スキル、ノウハウなど、仕事に役立つ情報のことです。
ナレッジマネジメントとは、個人が持つナレッジを組織全体で共有し、組織の生産性向上や新たな価値の創造につなげる経営手法です。
知識管理や知識経営と呼ばれることもあります。
しかし、実際の組織では、このナレッジの共有は簡単なことではありません。
たとえば、ある社員が優れた知識やノウハウを持っていたとしても、それが他の成員と共有されていなければ、組織として十分に機能することはできません。
さらに、その知識が誤って伝わってしまえば、組織内に混乱を生じさせる可能性もあります。
ナレッジには「形式知」と「暗黙知」がある
ナレッジには大きく分けて、形式知と暗黙知があります。
■形式知
形式知とは、言語化・数値化・視覚化された知識です。
例えば次のようなものです。
• 作業手順書
• マニュアル
• 報告書
• 書籍
• データベース
こうした形式知は整理・共有がしやすく、組織の知識として蓄積することができます。
近年ではデジタル化の進展によって、グループウェアなどを活用した情報共有の仕組みも一般化しました。
■暗黙知
一方で問題となるのが暗黙知です。
暗黙知とは、主観的・感覚的な知識のことです。
例えば、
• 職人の勘
• 熟練者の技術
• 経験から生まれる判断力
といったものが挙げられます。
これらは言語化されていないため、そのままでは他者に伝えることが難しく、習得にも時間がかかります。
変化する雇用環境とナレッジ継承
従来の日本企業では、この暗黙知の継承が比較的機能していました。
多くの企業が採用してきたのは、いわゆるメンバーシップ型雇用です。
新卒一括採用を行い、長期的な教育を通じて総合職として育成しながら、部署の異動によるジョブローテーションを繰り返し、ゼネラリストを育てていく仕組みです。
この仕組みの中で、暗黙知は長い時間をかけて自然に継承されてきました。
しかし現代では、働き方が大きく変化しています。
同一企業での昇進・昇給よりも、転職によるキャリアアップを選択する人も増えました。
その結果、メンバーシップ型雇用は徐々に崩れつつあり、長期的なナレッジの継承が難しくなっています。
だからこそ、ナレッジマネジメントの重要性はますます高まっているのです。
ナレッジマネジメントのプロセス
ナレッジマネジメントには、次のようなプロセスがあります。

1.共同化(暗黙知 → 暗黙知)
共通の体験や作業を通じて、経験を共有する段階です。
2.表出化(暗黙知 → 形式知)
主観的・感覚的な暗黙知を言語化・数値化・視覚化する段階です。
3.連結化(形式知 → 形式知)
形式知となった情報を整理・集約して体系化する段階です。
4.内面化(形式知 → 暗黙知)
形式知として理解した知識を実践を通じて体得する段階です。
この循環によって、個人の知識は組織の知識へと変わり、さらに新しい知識を生み出していきます。
「自分にしかできない仕事」を手放す
ナレッジマネジメントを進めることで、社内に点在していた情報は組織の知識として可視化され、効率的に活用できるようになります。
それによって、
• 業務の属人化の解消
• 生産性の向上
• ナレッジの相乗効果
• 組織の活性化
といった効果が生まれます。
ここで、改めて考えたいことがあります。
人は一人でできることに限界があります。
だから組織は、互いの能力を掛け合わせるために存在します。
そう考えると、組織において
「自分にしかできない仕事」を誇ることには、あまり意味がありません。
むしろ本当に価値があるのは、
「自分にしかできない仕事」を
「誰でもできる仕事」に変えていくことです。
そうして初めて、自分はまた次の
「自分にしかできない仕事」
に挑戦することができます。

組織はこの転換によって成長する
個人の知識を組織の知識へ。
そして組織の知識を、次の価値創造へ。
この転換の繰り返しこそが、組織力を強くしていくのだと思います。
ナレッジマネジメントとは、単なる情報共有の仕組みではありません。
それは、組織が進化し続けるための仕組みなのです。
