リスキリングが“選択肢”ではなくなった時代 #20
かつて「時代の寵児」としてメディアに持ち上げられていた経営者や政治家、著名人が、信じられないほどあっけなく姿を消していく。
私たちは、そんな光景を何度も目にしてきました。
一時的に輝くことなら、努力や実力だけでなく、運や勢い、あるいは「虚勢」によって成立することもあるのかもしれません。
しかし、それを持続させることは、まったく別の話です。
福沢諭吉氏の著書「学問のすすめ」のなかに
「進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む。」
という言葉があります。
この言葉は、今の時代だからこそ、より重みを増しているように感じます。
なぜなら、今は「変わらないこと」が許されにくい時代だからです。
環境は、常に変化しています。
しかも、そのスピードは、これまでとは比較にならないほど速い。
企業にとって重要なのは、単純に「優れているかどうか」ではありません。
変化に適応し続けられるかどうか。
そこが、これからの企業の生存を左右するのだと思います。

■ 変わるのは仕事だけではない。求められる人材も変わる
その象徴が、デジタル技術の進化です。
デジタル化というと、「便利になる」「仕事が楽になる」というイメージを持つ人も多いかもしれません。
しかし、本質はそこではありません。
デジタル技術は、ビジネスそのものの前提を変えてしまう力を持っています。
既存市場の構造が変わる。
これまで存在しなかった市場が生まれる。
ビジネスモデルそのものが変化する。
仕事の進め方や役割が変わる。
つまり、これまでの成功パターンが、そのまま通用するとは限らなくなっているのです。
ビジネスモデルが変われば、当然、求められる人材も変わります。
必要とされる知識も、スキルも、仕事の進め方も変わって行きます。
だからこそ、これからの人材には、単に「与えられた仕事をこなす能力」だけではなく、変化を理解し、新しい価値を生み出す力が求められるのだと思います。
一方で、多くの企業が、その変化に十分追いつけているとは言えません。
IT人材の不足、慢性的な人手不足、そして、デジタル化によって既存業務そのものが変わっていくという現実。
ただし、ここで注意しなければならないのは、DXそのものを目的にしてはいけないということです。
「デジタル化すること」が目的になってしまえば、本末転倒です。
大切なのは、何のためにデジタルを活用するのかです。
そして、デジタル化によって、どんな価値を生み出したいのか。
この目的を明確にすることです。
技術が進化するほど、むしろ人間には「何を実現するのか」を考える力が求められるのだと思います。
■ 「会社がキャリアを与える時代」は終わった
これからの10年で、多くの仕事が変化し、それと同時に新しい仕事も生まれてくると言われています。
こうした変化を背景に、企業では「戦略的HRM(人材資源マネジメント)」の重要性が高まっています。
人材を単なる「コスト」として捉えるのではなく、未来をつくるための投資として捉える考え方です。
日本の雇用環境も、少しずつ変わり始めています。
かつては、「会社に入れば、会社がキャリアを用意してくれる」という考え方が、ある程度成立していました。
しかし、これからは違います。
キャリアは、自分で選び取っていくもの。
その傾向は、ますます強くなって行くものと思われます。
では、自分でキャリアを選択するために必要なものは何かです。
私は、シンプルに「選べるだけのスキルを持っているかどうか」だと考えています。
選択肢を増やすのは、会社でも肩書でもありません。
自分自身の能力です。
■ リスキリングは「やり直し」ではない
そこで重要になるのが、リスキリングです。
リスキリングは「学び直し」と訳されることがあります。
しかし、単純に過去の知識を復習することではありません。
これからの仕事に必要となる、新しい知識やスキルを身につけること。
つまり、過去に戻るための学習ではなく、未来に進むための学習だと私は捉えています。
時代が変われば、仕事も変わる。
仕事が変われば、必要な能力も変わる。
だからこそ、組織も個人も、常にアップデートしていかなければなりません。

■ 「学ばない」という選択にも、リスクがある
しかし、ここには大きな壁があります。
それは、変化への抵抗です。
特に、長年その仕事に携わってきたベテランほど、自分なりの経験や成功体験を持っています。
それ自体は、決して悪いことではありません。
むしろ、長年積み上げてきた経験は、企業にとって大きな財産です。
問題は、その経験が「これからの時代にも、そのまま通用する」と考えてしまうことです。
人は、自分が慣れ親しんだ方法を変えたくないものです。
「今までこれでやってきた」
「特に問題はなかった」
「新しいことを覚える必要はない」
そうした考えが積み重なると、変化しないことを正当化するようになります。
そして、最も怖いのは、本人が変わっていないことに気づかないまま、環境だけが変わっていくことです。
気づいたときには、これまで必要とされていたスキルが、すでに市場では必要とされなくなっている。
そんなことも、これからは決して珍しくなくなるのかと思います。
だからこそ、リスキリングは若い人だけの話ではありません。
むしろ、経験を積んできた人ほど重要なのではないかと思います。
企業にとっても同じです。
人材不足だからといって、経験豊富な人材を手放してしまう必要はありません。
重要なのは、その人が持っている経験や強みを、新しい仕事や新しい価値につなげること。
それこそが、経営の役割なのだと思います。
変わることは、これまでを否定することではありません。
これまで積み上げてきたものを、次の時代につなげることです。
■ 学歴で、人材の価値は決まらない
ここまで少し大きな話をしてきました。
しかし、これは決して「どこかの大企業の話」ではありません。
私たちのような中小企業にとっても、極めて重要なテーマです。
大企業のように、一流大学を卒業した人材が数多く揃っているわけではありません。
だからこそ、私はこう考えています。
一流大学を卒業したからといって、一流の社会人であるとは限らない。
本当に重要なのは、学歴ではありません。
その人が、社会や会社に対して、どれだけの価値を生み出せるかです。
ただし、学歴そのものではなく、そこで身につけた「学ぶ力」には意味があると思っています。
新しいことを学ぶ。
分からないことを調べる。
自分の考えを修正する。
知らない世界に飛び込む。
こうした姿勢を持っている人は、環境が変わっても成長し続けることができます。
逆に言えば、私自身も含め、まだまだ勉強不足です。
学ぶ意欲が十分なのかと問われれば、胸を張って「十分だ」とは言えません。
だからこそ、そこから目を背けてはいけないと思っています。
■ だからこそ、今はチャンスでもある
現代そして、これからは「変化が激しい時代は大変だ」と感じるかもしれません。
確かに、簡単な時代ではありません。
しかし、私はむしろ、大きなチャンスでもあると思っています。
なぜなら今は、過去の肩書や学歴、これまでの成功体験だけではなく、
「これから何を学び、何ができるのか」
が問われる時代だからです。
過去にどんな学校を出たのか。
これまでどんな会社にいたのか。
何年その仕事をしてきたのか。
それだけで未来が決まるわけではありません。
今から学ぶことができる。
今から新しいスキルを身につけることができる。
今から新しい価値を生み出すことができる。
そう考えれば、変化の激しい時代は、これまで以上に個人の可能性が広がる時代でもあります。
だからこそ、私たちは、
・将来に対する強い探究心を持つ
・学び続けることを当たり前にする
・経験を新しい価値へと変換する
・変化を恐れず、新しい仕事に挑戦する
そんな組織に変わっていきたいと考えています。
■ 「消えない人」と「選ばれ続ける組織」
変化の激しい時代において、立ち止まるという選択肢は、少しずつなくなっているのかもしれません。
進むか。
それとも、相対的に後退していくか。
その分かれ目は、必ずしも大きな才能ではないと思います。
毎日少しずつ学ぶ。
知らないことを知ろうとする。
自分のやり方を疑ってみる。
必要なら、これまでの成功体験さえ手放す。
そうした小さな姿勢の積み重ねが、やがて大きな差になります。
変わることは、過去を捨てることではない。
これまで積み上げてきた経験を、新しい時代の価値へと変えていくことです。
そして、学び続けることは、自分の価値を守るためだけではありません。
会社を守り、仲間を守り、次の世代へ経験をつないでいくためでもあります。
「進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む。」
この言葉を、単なる格言として終わらせないために。
私たちは今日も、学び続けなければならないのだと思います。
“消えない人”になるために。
そして、“選ばれ続ける組織”であるために。
