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【連結経理課・和服ちゃん】(PMI編12営業日)失踪の理由と原因と

 1.不正な財務報告による虚偽表示に関する要因
 (1)動機・プレッシャー
 4 経営者(子会社の経営者を含む。)、営業担当者、その他の従業員等が、取締役会等が掲げた売上や収益性等の財務目標(上長から示されたもの等を含む。)を達成するために、過大なプレッシャーを受けている。
(監査基準報告書240号A24付録1内 (1)4)

 田端部長の机の上には退職願だけがぽつんと置かれていた。色々とあった私物は全て無くなっていた。
「……私、今社内にいる役員にすぐに伝えてくる」
 山口主任は部屋を飛び出していった。
 私は自分の机の上に置かれた手紙を開いた。そこには田端部長の丁寧な字でこう書かれていた。

「三和さんへ

 この手紙を読む頃、私はもう会社を離れていると思います。突然のことで驚かせてしまって、本当に申し訳ありません。
 まず最初に、謝らせてください。あなたに感情的な言葉をぶつけてしまったこと。それを今でも後悔しています。
 振り返ると、私はこの半年ほど、常に何かに追われるような気持ちで働いていました。買収の話があった時、先代社長から託された管理部をどうすれば守れるか、そればかりを考えていました。部内には余計な不安を与えたくない。でも買収では会計士の先生から厳しくチェックが入る。その板挟み役を一人担う中で、自分でも気づかないうちに視野が狭くなっていたのだと思います。
 あなたが来てから、本当はその冷静さと粘り強さに、何度も助けられていました。それを、東集商事からの監視と、どこかで思ってしまっていた。
 伊原くんから『和服ちゃんには気をつけたほうがいい』と言われたとき、私は冗談交じりの話だと笑って受け流していました。でも、気づけばその言葉が頭を離れず、あなたを疑ってしまっていた。
 本当に、情けない限りです。
 あなたが見つけた問題は、私がずっと目を背けていた課題でした。だからこそ余計に、腹が立ったのかもしれません。
 でも今は、本当に感謝しています。
 ありがとう。そして本当にすみませんでした。
 私は、この会社の管理を託してくれた先代社長に謝り、その上で今後を考えようと思っています。
 そしていつか、あなたのような真っ直ぐな人と、また仕事ができたらと思っています。
 三和さんのこれからを、心から応援しています。

 田端 利充」

 読んでいると、目の奥が熱くなった。
 真面目な田端部長だから、ここまで頑張ってしまい、擦り減っていってしまっていたのかと思うと――申し訳なさで胸がいっぱいになった。
 涙をこぼしそうになるのを我慢していると……伊原さんが経理の部屋へいつの間にかきていた。
「和服ちゃん、ちょっとこれはないよ。
 田端部長、いなくなっちゃったじゃない」
 いつもの、おちゃらけた声ではない、どこか硬い声。
 私は、伊原さんの顔を見ることができなかった。
「和服ちゃんが東集さんから来て、調査しろって言われているのは分かってたけど、田端部長を退職するまで追い込め、とも言われてたの?
 そんなことして、困るのは東集さんじゃないの?
 俺たち営業部も田端部長がいなきゃ業務に支障が出てとても困るんだよ」
 伊原さんの声には熱がこもり、次第に大きな声が私に向けられた。伊原さんの言葉を聞いて、涙が出てきて止まらなくなった。
 伊原さんは、そんな私にお構いなしに続けた。
「もう少しおとなしくしておいてくれたら、俺が田端部長、どうにかして連れ戻してくるよ。
 ……頭のいい君なら、この意味、分かるよね?」
 そういいながら、ARAハイテックの契約書ファイルを私の机の上にポンッとおき、伊原さんは経理課の部屋を後にした。
 私は膝から崩れ、机に突っ伏した。

 伊原さんと入れ替わるように、藤川さんが出社をしてきた。
「……和服さん!? 大丈夫ですか?  何が、何があったんですか!?」
 普段の藤川さんとは思えない声を大きな出して、私に駆け寄ってきた。私は目を開けて藤川さんを見上げた。
 藤川さんの顔が、とてもぼやけて見えた。

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