見出し画像

思いっきり握ってください

言ってから後悔した

大学一年の夏、文部省の調査プロジェクトのボランティアとしてトンガに1か月滞在した。

        (準備期間の話はこちら)


調査が始まって、身体計測を担当する。

準備期間中に島の唯一の本屋兼お土産屋で、「IntensiveCourseInTongan」というトンガ語の教則本を買ってきた。英語でトンガ語の解説がしてある結構厚手の本。

身体測定は、垂直飛びと握力検査の2つを担当した。
「思いっきり飛んでください」
「思いっきり握ってください」
この2つをトンガ語で覚えた。

結果、
「思いっきり飛んでください」は誰にも理解されなかった。
みんなぴょんとはねて、30cmとかの結果が出てしまう。トンガのダンスは飛び跳ねないし、日常生活で飛ぶ必要も全くないからだろう。そもそも計測の意義を理解してもらう語学力がなかった。

「思いっきり握ってください」はやばい結果になった。
ちょっとかしこまった服装の紳士、思いっきりと言ったのに、表情も変えず、みたところ指だけでひょいっと握った。94kg。もう一度握りなおさないうちに素早く握力計をもぎとった。反対の手はやらなかった。次の人から、「握ってください」だけになった。「そうっと握ってください」というトンガ語は調べてなかった。100kgまでの握力計に予備はない。みんながヤシの木にするすると登れる理由が分かった。

結局、自分の測定項目2つは、ほぼ意味のないデータになったと思う。誰にも言わなかったけれど。

「思いっきり飛んでください」も多分ちゃんと伝わっていたら、壁に張った目盛りは簡単にスケールアウトして、それほど高くなかった天井がやばいことになっていたと思う。

計測が終わってから一緒に家庭訪問調査に行った自分といくらも違わない歳の女性看護師は、あの紳士より背が高かった。豪快に笑うフレンドリーな彼女と一緒に歩くのがちょっと怖かった。


いいなと思ったら応援しよう!