バナナ
大学の1年生の夏 トンガに1か月いた
文部省の医学栄養学社会学調査隊のボランティア
到着してから荷物を受け取って開梱するだけの1週間があった デリケートな機器ばかりなので素人には手が出せない どこかに行ってきていいよとのことで バナナ農場で現地の人の下で見習いをした
トンガ流のバナナの栽培法を 植えるところから収穫が終わって木を切り倒すところまでしっかり習った
バナナは根元から脇芽が出る それを細い先のとがったスコップで親の木から切り離して 空いている場所に植えると自分で育っていく この作業は現地の言葉で 「ディサカ」と呼ぶと習った 掘り取るのに力がいるがそんなに難しくはない
育ってくると 円錐状の紫のさやに包まれた花が咲く 少し経つと花の根元が、紫の袋の中で大きくなってくるが(これがバナナになる)、外からは見えない なれると紫の円錐の大きさと色の変化で中がわかるらしい いまだ、という日が来ると、消毒薬(虫が付きやすい)のとがった噴霧ノズルを 紫の円錐にブスッとさして 中に噴霧する ジェリー缶のようなものを肩からひもでかけて、缶の上の手押しポンプをおすと噴霧される
トンガのバナナは背が高く 地面に立ったままでは届かないものがあるので この作業は馬の上でやる バナナの列の間を 花(紫の円錐)の様子を見ながら 馬の上にのったまま歩き これはと思うものに消毒薬を噴霧していく
当然馬に乗れないと始まらないが乗馬経験なんてあるわけがない トンガの馬は農耕馬なのでポニーよりは大きいがサラブレッドほどは大きくない 鞍はつけない 皮の馬具もない ロープを首にゆるくつけ 鼻の周り、口のすぐ上をロープでひと巻きして 手綱にする部分を 後ろに回して 鼻の周りのロープに挟んで固定する 馬の背中にココナッツを入れる麻袋を一枚敷いて よじ登って座る 馬の腹を足で軽くけると前に進み 手綱を引いたほうに馬は回る 両方の手で手綱をひいて馬の首を上にあげると 馬はとまる バナナの木の間ではスピードは出ないから ちょっと練習したら 自分も乗れるようにはなった 調子に乗って開けたところでギャロップさせたらスピードが出て真剣に怖かった この消毒作業はなぜか英語の「スプレイ」と呼ばれていた
馬を歩かせながらの バナナの花の消毒は 少しやってみて 自分にはまだ早いとあきらめた 馬の上でバランスをとってポンプを動かすのは結構難しく 5,6本やると疲れてしまうので 軽やかに馬をあやつって次々と消毒していく現地の人には全くかなわない 自分がやっていたら仕事が終わらなくなってしまう
収穫は現地の人は腰に下げている刀(のような大型ナイフ)でバサッと花の根元(バナナの房の根元)から切り取る これは バナナに傷をつけるとこまるので やらせてもらえなかった 自分の仕事はひたすらバナナを運ぶこと
バナナは一度実がなると2回目は花をつけない 気候がいいので木はまだしばらく育つが スペースと栄養の無駄なので、収穫が終わった木は切り倒す バナナの木 というが 実はバナナは草 腰の刀(ナイフ)を2、3回思いっきり振ると切り倒せる やらせてもらったが自分の力では日が暮れそうだった 相当筋トレしないと無理 切り倒した木の根っこの部分は掘り取って そのあとに「ディサカ」の脇芽を植えていくと次の世代が始まる
昼食はバナナと羊の関節を焚火のスープ缶の中で焼いたもの バナナは青いうちに収穫して焚火に放り込んで焼くと主食になる(この目的だけの調理用バナナの品種もある)
飲み物は、その辺にいくらでえも生えているヤシの木の実 現地の人は足と手で階段を上るようにするすると登って行って実をねじりきって落とす やってみたけど根元から1mも登れなかった 尋常でない握力と腕力がいる 落とした青いヤシの実は上の部分を腰の刀(ナイフ)でバスっと一気に切って中の水があふれだすのを口で受け、実を空にかざすようにして口の中に水を落とし込む 当然Tシャツはびしょびしょになる ちょっと青臭いけど厚いからに包まれているので水は割と冷たく、暑い日差しの下では生き返る味
一日が終わってバスでホテルに帰る バスに窓ガラスはなく 雨が降ると外から幌をおろして車内は真っ暗になる 雨が上がると幌をあげ、誰かが歌いだし 自然とパートが分かれて 素晴らしいアカペラの合唱になる 日本だったらこのおばちゃんおじちゃんたち、みんなプロ
素晴らしい環境の中で 先生3人生徒1人で集中講義をうけたバナナ栽培だけれど 残念ながらそれ以来一度もこの技術を使う場所がない ロープで手綱をつくって 麻袋で裸馬にのせてくれる場所も まだ見つけられていない
