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プダペスト1日目、Vは王宮の丘のゲートをくぐる🇭🇺

 ウィーンから244km、ハンガリーに向かう。
「ドナウの真珠」と称えられる首都ブダペスト。ハンガリーへの初めての旅である。二泊三日の日程では、この国のほんの一旦を眺められるだけ。

 リストやバルトークを輩出した国である。その音楽に触れたり、有名な温泉を巡るには、何日滞在すればいいだろう。次回に向けての予習の旅だと思っておこう。

 とはいえ、ハンガリーは長年憧れた国である。オーストリア=ハンガリー二重帝国であった時代、フランツ•ヨーゼフ皇帝、エリザベート皇妃が戴冠式を行った教会や長く滞在した郊外の城へは、勿論行く予定にしている。
 何よりも、皇妃が愛したこの国に来ることは、オタクとしてマストである。やっと念願が叶うのだ。
 


⚫︎ハンガリー概要

 ヨーロッパのほぼ中心に位置するハンガリー。ロシアのウラル山脈の麓に住んでいた騎馬民族、マジャル人が9世紀後半にこの地に住み着いたのが国の始まりとされており、オスマン朝やハプスブルグ家による支配といった幾度の歴史の変遷にさらされながらも、独自の文化と歴史を育んできた。

 ラテン系やスラヴ系の国に囲まれ、“ヨーロッパに投げられたアジアの石”といわれる彼らは、自らをマジャル人と呼ぶ。現在では混血が進み、容貌からアジアを連想することは難しい。それでも彼らは自分たちのルーツに誇りをもっている。姓が名前の前にきたり、赤ちゃんのお尻には蒙古斑があったりと、日本人と共通している点も少なくない。

地球の歩き方〜中欧〜2017〜2018  P168より抜粋



 そう、中欧はヨーロッパの真ん中にありながら、アジアを感じる雰囲気がある。スラブ系の民族、美しい街並みや世紀末の雰囲気の中にある、何か重い土着的な空気、Vはそのドラマチックな魅力に惹かれる。

 中欧の国々は、チェコ、ポーランド、スロヴァキア、ハンガリー、スロヴェニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、セルビア、モンテネグロ、マケドニア、アルバニア、コソヴォ、ルーマニア、ブルガリア、オーストリア
 こうして挙げただけでも、多様な民族や文化が混在する都のイメージが浮かび上がる。
 


 国境が近くなってきた辺りで、高速道路のパーキングエリアに寄ってヴィニエット(Vignette)を買わなくては、という話になる。

 ドイツのアウトバーンは無料であるけれども、近隣の国には料金所はなく、事前にオンラインやガソリンスタンドで車のナンバーを登録して、10日、1ヶ月、1年などの期間別チケット代を支払う必要がある、

 このパーキングエリアには、ヴィニエット専用の小さな売り場が駐車場に数ヶ所ある。それ以外にかつてその売り場であった建物が廃れたまま残っている。こうしたパーキングエリアに古い建物が放置されることなど、これまで行った国では見たことがない。
 それにしてもこの支払う場所がこのように何ヶ所もあり、それぞれ列ができている。他の国ではガソリンスタンドのレジだけなのに、ハンガリーではこんなに必要? 必要なのだろう。 これも初めて見る風景。

 この休憩所は売店も古い。中に入ってみると、店のレジに男性が一人、そばに年配の女性が一人だけ。
 トイレの入り口で料金を入れようとすると、近隣の国では€で支払えるけれど、この機械はとても旧式で使えるのはフォリントのみ。
 1€=387フォリント。トイレ使用料は200フォリント(約0.51€)

 入国前であり、€しか持ち合わせがない。2€硬貨を出してみたら、「支払わなくて良い」とそのまま通してくれた。申し訳ないので、英語とドイツ語で「お釣りはいらないので受け取って」と伝えたが、笑いながら「いいから」と。
 家庭的だ。高速のパーキングエリアではなかなかない光景。

 初めて使う通貨はなかなか慣れず、その後カードしか使わないようにしていたものの、値段を判断するには計算が必要だ。
 ここでの初めてのフォリントの換算以降、値段を見たら、
「200フォリントは大体0.5ユーロだから、400フォリントで1ユーロでしょ、だからこのお皿は‥‥」
とそれを基準に計算していた。

 フォリントのゼロの多さに、久しぶりにトルコリラ🇹🇷を思い出す。インフレの国ではVの金銭感覚は麻痺する。
 そのうち計算が面倒になり、考えることすらやめた。何を見ても「全体的に物価は安い」で済ませたのだった。



 国境を越える。オーストリア方面からの入国は普通に走り抜けられるが、反対側を見ると、ハンガリーからの出国は一台ずつナンバーのチェックをされるので少し渋滞が起きている(ドイツのナンバーの車は止められることはない)。

 しばらく走ると、風力発電の風車が見渡す限り立ち並ぶ。ドイツや近隣の国でも郊外ではよく見かけるものの、これだけの数が並ぶのは初めて見る。

 ドイツは原子力発電を止めてから、風力発電に移行させているけれども、まだまだ電力不足の為、お隣の国からお高めの値段で買っている。今後更に風車を数十万基増やすらしい。
 あと10年もすれば、このような数の風車がぐるぐる回る景色が増えることだろう。


▪️王宮の丘へ
 ブダペストの街に入る。マーチャーシュ教会がある王宮の丘を目指して走っていると、Oがソワソワし始めた。ナビに入れてある駐車場には少し不安があるようだ。

 「一般車が入れていい駐車場なのかどうか、わからない」らしい。入れてもいいけれども、中心地すぎて、とんでもない料金が発生するケースもあるかもしれない。初めての国は、まず駐車場の様子がわからないところから始まる。
 である為、目的地の手前に駐車場があったら、そちらも検討しようということになった。
 
 丘に上がる道に入った。駐車場は見当たらないが路上駐車の車が並ぶ。見ていると、観光客らはそこで車から降りて、丘を目指して上り始めている。頂上はまだまだずっと先だ。
「ここからは遠すぎるな‥‥」とOが呟く。


そろそろ頂上

 上り続けると教会が見えてきた。上り坂はまだ続く。王宮の丘は高さ約60m、長さ1.5km。
 頂上が近づくと、更に急な坂道となった。駐車場は結局見つからず、路駐できるエリアはぎっしり。そして、そのエリアが途絶え、ヘアピンカーブがあり、その先に何だかとても立派なゲートが現れた。

 周囲に一般の建物はなく、観光客は坂道の途中から教会方面に向かう別ルートがあるらしく、誰も歩いていない。
 そこは駐車場の入り口というより、どう見てもエリアを分けるゲートだ。
[ここから先、王宮の丘。一般車お断り]という意味のゲートだろうか、とVは考えた。

 けれども[お断り]とも書いてない。こういうのが一番厄介なのだ。そばに案内は何もなく、入っていいのかいけないのかもわからない上に、その時はうちの車以外他の車が通らず、誰も教えてくれる人はいない。しかし、ナビの案内はその先に向かっている。

        ✈️✨✈️✨✈️

 Oが駐車場に入る際に慎重になるのは、かつて苦い経験があったからだ。ドイツの空港に知人の見送りに行った折、停めようと思っていた駐車場をうっから通り越してしまい、一方通行の道なので、その少し先にあった駐車場に入れたことがある。
 うっかりして通り過ぎても、その先にも駐車場は何ヶ所もあるのだし、何ならぐるっと回ってやり直せばよかったのだ。しかし、Oはせっかち。やり直しなどする気はない。
 入ってみると、他の車は少なく、大変広く、空港の建物にすぐ入れる。便利だった。
 しかし、沢山ある駐車場の一つに思えたその場所は、一旦入れると短時間でも1万5千円くらいの料金が請求される場所だったのだ。Oはかなり凹んだ。

 よく空港で使っている地下駐車場は、車を停めて近くのドアを開けると、すぐ空港の通路に出られて、とても便利なのだ。近いとか便利なことに慣れていたので、まさかそこが特別な駐車場だということに、OもVも気づかなかったのである。おまけに入り口の脇には詳しい表示がなく、騙された感が強かった。 
 Oはしばらく空港に行くのがトラウマになっていた‥‥

       ✈️✨✈️✨✈️


 Vはいかにも特別感のあるゲートを眺めながら言った。
「でも、ナビはお利口だから、今まで旧市街の複雑な道でも、進入禁止とかの大間違いはしたことないじゃない?  
パーキングだって、一般車OKのところしか案内してこなかったし。絶対禁止のルートは案内しない筈だから‥‥多分大丈夫!!」
Vが判断を下す。

 チケットを取り、ゲートを越えると、いきなり丘の中心地が目の前に広がった。そこは教会周辺の立派な街並みで、ホテルやレストランなどが並ぶ。教会のすぐ近くにはヒルトンホテルがあった。
 取り敢えず、ヒルトンに車で来る人たちはあそこを通らなければ来られないのだから、ゲートをくぐったのは間違いではなかった、ということにする。

 少し先にはレストランが並び、店の前には駐車場が並ぶ。おまけに何台も空いている。こんな便利な場所が空いてあると、余計にOは不安を口にする。
 その位置に標識や料金の機械がないので、店の利用者用なのかもしれないけれど、その表示もない。

「訊くしかないな」
 Oはレストランの案内カウンターに向かい、そこにいた人と長く話している。
 ホッとしたような顔で戻って来ると、
「大丈夫だった」と。

 レストランの人は、この地域の駐車事情を丁寧に教えてくれて、
「坂の途中の道に停めればタダだったのに」
と笑っていたそうだ。

 王宮の丘は入り口と出口にゲートがあり、その中は王宮、教会、博物館のある一つの街のようになっているのだけれど、白線で区切られているスペースに停めれば大丈夫とのこと。料金はある程度かかるけれども、一般車が停めることは問題ないそうだ。

 ナビは正しく、便利でリッチな駐車可能な場所を案内してくれたのだった。実際あの途中の坂に駐車したら、教会の見学の前にVの体力が持たなかったかもしれない。

        🚙🅿️🚙🅿️🚙


 どこの国でも、歴史的建造物の下に無理矢理作った感のある地下の駐車場などは、進入路も駐車スペースも大変狭い。狭い入り口を入るとすぐに急な下り坂(『カリブの海賊』の最初のびっくりに近い怖さ)があり、その先はクランクに曲ったりもする。いかにギリギリに作ってあるかがわかる。
 この先どうなる? と想像がつかない、暗い穴蔵に入って行くような進入路もよくある。
 フランスの街中の地下駐車場などは特に大変で、ドイツ車は大きいから停めるのは常にギリギリで、寿命が縮む思いをしている。

 空いている場所を見つけても、両サイドの車との幅が狭すぎて、この車の駐車が可能か不可能か、よくわからない怖いレベルである。入れたとしてもドアが開けられない可能性が高かったりもする。
 毎度毎度、ショッピングセンターのような最近の駐車場以外は、恐怖とストレスの連続だ。

        🚙🅿️🚙🅿️🚙


 そんなことをいつも経験しているVにとっては、目の前の美しい街並み、ゆったりとした道幅、他の車がほぼ入って来ない特別感、地上の広い駐車スペース、レストラン前のそこに停めて観光するというだけで、既に豊かな気持ちになっている。

 後でそのレストランで食事をすることにして、教会に向かう。教会まで3分ほど、申し訳ないほど便利な場所だった。


教会はすぐそこ
Hotel  Hilton
マーチャーシュ教会到着
教会の向かい側の三位一体広場
正面は旧市庁舎
左はペスト終焉を記念して建てられた三位一体像

 教会は有料だが、予約なしでも入場可能。チケットを購入し、いつものようにOと交代で見学へ。

ゴシック様式

 ジョルナイ製の陶器で作られたモザイク模様の屋根、細かな装飾の石の塔。マーチャーシュ教会はブダペストのランドマークの一つである。歴代の王の戴冠式が行われた為、戴冠教会とも呼ばれる。

 16世紀にオスマン朝に占領されると、教会はモスクに改装された。その為、内部は中東の色使いの文様や装飾が残っており、異国情緒を感じる。
 オスマン朝撤退後はカトリックの教会に戻り、バロック様式で修復されている。


 教会横の広場はクリスマスマーケットがまだ開催されている。観光客は大変寒い中、これだけ多くやって来て、観光の合間には一休みして買い物や温かい飲み物•食べ物を楽しみたいのだから、賑やかな雰囲気の店がこうして出ていることは楽しいし、本当にありがたい。
 Oが見学中、マーケットの中を見て回る。


陶器やオーナメントなど
クリスマスグッズなどの土産物も
ドイツやオーストリアとはかなり雰囲気が違う


 VはOと交代で教会の中へ。

 16世紀にオスマン朝に占領され、教会はモスクに改装された歴史がある。内部は中東の色使いの文様や装飾が残っており、異国情緒ある空間となっている。
 オスマン朝撤退後はカトリックの教会に戻り、バロック様式で修復されている。


祭壇


中二階の美しい回廊にパイプオルガンが見える



 祭壇の横から宝物館へ行く。国会議事堂にある王冠のレプリカやマルタ騎士団の紋章、司教の上着や十字架、装飾品が展示されている。 

回廊からの眺め



先程見えたパイプオルガン
この教会は音響効果が高いことで知られ
定期的にオルガンコンサートが開かれる


皇妃エリザベート像

 戴冠式の折の衣裳姿の皇妃エリザベートの胸像が見られる。 
 ステンドグラスを背景に38歳の美しさの絶頂にあった時期の皇妃像だ。

 ここから階段で2階へ。

 イスラム文化とゴシック様式の融合の教会は素晴らしく、立ち去りがたかった。


 Oと愛犬と共に、漁夫の砦と呼ばれる教会裏手の白い建物へ向かう。
 ドナウ川を見下ろす古い城塞を土台にして建てられた、白い石灰石の建物である。とんがった屋根の5つの丸塔と尖塔を回廊がつなぐ。

 かつてこのあたりに魚の市があり、城塞は漁師組合が守っていたことから名付けられたという。
 眼下に広がるドナウ川周辺の景色が素晴らしく、観光客がひしめき合っていた。


塔入り口
塔から教会を望む
対岸の国会議事堂
くさり橋が見える
歩いて上がってくる人々は『漁夫の砦』側からと知る。
この美しい建物を、下から見上げながら近づく方が
感動が大きいことだろう
お城のようなこの建物は
ベストビューポイント


 漁夫の砦を出て、レストランに戻ることに。

美しい街並み
レストラン『51』 

 先程、駐車場のことを教えてもらったのは、ハンガリー料理の店だ。教会から近いこともあり、人気店のようで観光客がぎっしり。
 

 スタッフのサービスは丁寧で親切、温かい雰囲気だ。郷土料理を注文する。

ヌードル入りスープ、美味
Oの頼んだスープ、グヤーシュ。美味
Oが頼んだパプリカーシュ•チルケ、美味だとのこと
お米のクラッカー乗せリゾット、美味

 食べ始めて気づいたことは、日本の味に似ている、ということだ。中欧がアジアに通じる部分があることの一つは『味覚』だと感じる。

 繊細な旨味があり、味のバランスが絶妙。発酵食品の使用にしても、日本で食べる料理の味を思い起こさせる。全部が美味しい。
 Vは旅に出るといつも胃が重くなってしまうのに、ハンガリー料理は楽しめた。感動する。


 16時を過ぎるとあっという間に薄暗くなってくる。店の前のイルミネーションが美しく映える。
 入り込んでしまった王宮の丘、気持ちの良い午後だった。
 
 店のすぐ近くに駐車料金の支払い機があるとのことで、Oは支払いへ。戻ってくると、
「そんなに高くなかった♪」とご機嫌だ。
17€(約3100円)しかかからなかったという。

 店のお兄さんから、駐車料金を支払った後は15分以内に王宮の丘を出なければいけないと訊いていたので、すぐに車を出す。出口まではそれほど時間がかかるとは思えないので、15分というのも随分ゆったりしている。

 快適な午後だった。こんなにゆったりした駐車場で、目的地はすぐ近く、レストランは美味しくて。
「あのゲートをくぐって良かったじゃない?」

 出発してナビの示す道を進む。中世の雰囲気が漂う美しい街並みを抜け、王宮に沿ってぐるりと回るルートだ。

 この丘の南半分は王宮だ。今はセーチェニ図書館や国立美術館、ブダペスト歴史博物館となっている。またマーチャーシュ教会の近くには王宮地下迷宮入り口がある。これらを見学するには丸一日かかるだろう。それはまた次回の旅にしよう。



 中世の城壁に囲まれた丘、王宮の威厳に満ちた建物を眺めながら、車は出口ゲートに辿り着いた。レストランからここまでに殆ど他の車を見ることもなく、やはり特別な場所であったのだと実感した。
 
 金色のゲートが上がり、特別な待遇を受けたような心持ちのVは、岩山の上の王宮を振り返る。




                 —了—



 次回はブダペスト2日目、アンティークマーケットで出会ったヘレンドの美しい磁器。郊外の城ゲデレー城へ(皇妃エリザベートが長く滞在した城)、聖ヨハネイシュトバーン教会前
のクリスマスマーケットなど。
 どうぞお楽しみに!



本編より先に書いてしまったブダペスト番外編はこちら


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