見出し画像

そして、バトンを渡された(とらのすけさんの提案に答えて)

 note仲間のとらのすけさんから届いた切実なメッセージ。「書きかけの小説の続きを書いてくれ!」
かなり、切羽詰まっている様子。

(私にできるかしら?いや、かなり困っている様子だもの。ここはやるしかないでしょう)

「光の中で、再び」トライアル短編(前半:とらのすけ 後半:あまりれいこ

 十二月の校舎は鉄の箱のようだ。雨風を防ぐ代わりに、それ自体が保冷材のように冷気を帯びている。足元から、壁の芯から、僕の真ん中の熱まで奪おうと手を伸ばしてくる。無数の冷たい手から逃れるため、僕はできるだけ廊下の中心を歩いて部室へ向かう。
 この季節、入口の扉が閉まっていると身構えてしまう。部室の金属製のドアノブは、人の手による干渉を火花と破裂音で拒む。誰か来やしないかと振り返るが、灰色に染まった通路には猫さえ見当たらない。
 意を決して火花を喰らおうとしていたときだった。
「川島くん」
 背中から、鈴森春子の声がした。
 ーーが、冷たい廊下には、僕と、僕を呼ぶ声しか存在していない。
 首を傾げる僕に、その声は続ける。
「あ、ごめん。私、朝起きたら透明になってて」ーー(ここまで、とらのすけさん執筆  後半、あまりれいこ執筆)

「鈴森、ホントにそこにいるの?録音した声とかじゃなくて?」
「いるわよ。ただ見えてないだけ」
バチッと飛ぶ火花。
「イテッ!今何した?」
「静電気。川島くんが信じてくれないから」
「信じろってほうが無理だろ。でも、わかったから、対策を考えよう。部室に入れよ」
「ありがとう。やっぱり、川島くんに相談して正解だったわ」
 二人は、文芸部の部室に入った。
「寒い!」
「しょうがないだろ。部室は暖房禁止。おかげで、寒い時期は誰も寄りつかないから、話聞けるよ」
「ありがとう。まず、今夜どうしたらいいか考えて。うちの両親、この状況はなかなか理解できないと思うの」
「だったら、今日は誰か女子の家に泊まるのは?明日は土曜日で学校は休みだから、その間に対策考えよう」
「泊めてもらうなら、祥子ちゃんのとこがいい。祥子ちゃんに電話するから、川島くんも一緒に説明してくれる?」
 祥子はすぐに文芸部の部室にやってきた。
「春子ちゃん、ホントに透明になっちゃったんだね。あっ、でもちゃんとさわれる」
 春子の母親には、電話で今日は祥子の家に泊まって一緒に勉強することを告げた。途中で祥子にも代わってもらったので、春子の母は何も疑わなかった。
 「じゃ、ここは寒いからうち行こうか。川島くんもだよ。うち、今日はお母さん夜勤だから気兼ねないよ。夕ご飯、カレー作るから食べて行きなよ。その間に川島くんは、対策しっかり考えてね」
「うわー、丸投げするなよ。しかも報酬はカレーかぁ」
「ごちゃごちゃ言ってないで!さあ、行くよ」
 女子二人(一人は透明人間)に引きずられるように、僕は祥子の家に着いた。祥子の父親は彼女が小学生の時に、病気で亡くなったと聞いている。母親は看護師として働いている。母一人子一人の祥子は家事全般をこなしているらしい。
 祥子がキッチンに立つ間、僕は春子にいくつか質問した。
「じゃあ、昨日は特に変わったことはなかったんだね?」
「うん、いつも通りだよ」
「変わったものを食べたり飲んだりはしなかった?」
「しないよ。わたし、肌が色黒じゃん。食べものにはけっこう気を使ってるもの」
「ふーん、どんなふうに?」
「肌にいいものを食べるようにしてるの。ビタミンCにEでしょ、あとは抗酸化物質に、良質なタンパク質。毎日、そういう食材を取り入れるようにしてるんだ」
「へー、すごいね。いつから?」
「もう、一か月くらい経つかな?肌のターンオーバーは28日だって言うから、そろそろ効果出てくる頃かも」
「ターンオーバー?」
「肌が生まれ変わるまでの期間は28日間なんだって」
「ふーん」
「わたし、浅黒いのがコンプレックスなんだ。透明感のある肌って憧れちゃう」
(僕は、今のままの鈴森がいいと思うけどな)
 でも、そんなこと口が裂けても言えないな。僕は、春子の言葉の中にかすかな引っかかりを感じた。ターンオーバー、肌の生まれかわり、透明感のある肌……なんだろう?大事なヒントがあるようにも思うが、もどかしさだけが残っていた。
 祥子が作るカレーは中辛のルーで、普通に美味しい。勧められて、おかわりまでした。
 「ご馳走さまでした。じゃ、僕そろそろ帰るよ。鈴森の話聞いてて思ったんだけど、透明になったのは一時的なもんじゃないかな」
「そんな!根拠あるの?」
「根拠って言われると弱いけど……。今日は、二人で楽しくおしゃべりしてゆっくり休みなよ。明日、また来るよ。おやすみ」
「おやすみなさい」
 翌日、僕は祥子の家に向かっていた。よく晴れているが、冷え込んでいる。冬の空気にさらされた耳が冷たくなっている。
 ドアチャイムを鳴らすと、祥子の声。あれ、こんな声の子だっけ。
「川島くん、おはよう!ちょっと待ってね。春子ちゃん、川島くん来たよ」
玄関に現れた春子は昨日のように透明、ではなかった。
「鈴森、元に戻ったんだね。よかった!」
「川島くんが言った通りだった。何もしてないのに、今朝起きたら元に戻ってた」
「何もしないのがよかったのかもね。二人とも、ちょっと外に出てみないか。いい天気だよ」
「ホント、気持ちいい!自分の姿がちゃんと見えるって、こんなに嬉しいんだね」
「ねぇ、春子ちゃん、川島くん。そこの公園まで、走ってかない?」
「いいわね。走るのは、文学青年より得意なんだから負けないわよ」
 春子の走る姿が朝日を浴びてシルエットになっている。それに見とれて、僕は走り出すが遅れた。よかった、ホントによかった。光の中を走る春子の姿をまた見られて。

(完)

#リレー小説
#とらのすけさん
#青春小説
#透明人間

いいなと思ったら応援しよう!