【毎週ショートショートnote裏】駅で鯛を釣る
駅の片隅に、不思議な釣りコーナーができていた。深さが見えないプールの水面に、時折きらりと鱗が光る。
仕事の憂鬱に押しつぶされていた僕は、つい足を止めて竿を握った。
糸を垂らして間もなく、強い引きがあった。必死に巻き上げると、見事な鯛が跳ね上がる。横に立っていた駅員が、淡々と告げた。
「特賞です。ご安心ください、もうあなたを憂鬱にするものは、なにもありません」
なにを意味するのかはわからないけど、胸の奥が妙に軽くなる。
その瞬間、足がすっと冷たい水に沈んだ。慌てる間もなく、腕はひれに変わり、身体は鱗に覆われる。視界が揺れ、世界が青く染まった。
気づけば、プールで泳いでいた。
先に特賞を得たらしい魚たちが、のんびりと群れを作っている。外から覗き込む人間たちが竿を垂らし、また新しい魚が増えていく。
「よかったですね。これでもう、悩むことはありません」
駅員の声が、水越しに響いた。
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