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守備の再建― 守りのチーム、ホームで大敗 ― ジェフユナイテッド市原・千葉 J2 16年の記憶⑩

第10章|守備の再建(2020)
― 守りのチーム、ホームで大敗 ―

序章|理想のスタート、そして長い中断


2020年2月23日、フクダ電子アリーナ。
9,701人の観客が見守る中で、シーズンが始まった。
相手はFC琉球。
ジェフは開始わずか40秒で先制する。米倉恒貴のヘディング。キックオフから数本のパスだけで生まれた、鮮やかな崩しだった。
だが、その直後からジェフは引いた。
4-4-2のブロックを組み、琉球の攻勢を耐える。右サイドを何度も突破され、CKのピンチを招く。GK新井章太のファインセーブが続いた。
後半60分、尹晶煥監督は勝負に出る。
守備を固めるため、5バック気味にシステムを変更した。
安田理大は振り返る。
「(DFが)5枚になった瞬間に『イケる』と思いました。まあ、ちょっと長いなとも思いましたけどね(笑)。その分、しっかりポジションを取って、守備で勝負するという考え方がはっきりしましたから」
琉球の猛攻は約30分続いた。
それでもジェフは、一丸となって守り抜いた。
1-0。勝利。
試合後、尹晶煥監督の言葉には、どこか余裕があった。
「効率的なカウンターを仕掛けることはできませんでしたが、選手たちは最後まで一生懸命にプレーしてくれましたし、その結果として勝点3を奪えたと思います」
守備で勝つ。失点を減らす。
尹晶煥のジェフは、理想のスタートを切った。
――だが、この理想は、この1年を通してフクアリではほとんど再現されなかった。
開幕戦の直後、世界は一変する。
新型コロナウイルスの感染拡大により、リーグは長期中断へ。約4ヶ月。再開は6月27日。
再開後のフクアリは、収容人数の半分に制限され、声出し応援は禁止された。
手拍子だけ。静まり返ったスタンド。響くのは、尹晶煥の怒声だった。
チームが守備を立て直そうとしていたタイミングで、環境が突然変わった。
そして後半戦。
ジェフは声なきフクアリで、ホームの優位を失っていく。
守備は構築されつつあった。
だが、フクアリで勝てなかった。

1|数値で見る2020:守備は改善、攻撃は停滞

数字は、この傾向をはっきりと映し出している。
2019年:
46得点 / 64失点 / 得失点 -18 / 17位
2020年:
47得点 / 51失点 / 得失点 -4 / 14位
失点は13点も減った。
だが得点はほぼ横ばいだった。

「守備を立て直したが、勝ち切れないチーム」が完成してしまった年。それが2020年だった。
エスナイデルが追求したのは「ライン」だった。
高く保ち、裏のスペースを消すための攻撃的な守備。
尹晶煥が掲げたのは「ブロック」だった。
守備組織を整え、失点を減らすための堅実な守備。
戦い方は変わった。失点も減った。
だが、その代償として、ジェフは攻撃の“顔”を失っていた。

2|攻撃の顔を失った年

2019年から2020年にかけて、攻撃構造は完全に崩れた。
クレーベ:17 → 7
船山貴之:12 → 3

二桁得点者はゼロになった。
他の攻撃陣は山下敬大(7ゴール)と川又堅碁(6ゴール)。
「この人に任せれば点が取れる」という絶対的な存在はいなかった。
2020年のチーム総得点は47。
42試合で、1試合平均はわずか1.1点。
堅守速攻のチームづくりをする過程である意味宿命だったのかもしれない。

3|フクアリで2度の1-5

この年のフクアリでの勝てなさを語る上で、避けて通れない試合が2つある。
10月10日 第25節:水戸ホーリーホック戦
11月8日 第32節:モンテディオ山形戦
どちらも、ホームで喫した1-5の惨敗だった。
水戸も山形も、この年に昇格したチームではない。
中位に留まった相手に、ジェフは徹底的に壊された。
両試合に共通する流れは、こうだ。
立ち上がりは押し込む
だがゴールが決まらない
相手に先制される
連続失点で試合が決まる
反撃しても決定機を外す
後半、カウンターとセットプレーで沈む
「追いつけるのに、守り切れない」――
2018年の言葉が、2020年にも形を変えて繰り返されていた。

4|なぜホームでなかなか勝てなかったのか?

理由はひとつではない。
三つの要因が重なっていたと思う。

心理:ホームの義務感が割り切りを壊す

尹晶煥の戦術は徹底したリアリズムだった。
相手に持たせ、スペースを消し、隙を突く。
だがフクアリでは、「ホームなのだから攻めなければ」という義務感が選手を縛った。
立ち上がりの猛攻。
決めきれない焦り。
攻め疲れ。
そして攻守の切り替えが一瞬、遅れる。
その隙を突かれて沈む。

戦術:4-4-2の横幅が狙われる

当時の基本布陣は4-4-2。
相手はボランチを最終ラインへ落とし、数的優位を作る。
両サイドが引き出され、中盤が空く。
ミドル、セットプレー、カウンター。失点はそこから生まれた。

環境:声なきフクアリ

そして決定的だったのが、コロナ禍による環境の変化だ。
声の出ないスタジアム。
失点直後に空気を変える力が、消えた。
残るのは静寂と、相手の歓喜と、内省的な落胆だけ。
フクアリの魔法は、この年、確かに消えていた。

5|この年を象徴する選手たち

2020年のジェフに、絶対的なエースはいなかった。
だが、チームを支える「骨格」は、確かに存在していた。

攻撃の顔 ― クレーベ、山下敬大、川又堅碁、船山貴之

クレーベは7ゴールでチーム最多タイ。
かつての17ゴールという破壊力は失われていたが、それでも攻撃を引っ張る存在であり続けた。
山下敬大も同じく7ゴール。若手ながら、新しい柱としての存在感を見せた。
川又堅碁は6ゴール。
船山貴之は3ゴールにとどまったが、豊富な運動量で90分走り続けた。
得点は分散し、「この人に任せれば点が取れる」という存在はいなかった。
それでも、彼らはそれぞれの役割でチームを支えていた。
つまり2020年の攻撃は、才能ではなく「分業」でしか成立しなかった。

中盤の軸 ― 田口泰士、堀米勇輝、為田大貴、矢田旭、熊谷アンドリュー

出場31試合の田口泰士は、ゲームコントロールの要だった。
得点は2ゴールにとどまったが、尹晶煥の守備サッカーを中盤で体現した男だった。
堀米勇輝は2ゴール。
水戸戦で一矢報いるゴールを決め、「ホームで5失点はあり得ない」と語った厳しい言葉が、この年の象徴だった。
両翼の為田大貴、矢田旭とアンカーの熊谷アンドリュー。
彼らは両サイドを駆け、スペースを消し続けた。
彼らが走らなければ、この守備は成立しなかった。

守備の土台 ― 新井章太、新井一耀、張敏圭、鳥海晃司

GK新井章太は、ほぼ全試合にフル出場。
失点51という改善の裏には、彼の安定したパフォーマンスがあった。
最終ラインを支えたのが、新井一耀、張敏圭、鳥海晃司。
新井一耀は、開幕戦で負傷しながらも最後まで立ち続けた。
張敏圭は、フクアリで1-5の惨敗を喫した水戸戦、山形戦のどちらにも最後まで立ち続けていた。
尹晶煥が求める「守備の構築」という設計図を、ピッチ上で体現するために。
鳥海晃司は1ゴールを記録し、翌年セレッソ大阪へ移籍する。
この年に積んだ守備の経験は、確かに次のステージへとつながっていた。

次代の芽 ― 見木友哉と高橋壱晟

この年、静かに芽吹き始めた若い力がいた。
見木友哉は1ゴール。
まだ数字は小さい。だが「構造を理解して動く選手」として、すでに片鱗を見せていた。
高橋壱晟は3ゴール。
そして最終節、逆転ゴールを決める。
彼らはエースではなかった。
だが、確実に次のジェフを形作る存在だった。

エピローグ|レジェンドが去った夜

2020年12月20日
フクダ電子アリーナ。最終節、ギラヴァンツ北九州戦。
ジェフは2-1で逆転勝利を収めた。
34分、アラン・ピニェイロのカットインシュートで同点。
53分、堀米のドリブルから船山のシュートがポストを叩き、その跳ね返りを高橋壱晟が押し込んだ。
鮮やかな逆転劇。
だが、フクアリに流れたのは、勝利の余韻ではなく、別れの空気だった。
この日、田坂祐介、増嶋竜也、佐藤寿人の引退セレモニーが行われた。
佐藤寿人
J1得点王として名を馳せたストライカーは、「ジェフをJ1に導く」という使命を胸に2019年に加入した。
だが2020年、彼が刻んだゴールは2つだけだった。
山形戦後、彼はこう語っている。
「僕らは一人ひとりがプロとしてやっていますし、それぞれが結果を残さなければプレーし続けることができない世界で生きているので。まずは個々がしっかりやること。それが試合につながると思いますし、今日こういうゲームをしてしまったことで、不甲斐なさを強く感じています」
J1得点王が、J2で勝てないチームの一員として引退した。
増嶋竜也は、地元・生浜中出身。
柏レイソルのJ1優勝を支えたCBは、2018年、「フクアリに帰ってきた」。
だがエスナイデルのハイラインは崩壊し、尹晶煥の守備再建も、まだ道半ばだった。
革命の終わりと、再建の未完成。増嶋の引退は、その両方を象徴していた。
試合後、尹晶煥監督はこう語った。
「連戦をこなす中で波も激しかったと思います。それをしっかりと調整できなかったことは大きな反省点です。今日が今シーズンの終わりであり、来シーズンの始まりであると思っています」
2020年の最終成績は、15勝8分19敗、勝点53、14位。
失点は64から51へと改善した。
だが得点は、46から47へと、ほとんど変わらない。
ホームでの大敗という傷跡は深かったが、守備の土台自体は整いつつあった。それでも、昇格を狙うには決定的な『何か』が足りない。
ジェフが本当の意味で再建に踏み出すために、2021年に向けてそのピースの一つを埋めようとしていた。
―第10章・完。


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