【連載小説】第5話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』
〜前回からの続き〜
傲慢な大名の求愛に応じなかったイオリと武士の父。理不尽にも父は切腹を命じられ、首を刎ねられた。
いよいよイオリが処罰されるとなったそのとき、突如として現れた老人が一人。
役人が捕らえようとした老人は憤慨し、凄まじい出来事が起きた。
さて、なにが起きたのか。
罪と罰。
炎獄は皆に平等に与え給う。
※残酷な描写を含みます。
心身の状態に留意してお読み下さい。
始まり⑤ 太陽の巨人 イオリ編
裁定せしものが“人”ではない故
その理は恣意的で残酷である
幻想と現実が交わる祈りと魂の叙事詩
今日は雲一つなく澄み切った青空。
日差しが眩しい。だが、様子がおかしくなったのはそこからだった。
明るい光が燦々と照りつける。
光はますます輝度を増してゆく。
そこにあるもの全て白んで色褪せる。
気温もグングン上昇しているようで、イオリと老人を除く皆が額に大汗をかいて拭う。
「暑い、暑い。
何だこれは? 何とかしてくれ」
既に悲鳴のようだ。
見物客たちも役人たちも声を上げるがどうにもできず、もがき苦しんでいる。
やがてポッと役人の裃に火が付いた。
「ヒエエェェ!」
小さかった火が瞬く間に燃え上がり、役人たちの身体を包んだ。
大きくなった炎は空を舞う龍のようにうねうねと、とぐろを巻いて燃え広がった。
お白洲を包む白い炎が、辺りにいた全ての人を巻き込んで渦を描く。
ただ不思議なことに家屋などに炎が延焼することはなかった。
あくまで燃えているのは人なのだ。
その場を離れるように逃げ惑う人々。
だが、もはや遅く駆けずり回る皆を白い炎龍はあざ笑うように巻き込んだ。
そして黒焦げにしてやがて灰に変えた。
まるで煉獄の罪人のようだった。
父の死を見て見ぬふりをした人々は、皆同罪となった。
この地獄が老人によるものならば、何という無慈悲な処罰であろうか。
イオリはおのれが招いたこの所業を見て、薄ら寒くなった。
ふと座敷に目をやると、あの鼻持ちならない大名も灰になっていた。
その一方で、お白洲で息絶えた父の亡骸は灰にならずそのままだった。
そして取り敢えず鎮火した炎。
見物客も役人も大名も全て灰になった。
後に残されたイオリと老人。
「はあぁ」
――ため息一つで精いっぱいのイオリである。
煙さえも感じなかった。
老人がイオリに声をかける。
「お怪我はありませんか?」
「はい。私は別に……」
「霊珠・玉梓が貴女を選んだのでしょう」
「……私を選んだ? 数珠がですか?」
頷いた老人。そして、こう続けた。
「もしよかったら、ご一緒に参りませんか?
お父上を弔ってさしあげましょう」
老人は優しくイオリに云った。
見れば父がそこにある。
イオリはそれを見て
「うん」
子どものように頷いた。
老人も頷く。そして
「申し遅れました。
私『太陽の巨人』と呼ばれております。
何のことはない、化け物です」
だがイオリは一向に動じない。
その名を聞いたぐらいはあったかもしれない。
それにたった今の惨劇の張本人でもあるはずだが、何を責めようとも思わなかった。
目の端に、大名が座っていた座敷が映った。
それでも自称、化け物に忌避感はなかった。
「私、イオリと申します」
「では以後よろしく。
参りましょうか」
指をパチッと鳴らす。
すると太陽の巨人も一瞬炎に包まれた。
後には老人の姿ではなく、光を放つ神々しい姿へ変身した化け物が立っていた。
クイッと太陽の巨人が指を動かすとイオリの父親の身体と首がフワッと持ち上がった。
そして続いて巨人とイオリの身体もそのまま持ち上がる。
スィーッと空に浮かび上がって二人とも何処かへと飛び去った。
後のお白洲には静けさだけが残された。
後日、この大名の屋敷から居合わせた人々が全て安否不明のまま行方知れずになったことは、一頃世間を賑わせてはいた。
だがそれも一時を過ぎると忘れられた。
有名だったイオリと彼女の父についても同様である。
つづく
