【連載小説】第3話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』
〜前回からの続き〜
武士チョウマが怪我をした魔女を助けてから、運命は大きく変わった。
やがて『夜の魔女』と愛し合い、その身に異変が生じる。
夜になるとチョウマは異形となってしまう。
魔女の愛は人である彼には呪いでもあったのだ。
それは果たして、真実の愛か。それとも堕落か。
始まり③ 黄金の牡鹿 チョウマ編
怪異との愛に溺れるチョウマ
そして“人”ではなくなった
幻想と現実が交わる祈りと魂の叙事詩
チョウマという男にとって、それはどうでもいい話なのだ。
この場合、助けた相手が人ではなかったということだ。
夜の魔女だとか、怪異だとか。
そんなことはどうでもよかった。
チョウマの目の前に現れたとき、既に大怪我をしていた。
追われ、助けを乞われた。
それで十分だった。
価値があるとするならばその一点だ。
チョウマという人はそういう人だった。
人であったそれまでは。
その日、夜の魔女と一線を越えた。
そしてチョウマは「人」でいるのをやめてしまった。
彼もまた怪異と呼ばれる一部となった。
その日を経てチョウマと夜の魔女は恋仲になる。
夜の魔女に愛されたチョウマは、そのときから人ではなくなった。
なぜなら夜とともに闇に生きる魔女の愛は呪いでもあるからだ。
以来チョウマは昼間、太陽が天にあるときは人として姿をなしていた。
だが黄昏を迎え日が完全に地平線に沈むと、その姿かたちはたちまち人ではなくなってしまう。
両手を地につき四つ足で歩く獣となった。
頭には枝分かれした剣のような角が生え、首が伸び顔の鼻面が前に突き出てまるで大きな牡鹿のようになる。
荒々しく息を吐けば、鼻から焔を噴き出す。
全身は燃え盛る焔に覆われる。
鬣と体毛は黄金色に煌めく。
その姿は暗い夜でも眩く高貴だった。
足には灼熱の焔に赤く灼けた黒鉄の蹄。
ひとたび駆け出すと、たくましい四肢が大地を抉るように蹴って火の粉を散らす。
そして岩を砕いて激しく荒ぶり猛る。
人に限らず森の動物たちも、その姿を一目見て畏れおののいた。
夜の魔女の支配する闇の中で、チョウマは呪いにより姿を変え、夜の王となった。
戸惑いがないわけではない。
だが、それ以上に愛と変身の陶酔は避けようがなかった。
異形となったそのときだけは夢見心地で、何をしても痛快だった。
人の姿に戻ると、一瞬虚ろに悔いる。
その脆さだけが残った。
チョウマは防人の身分から遠ざかった。
本人が知らぬところで、噂は拡がっていた。
だが「人の噂も七十五日」。
月日が経つとチョウマのことも忘れられた。
夜の魔女とともに。
つづく
