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難病の私が輝けるまで第一話(創作大賞2025恋愛小説部門連作短編)

                 →第二話

《あらすじ》
脊髄小脳変性症《せきずいしょうのうへんせいしょう》と言う難病を患っている星 まきなほし まきな25歳。
障害者雇用で大手広告会社で事務の仕事をしている。
幼少期から、他の人たちと違った。
行動も遅かった。
歩き方が不安定でクラスメートにからかわれた。
体が不自由なりにいろんなことに挑戦してきた。
病院巡りも頻繁ひんぱんにしていたが原因も病名も分からず。
原因も病名が分からないまま学生時代を過ごす。
中学生時代、保健室の常連だった星 まきなほし まきなは同じく保健室の常連だった海 聖夜うみ せいやと会う。

会うことが多い二人だが仲良くなることはなかった。
あることをきっかけになかよくなる。
大人になりふとした時に海 聖夜うみ せいやの事を思い出すことが増えた。

同窓会の招待状が届き行く決心をする。
そこで、聖夜せいやと再会する

《登場人物》
ほしまきな
脊髄小脳変性症せきずいしょうのうへんせいしょうって難病がありながら仕事に恋愛に奮闘ふんとうする主人公。
海 聖夜うみ せいや
海財閥うみざいばつ御曹司おんぞうし
まきなのよき理解者で恋人。
松本 杏奈まつもと あんな
まきなの中学生の時の同級生。よき理解者の一人
二宮 美咲にのみや みさき
まきなの会社の上司。
まきなより5歳年上のシングルマザー。
子供に障害があり障害者雇用に積極的でまきなのよき理解者の一人。
佐久間さくま
株式会社エルアーク時代のまきなの同期
登 由香のぼり ゆか
美咲の友達で美容室『Yukareユカレ』の経営者。
氷室 桐華ひむろ とうか
氷室ひむろグループの代表取締役社長だいひょうとりしまりやくしゃちょう氷室 一誠ひむろ いっせいの一人娘。
小さい頃から甘やかされて育ってきた派手な美人。
聖夜せいやのお見合い相手。
氷室 一誠ひむろ いっせい
氷室ひむろグループの代表取締役社長だいひょうとりしまりやくしゃちょう
一人娘の桐華とうかに甘い。
天野 鷹真あまの たかまさ
財政界ざいせいかいにも影響力えいきょうりょくがある財閥界ざいばつかい実力者じつりょくしゃ聖夜せいや祖父そふとも懇意こんいだった人物じんぶつ
伝統的でんとうてき老舗しにせグループ「天野財団あまのざいだん」の総帥そうすい
物腰ものごしおだやかでめったなことでおこることはないがおこるとこわ人物じんぶつ


 土曜の昼下がり。
ほしまきなは、リビングのテーブルに置かれた一枚の招待状を見つめていた。

 「中学同窓会 19時開始」
たったそれだけの文面に、心が大きくれた。

 (行きたい。でも、怖い)


 幼い頃から、「他の子と何かが違う」と感じていた。
ハイハイを始めたとき、右足だけを引きずっていたのを心配した両親が病院に連れて行ってくれた。
だが、何度検査をしても原因が分からないまま。
成長するにつれて、周りとの”差”ははっきりと現れ始めた。

 幼稚園に上がる頃には、走るどころか、歩くこともままならない日が増えた。
皆がスキップするように園庭を走る中、まきなだけが何度も転んでいた。
気がつけば、病院が”日常”になっていた。
”診察”という予定が絵本の読み聞かせやお絵かきよりも先にスケジュールに入る。

心配の視線にさらされることにも慣れたふりをした。
「みんなと同じように」慣れない自分が悔しくて。
でも、理由が分からない自分がもっと嫌だった。

 中学に上がる頃には、体力も落ち、保健室がまきなの”避難場所”になっていた。
授業中に向けられる冷たい視線。
後ろから聞こえる「また休んでる」という小さな声。
歩き方をマネされて、クスクス笑われたこともある。

 (なんで私は、こんな身体なんだろう)
その問いに答えてくれる人は誰もいなかった。

 そんなある冬の日。
保健室で毛布に包まりながら、まきなは一人でぼんやりとしていた。
他の”保健室常連”はもう教室に戻り、先生も席を外していた。

 ふと、鼻の奥がツンとする。
(また鼻血)
あわててポケットをさぐるが、いつも持ち歩いていたティッシュがない。
(どうしよう…)と、パニックになりかけたその時だった。

 「使う?」
隣のベッドにいた男子が、そっと制服のポケットからティッシュを差しだしてきた。
うつむきがちで目が合わなかった。
が、指先はふるえていた。

 これをきっかけに話すことが増えた二人。
だが、その関係が保健室の外へ広がることは、けっしてなかった。
あの日、突然の鼻血でまきながあわてていたとき、ポケットティッシュを差しだしてくれたのが聖夜せいやだった。

 それが、最初の会話だった。
それ以来いらい、ふたりは保健室でだけ、時折ときおり言葉を交わすようになった。

 教室では、目が合ってもお互い知らないふり。
友達ですらない。
そんな風に見せかけた。

 誤解されたくなかった。
冷やかされたくなかった。


 (聖夜せいやが誰かに冷やかされるのが怖かった)
でも聖夜せいやは、何も聞かずにずっと話しかけてくれた。
本当は、返事したかったのにできなかった。

 保健室の空気だけは、ふたりの小さな場所だった。
誰もいない保健室でふたりは静かに笑いあっていた。

 教室では一言も話すことはなかった。 
あの保健室の数メートルの距離だけが、世界のすべてだった。

 今、その聖夜せいや と向き合うチャンスが目の前にある。
でも、過去の自分、そして今の自分と向き合う覚悟が、まだ完全にはできていない。
まきなは深く息を吸い込むと、招待状に手を伸ばした。
指先が、ほんの少しだけふるえていた。

 中学を卒業してから、聖夜せいやと顔をあわせる機会は自然と消えていった。
まきなは、そこそこ難関なんかんとされる女子高に進学した。
静かで落ち着いたその環境は、身体の不調を抱えるまきなにとって心地が良かった。
時折ときおり、通学中の電車のホームや改札口で、制服姿の聖夜せいやの背中を見かけることがあった。
背が高くて、人混みの中でもすぐに分かった。

 (声、かけてみようかな)
そう思う瞬間はあった。
でも、まきなはいつも足を止めることができなかった。

女子高を卒業した後は、そのまま附属の女子大に進んだ。
将来は、カウンセラーになりたいと思っていた。
自分がこれまで感じてきた「生きづらさ」を、誰かのために役立てられたらと思ったからだった。

 大学二年のある日、お腹にジワジワした痛みを感じ、かかりつけの病院に駆け込んだ。
それ以上に、自分の足元がふらつき、思うように歩けないことがおそろしくて、なさけなかった。
受付に着いた瞬間、足がもつれ床に倒れ込んだ。
恥ずかしさと無力感で胸がいっぱいになり、診察室で医師にこれまで感じていた違和感をすべてを話した。

 静かに話を聞いていた医師は、やがて深刻な顔つきになり、こ
 う言った。

 「ちょっと歩いてみてくれる?」

 何気ないその言葉に、心がざわつく。
まっすぐ歩く。
それだけのことなのに、脚が言うことを聞かない。
右に少し流れ、バランスが取れない。
歩こうとすればするほど、不自然な動きになる自分が悔しかった。

 医師のまなざしは、優しさと懸念けねんが混じっていた。

 (何かがおかしい)

 その瞬間、まきなは本当の「始まり」を感じていた。

 診察室で脊髄小脳変性症せきずいしょうのうへんせいしょうと診断されたとき、どこか遠くで誰かの話を聞いているようだった。

 脊髄小脳変性症は、運動失調(歩行のふらつき、手の震え、ろれつが回らないなど)を主な症状とする、小脳や脊髄の神経細胞が変性することで起こる神経疾患の総称です。遺伝性のものと、孤発性のものがあり、日本全国で3万人以上が罹患していると推定されています。 

 歩けなくなるかもしれないーー
 手もふるえて、言葉もうまく話せなくなるかもしれないーー

 未来が少しづつ閉じていく音がした。
ドアがひとつ、またひとつ、静かに閉まっていく。

 それから、まきなは恋愛にも、将来にも、夢にも、足を踏み出せなくなった。
周りの子たちは、推しに夢中で推し活をしたり、恋にときめいて、旅行や合コンの話に花を咲かせ、笑って楽しく過ごしていた。
毎日キラキラして見えた。

 まきなは、それを遠巻きに見ていた。
「楽しそうだなぁ」と思いながらどこかで線を引いていた。

 楽しくなかったわけじゃない。
でも、心のどこかで自分に言い訳してきた。

 「私は、病気だから」
 「どうせ、全部できなくなるから」

 誰かを好きになることも、将来の話をすることも全部、自分に許さなかった。

 笑いながら、心の奥で涙を浮かべる。
そんな日々だった。

 知らないうちに原因不明の難病は進行していってた。

 周りをうらやましいと思ったことなんて、幾度いくどとなくある。
テレビで芸能人が調子に乗る姿を見るたび、何とも言えない気持ちになる。
スキャンダルや不祥事ふしょうじがあっても、時間がすべてをなかったことにしてくれる。

 でも、私たちは違う…

一般人は、そうはいかない。
周囲の目はするどく、「違う」ことをすぐに排除はいじょしようとする。
「個性」で済むうちはまだいい。

 幼い頃から、私は周りと少し違っていた。
だから、つねに一歩引いていた。

 「自分さえ我慢がまんすればいい」
 「恋愛なんて、する資格ない」
そう言い聞かせて生きてきた。

 「私が恋愛するなんて、想像もできない」
強がりだった。
でも、本当は違う…

 高校卒業後、私はカウンセラーの資格が取れる女子大に進学した。
”誰かを救える存在そんざいになりたい”
そんな気持ちが、まだ胸の奥にあった。


 「誰かの力になりたい」
そんな夢と希望を胸に、新たな扉を開けたはずだった。
けれど、その夢は思ったよりも早く、かき消されてしまった。

 脊髄小脳変性症せきずいしょうのうへんせいしょう
診断を受けたその日、まきなは夢を追う足場が静かにくずれていくのを感じていた。

 主治医の勧めもあり、身体障害者手帳を取得。
周囲にさとられないようにふるまいながら、障害者雇用の枠を中心に就職活動を始めたまきな。

 そんな中で内定をもらったのは、思いもよらなかった広告会社だった。

 面接を担当した先輩社員の二宮 美咲にのみや みさき
30歳のシングルマザーで5歳の息子には脳性麻痺のうせいまひと言う障害がある。
だからだろうが、二宮 美咲にのみや みさきの言葉はいつもまきなの「痛み」にまっすぐ寄り添ってくれた。
美咲みさきの存在は、職場での不安をやわらげてくれる、静かな光のようだった。

 面接室でのまきなは緊張で指先がふるえていた。
杖を手にしたまま、深くお辞儀じぎをするまきな。
スーツのそでの内側に、や汗がじんわりとにじむ。

 「はじめまして。ほしまきなと申します」

 机の向こうに座る女性が、ふっとやわらかく笑った。
名札なふだには二宮 美咲にのみや みさきの文字。

 「こんにちは。星さん。今日はお越しいただいてありがとうございます」
 「よろしくお願いします」
どこか落ち着いた声だった。
緊張きんちょうかたくなったまきなの肩が、少しだけ下がる。

 「まず、体調はいかがですか?」
予想外の質問に、一瞬いっしゅん言葉にまった。
でも、美咲みさきのまっすぐな視線に、嘘はつけないと思った。

 「発症してからは進行が遅くて、今は杖があれば通勤もできます。配慮はいりょが必要な点は、事前じぜんにまとめてきました」
そう言って差し出した書類を、丁寧ていねいに受け取る美咲みさき
目を通しながら、ふと口元がゆるんだ。 

「すごく丁寧ていねいですね。私、同じような立場の人と一緒に働きたいと思ってたんです」
「えっ…?」
言葉の意味が分からずうろたえるまきな。

 「うちの子も、ちょっと特別なサポートが必要で。だから、まきなさんの言葉って、凄くリアルで、まっすぐひびくんです」

 言葉が、胸の奥でふわりとほどけた。
まきなは、知らないうちに息を詰めていたのだと気づく。

 「もしよろしければ、うちのチームに来ませんか?あなたの声が、きっと誰かの支えになる気がするんです」
その瞬間、ようやく「未来」の輪郭りんかくが、ぼんやりと見えた気がした。

 内定をもらった広告会社『株式会社エルアーク』の入社式の日。
この日は晴れ間が広がっていた。
まきなは、リクルートスーツに身を包み、ゆっくりと杖をつきながら入社式の会場に入った。
少し早めに到着したせいか、まだ数名しか着席していない。
緊張のせいか、手のひらにうっすらと汗がにじんでいた。

 (ちゃんと働けるのかなぁ。みんなのスピードについていけるんだろうか)

 だが、壇上だんじょうのスクリーンに映し出された「ようこそ、エルアークへ」の文字と、社員代表の温かいスピーチが、その不安を少しだけやわらげてくれる。

 入社式では、新入社員代表の挨拶あいさつが行われていた。
まきなは、新入社員代表の言葉に背筋が伸びる思いだった。

 そして、式が終わりに近づいたころ、近くの席にいた同期の佐久間さくまが声をかけてくる。

 「緊張したよね。私、佐久間と言います。これから同じ会社だしよろしくね」
 「よろしくお願いします」

 (たとえ歩みがゆっくりでも、私はここに立っている。この一歩が、続いてると信じたい)

 新人社員の研修ルームの初日。
まきなは、他の同期と並んで長机に座っていた。
ノートにはすでに数ページ分、メモがびっしりと書かれている。

 講師は中堅ちゅうけん社員だ。
 
「”正解を出す”んじゃなくて、”伝える工夫”を考えること。広告は、心を動かしてナンボです」
まきなは、何度もペンをにぎりなおしながら、真剣しんけんなまなざしで前を見つめていた。

 「まきなさん、字綺麗だね。なんか集中力凄い」
と隣の席の同期の佐久間が話しかけてきた。

 「ありがとう。私、覚えるの時間かかるから、メモ多めなんだ」

 グループワークの時間。企画案を出すとき、最初は控えめだったまきなだったが、ある時ポツリとつぶやいた案が場を動かした。
 
 「”不自由”を”個性”に変えるコピーとか、どうでしょう?」
まきなは言う。
 「それ、いいね。逆転の発想、面白い」
リーダー役の同期が褒めると拍手はくしゅが、起きた。
まきなは驚いたような顔で、少し笑った。

 (ここでも、私の声は届くのかな。障害があっても、”伝える仕事”ができるかもしれない)
 
 杖を持ちながらも、誰よりも丁寧に静かに、でも強く。
まきなの研修の日々は、着実に歩みを進めていた。

 配属発表の日。
オフィスビルの会議室で人事部長が読み上げる配属先のリスト。
その声を、まきなは胸の奥をぎゅっとめつけながら聞いていた。

 「星まきなさん、人事課配属」
数秒の静寂せいじゃくのあと、隣にいた同期が小さく「よかったね」と言った。
その瞬間、向かいの席でにっこり微笑ほほえんだのは、二宮 美咲にのみや みさきだった。

 「やっと、一緒に仕事できるね」
 「ありがとうございます。配属、もしかして配慮はいりょしてくれたんでしょうか?」
 「うん。正直に言うとそう。会社としても、”あなたらしく働ける場所”を考えた結果みたい」
 
 (ありがたい。だけど少し、悔しい気もする。けれど、それ以上に安心した)

 人事課は、採用や研修、労務の調整など「人を支える」部署。
まきなにとって、自分が支えてもらってきたことを、少しずつ返していける場所になるかもしれなかった。
 
 杖を軽くにぎり直して、まきなは立ち上がった。
美咲みさきがその背中を、そっと支えるように隣を歩いてくれた。

 職場で懸命に働くまきなは、やがて”自立”という新たな目標を持つようになる。
両親の支えに頼らず、自分の足で立ってみたい。
そんな思いを受け止めてくれたのが、会社の先輩二宮 美咲にのみや みさきだった。
美咲みさきは、障害があっても借りられる物件や制度を丁寧に教えてくれた。
”自分らしく暮らす”ための一歩が、ここから始まった。

 会社の先輩二宮 美咲にのみや みさきに教えてもらったマンションの内見の日。
まきなは、杖をつきながらゆっくりとマンションのエントランスを見上げた。
横には、心配そうに寄り添う両親の姿。

母「オートロックもあるし、バリアフリー仕様ね。ここなら安心かも」
父「通院のアクセスも悪くないな。ただ、無理するなよ」

「わかってるよ。だから、見に来てもらったの」
まきなは両親に静かに言う。

 リビングに入ると、白を基調とした明るい部屋。 
手すりのある浴室、段差のない廊下。
まきなは深く息を吸い、そっと言った。

 「ここで、ちゃんと暮らすって実感が湧くかもしれない」
 両親は、まきなが選ぼうとしている”自分の人生”を、静かに受け止めるようにうなずいた。

 マンションに入居したまきな。
 (不安がない訳じゃない)
明日もその先も、きっと何度もつまずくだろう。
 (ここから、私は私を生きていく)

 仕事から帰ってきたある日、ポストに入っていた一通のハガキ。
それは、中学校の同窓会の招待状。

 「同窓会・・・」
手が震えた。
文字がぼやけて読めない。
行きたい。でも行けるだろうか?
聖夜せいやにも会いたい。でも……

 夜になって、LINEの通知が鳴った。
送り主は中学校の同級生の松本 杏奈まつもと あんな

 「まきな。同窓会どうする?」
スマホを持つ指が止まる。
迷ったが、返信した。

「行きたい気持ちはあるけど、実は、私、脊髄小脳変性症せきずいしょうのうへんせいしょうっていう難病って診断されたの」
 「障害者手帳も取った。普通に歩けなくなってきて……」
 
 涙があふれて、画面が見えなくなった。
もう、杏奈あんなからの返事は見れない。
打つ指も止まった。

 数分後、杏奈あんなから短い返事。

 「そっか。大変だったね。無理しないで。明日早いから、またね」
その優しさが、少しだけ胸にしみた。

 次の日。
会社を休むと、美咲みさきにLINEで伝えた。
体も、心も、どうしても重たかった。

 昼前、チャイムが鳴った。

 「まきなちゃん、入ってもいい?」
ドアを開けると、美咲みさきが紙袋をぶら下げて立っていた。
ふくろうベーカリーの焼き立てのパンと、シーザーサラダを持って。

 「食べたら少し元気出るかと思って。まきなちゃんの顔、昨日のLINE、泣いてた気がしたから」
ふたりでリビングに座り、パンのあたたかさにほっとしながら食べた。

 「実はね、同窓会の招待状が届いて」
 「聖夜せいやって名前の好きな同級生がいるんですけど、会うかもしれないと考えると、どうしたらいいかわかならいの」
一気に話すと、美咲みさきはゆっくりコーヒーを飲みながらこう言った。

 「好きなんでしょ?」
顔が赤くなるのが分かった。
コップのふちが視界ににじむ。

 「でも、この体で、将来なんてって思うと」
美咲みさきは、まっすぐな目で言った。

 「信じられないと恋愛なんてできないよ。恋愛って、好きって気持ちだけじゃ続かない。信じて、一緒に進むって覚悟かくごがなきゃ続けられないの」
 「でも、まきなちゃんの”会いたい”って気持ちは、もう、覚悟の入り口に立ってるよ」

 その夜、ひとりベッドに横たわって、まきなは考えた。
私の”未来”はどこにあるんだろう。

 だけど、ひとつだけわかった。
「会いたい」って思う気持ち、それは確かに、生きてるあかしだってこと。

 それだけは嘘じゃなかった。
誰かを思う気持ちに、理由なんていらない。
不安も、葛藤かっとうも、病気も、全部かかえたまま。
それでも、「会いたい」と願った私は、たしかに、未来に向かって歩こうとしている。

 静かな夜の中で、まきなは自分の心の声を、そっと抱きしめた。

 次の日の午後、スマホがふるえた。
 
 「同窓会の服、見に行こうよ。今週末ひま?」
送ってきたのは、松本 杏奈まつもと あんなだった。

 一瞬、迷ったけれど、まきなは「うん」と返事をした。
あの日以来、少しずつ前に進みたかった。
それに、杏奈あんなの明るさにれていると、不思議と怖さが薄れる気がした。

 週末、町のショッピングビル。
杏奈あんなと服を選びながら、自然と笑っている自分がいた。

 帰り際、杏奈あんながふと思い出したように言った。
「そうだ、美咲みさきさんの友達、美容師さんなんだって。紹介してくれるって」

 杏奈あんな美咲みさきは、まきなの同窓会の悩みをきっかけに紹介されて気が合うように。
いつの間にか連絡を取り合っていたようだ。

 数日後、美咲みさきが連れて行ってくれた美容室。
登 由香のぼり ゆかというスタイリストは、はっきりとした瞳でまきなを見て言った。

 「思い切ってベリーショートにしてみたら?首筋くびすじ綺麗きれいだから、似合うと思う」
鏡越しに見た自分の顔は、少し戸惑とまどっていたけれど、「変わりたい」と思う気持ちに、背中を押された。

 ジョリッと音を立てて髪が落ちていく。
まるで、過去の迷いやおそれがけずがれていくようだった。

 仕上がったベリーショートの自分は前より少し、強く見えた。

 杏奈あんなが笑った。
「すっごい似合ってる」
美咲みさきも、ふっと目を細めてうなずく。

 鏡の中の自分が、少しだけほこらしく見えた。

                     →第二話

難病の私が輝けるまで第二話
難病の私が輝けるまで第三話
難病の私が輝けるまで第四話(最終話)



 
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