終わらない時代 第19話
『それぞれの任務』
ジュリアとミネルは医務室のベッドで休むことにした。
……眠れない。
巨大魚と、あの赤く光るキノコと同じ成分。
私達は何者なんだろう?
普通って何だろう?
考えれば考えるほど、目が冴えてしまう。
隣のベッドに視線を向けた。

「すぅ……すぅ……。」
穏やかな寝息が聞こえる。
さっきまでうなされていたとは思えないほど、静かな寝顔。
(考えていても仕方ないか……。)
小さく息を吐き、ゆっくりと目を閉じる。
翌朝。
「あれ……? 私、何で医務室で寝てるの?」
リンがゆっくりと目を覚ました。
辺りを見回し、不思議そうに首をかしげる。
「ミネル? ジュリア? 何でここにいるの?」
まだ状況を理解できていないようだった。
「ん……おはよう、リン。気分はどう?」
物音で目を覚ましたミネルが優しく声を掛ける。
続いてジュリアもゆっくりと身体を起こす。
「リン、実はね……。」
ミネルは昨日の出来事と検査結果について静かに説明した。

「は……? 何それ……。」
リンは目を丸くした。
「じゃあ私達、あの気持ち悪い魚や虫と同じってこと?」
困惑した表情のまま、二人を見つめる。
「リン、落ち着いて。私達は普通の……。」
そこまで言いかけて、ジュリアは言葉を失った。
普通。
その言葉に、自分自身が疑問を抱いてしまう。
重苦しい沈黙が医務室を包んだ。
コンコン。
ノックの音とともに扉が開く。
「起きていたか。」
カイルが静かに医務室へ入ってきた。
昨日のような鋭い表情ではない。
いつもの落ち着いた隊長の顔だった。
「体調はどうだ?」
「大丈夫です。」
ジュリアが短く答える。
「それは良かった。」
カイルは小さく頷く。
「朝食を済ませたら会議室へ来い。話がある。」
そう言い残し、医務室を後にした。
三人は食堂で朝食を摂る。
しかし、誰も口を開かない。
食器の触れ合う音だけが響く。
昨日の出来事。
そして、カイルから突き付けられた検査結果。
誰もが頭の中を整理できないまま、黙々と食事を口へ運ぶ。
朝食を終えると、三人は会議室へ向かった。
コンコン。
「入れ。」
低い声が返ってくる。

三人は一礼し、それぞれ席に着く。
カイルは三人を見渡し、静かに口を開いた。
「お前達には、これまで通り調査隊の隊員として活動してもらう。」
その一言に、三人は思わず顔を見合わせる。
胸の奥に張り詰めていた緊張が、少しだけ和らいだ。
だが、続く言葉は予想外だった。
「ただし、お前達だけで行動することは認めない。」
その表情が僅かに厳しくなる。
「今後、ジュリアとリンは現地調査を担当してもらう。」
視線をミネルへ移す。
「そして、ミネルはここで研究だ。」
三人が別行動になるということだった。
さらにカイルは続ける。
「現地調査にはガレス。そして研究はエレナが指導する。」
ガレスは腕を組んだまま軽く頷き、エレナも穏やかに微笑んだ。
監視でもあり、教育でもある。
それが隊長としての判断だった。
「今日の任務は北方地区の現地調査。そして昨日回収したサンプルの分析だ。」
一呼吸置き、締めくくる。
「以上だ。」
『了解!』
全員が立ち上がり、一礼する。
それぞれ新たな任務へ向かうため、会議室を後にした。
ーー拠点の車庫
「隊長はああ言っていたがな。お前等を信頼しているんだぞ?」
ガレスは笑いながら車両へ機材を積み込んでいく。
ジュリアとリンも黙って手伝う。

しばらくして、リンがおずおずと口を開く。
「ガレスさんは何とも思わないんですか?」
「ん?」
機材を積み込んで振り返る。
「検査結果の事です……。」
不安そうな表情だった。
ガレスは小さく笑う。
「そんな事か。」
真っすぐ二人を見る。
「俺には普通の人間にしか見えねぇな。」
その一言だけだったが、不思議と重みがあった。
リンの表情が少しだけ和らぐ。
ジュリアも小さく息を吐いた。
「ほら、乗れ。」
ガレスは後部座席を親指で示す。
二人は顔を見合わせ、黙って後部座席へ乗り込んだ。

運転席に座ったガレスは、エンジンを掛けながらニヤリと笑う。
「今日はデカい虫を捕まえに行くぞ!」
「虫!?」
リンの顔が一瞬で青ざめる。
その反応を見て、ガレスは豪快に笑った。
「ワハハハ!冗談だ!」
「もう!脅かさないでください!」
怒るリン。
張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
車両はエンジン音を響かせながら、ゆっくりと拠点を後にした。
――研究室
「へぇ……。」
エレナは持ち帰ったサンプルケースを感心したように眺めた。

「よく採取できたわね。」
その言葉に、ミネルは少しだけ視線を落とす。
「本当は、もっと採取したかったんですが……。」
悔しそうな表情だった。
「十分よ。」
エレナは優しく笑う。
「あの状況で、これだけ持ち帰れたんだから上出来。もっと自信を持っていいわ。」
「ありがとうございます……。」
少しだけ表情が和らぐ。
二人はさっそく分析の準備を始めた。
その時――
ガン! ガン!
研究室の扉が乱暴に叩かれる。

「おい! サンプルは用意できたのか!」
怒鳴り声が室内に響いた。
「来たわね……。」
ため息をつくエレナ。
そこには小太りの中年男性が立っていた。
