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終わらない時代 第20話

『シホロ基地へ』


研究室に不機嫌そうな男が入ってくる。

「相変わらず仕事が遅いな。」

研究室を見回していた男の視線が、ふとミネルで止まった。
「……見ない顔だな。新人か?」

「あ……ミネルです。」

男は返事もせず、ミネルをじっと見つめる。
「ふむ……悪くないな。」

エレナが二人の間へ割って入る。
「所長。今日は何の用ですか?」

「あぁ? お前に用はない。」

カリームは笑みを浮かべたままミネルを見る。
「ミネル……か。」

「これは楽しみだ。」

そう言い残し、研究室を出て行く。

「……あの人は?」
ミネルが小声で尋ねる。

エレナはため息をついて説明した。
「アオバシティ研究所の所長、カリームよ。」

少し嫌そうな表情を浮かべる。

「若い女好きで有名なの。気を付けなさい。」

ミネルは思わず息をのんだ。





その後、ジュリア達は調査の仕事をこなしていった。

地下空間に広がる巨大樹は今も監視が続けられているが、特に目立った変化は見られない。

ジュリアとリンは現地調査を重ね、簡単な任務であれば任されるようになっていた。

一方、ミネルも研究者として成果を上げ、研究所では一目置かれる存在になりつつある。

そんなある日――。

三人は会議室へ呼び出された。

「お前達に新しい任務だ。」
カイルは机の上に一枚の地図を広げる。

「今日から一週間、シホロ基地を調査してもらう。」

その言葉に、三人は顔を見合わせた。

「シホロ基地……?」
ジュリアが思わず聞き返す。

「ああ。」

カイルは静かに頷く。
「基地の地下研究所に巨大樹に関する機密情報が残されている、という情報が入った。」

部屋に静かな緊張が流れる。

「シホロ基地はここからかなり遠い。現地でキャンプをしながら調査をしてもらう。」

一呼吸置き、三人を見渡す。

「頼んだぞ。」

「了解!」

三人は揃って敬礼した。

会議室を出ると、リンがぽつりと呟く。
「シホロ基地……また戻ることになるなんて。」

「そうね……。」
ミネルも複雑そうな表情で頷く。

あそこには、三人の過去がある。

そして、まだ知らない何かが眠っているのかもしれない。

車庫で出発の準備を始める。

テント、食料、発電機、通信機。

キャンプに必要な機材を次々と小型トラックへ積み込んでいく。

今回の任務にはガレスとエレナも同行する。

二人もピックアップトラックへ物資を積み込んでいた。

「準備はいいか?」
ガレスが声を掛ける。

「はい!」

三人は力強く返事をした。

やがて二台の車両はエンジン音を響かせながら、ゆっくりと調査隊の拠点を後にする。

目的地は――シホロ基地。

そこは三人にとって、すべての始まりの場所だった。



シホロ基地へ到着した五人は、しばらく言葉を失っていた。

崩れ落ちた建物。

ひび割れた道路から赤黒い蔓が伸びている。

だが、蔓は動いていない。

どうやら壊死しているようだった。

「こりゃあ、ひでぇな……。」
ガレスが周囲を見渡しながら呟く。

「ええ……。」
エレナも足元の蔓に視線を向ける。

「アンタ達、本当によく生き延びたわね。」

その言葉に、三人は何も答えられなかった。

思い出したくない記憶が頭をよぎる。

重苦しい沈黙が流れた。

「あぁ……ごめんなさい。」
エレナは小さく息を吐く。

「辛い話はやめにしましょう。まずはキャンプの準備ね。」

全員で荷台からテントや資材を降ろす。

キャンプ地に選んだのは格納庫。

屋根の一部は崩れていたものの、骨組みはしっかり残っている。

ここなら夜を過ごしても問題はない。

壊死した蔓を撤去し、テントを張り、発電機や照明を設置すると、ようやく拠点らしい姿になった。

一息つく間もなく、地下研究所への調査が始まる。

しかし、入口は大量の瓦礫で完全に塞がれていたまま。

全員で瓦礫を運び出す。

汗を流しながら、一つ、また一つと撤去していく。

数時間後。

「ふぅ……。」
最後の瓦礫をどかしたガレスが額の汗を拭う。

「これで通れそうだな。」

地下へ続く通路が姿を現した。

「今日はここまでにしましょう。」
エレナが空を見上げる。

夕日はすでに山の向こうへ沈みかけていた。

基地は薄暗くなり始めている。

夜の探索は危険だ。

その直後。

ピッ――

ガレスの通信機が鳴る。

「……俺だ。」

少しの沈黙。

「あぁ……分かった。……すぐ戻る。」

通信を切る。

「何かあったの?」
エレナが尋ねた。

「アオバシティで巨大昆虫の目撃情報だ。」

短く答える。

「俺とエレナは戻る。」

そして三人を見渡した。

「お前達は引き続きここの調査を頼む。」

少し表情を緩める。

「……いいか。無茶だけはするなよ。」

「了解!」

ガレスとエレナは車へ乗り込み、シホロ基地を後にした。

残されたのはジュリア達三人だけ。

基地に、再び沈黙が戻る。

「ジュリア、リン。」
ミネルが声を掛けた。

「夕食にしましょう。」

三人は格納庫へ戻り、簡単な糧食を食べる。

「明日はいよいよ地下研究所ね……。」
糧食を口に運びながら、ジュリアが呟いた。

「あの時は逃げることしかできなかった……。」
ミネルは格納庫の天井を見上げる。

「ねぇ、ミネル。」
リンが尋ねる。

「地下研究所には何があるの?」

少し考えてから首を横に振る。

「私にも分からない。」

静かな声だった。

「研究所の奥は最高レベルのセキュリティで管理されていて、私みたいな一般研究者は入れなかったの。」

ジュリアは腕を組む。
「その一番奥に『巨大樹の機密情報』が残されている可能性が高いね。」

誰も否定しなかった。

夕食を終えると、三人は交代で見張りをしながら休むことにした。

明日から地下研究所の探索が始まる。



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