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幕が上がる、その先へ

『新たな春、最後の春』

体育館の空気は春の光と、緊張で満たされていた。演劇部の春公演が、まもなく始まろうとしている。
公演を見ようと学生や先生たちが教室に集まっている。

井上「すごい人だね、先生たちも来てる…」
中西「ほんとだね、ここの演劇部すごいんだね」

新入生の井上和と中西アルノは周りを見ながら話している。

井上「でも、アルノも来てくれるなんて驚いた」
中西「元々、演劇気になってたし。強豪校の舞台をタダで見られるしさ」
井上「はは…」
奥田「すみません、隣いいですか?」



井上「はい!どうぞ!」

奥田が井上の隣に座る。

奥田「ありがとう、私、1年の奥田いろはです」
井上「1年の井上和です」
中西「同じクラスの中西アルノです」
奥田「え!1年生ですか!よろしく!」

  奥田、手を握ってブンブン振る

井上「よろしく…」
奥田「井上さんと中西さんは演劇部志望?」
井上「そうです。私が尊敬している声優さんが舞台出身で、私もやってみたいって思ったの」
中西「私は興味があったんで観に来た」
奥田「私はここの演劇部に入部したくて、この学校を志望したんだ!」

会場に流れていた音楽が止まり、部員の賀喜遥香が出てくる。

賀喜「本日は藤ヶ丘高校演劇部 ヒカリノカケラ 春公演にお越しいただき
ありがとうございます…」

影ナレが進んでいく

舞台袖

久保史緒里は深く息を吸い込み、心の中で呟いた。

「行こう…最後の春、精一杯、楽しもう。」

隣に立つ小林○○は、軽く肩を叩きながら笑った。

○○「緊張すんなよ、史緒里。俺たち、いつものコンビだろ?」

久保は微かに笑い返す。幼馴染だからこそ、言葉はいらなかった。息を合わせるだけで互いの呼吸がわかる。
袖に立つ峯村智樹は、台本をぎゅっと握りしめる。

峯村「……この脚本で、ちゃんと伝わるだろうか。」

小さな不安を抱えつつも、胸の奥底には期待があった。彼の書いた台本で仲間が舞台の上で輝く瞬間を、ずっと見たかったのだ。

理々杏「さあさあ、今日も観客泣かせちゃうよ!」


伊藤理々杏はふざけた表情で肩を揺らし、場を和ませる。


中村麗乃は冷静に台本を確認し、舞台の全体像を頭に描く。
完璧を目指す彼女の視線は、舞台の安定を確実に支えていた。


やがて、照明が落ち、舞台袖の空気が一瞬、静寂に包まれる。小林が久保に囁く。
○○「史緒里、準備はいいか?」
久保「うん。」
舞台に一歩踏み出すと、彼らの世界が始まった。


恵美(中村)「美咲!帰ろー」
美咲(久保)「ごめん、先生に呼ばれてて…先、帰ってて」
香織(理々杏)「えー帰ろーよー」
美咲(久保)「ごめん」
恵美(中西)「分かった、じゃまた明日ね」

恵美と香織は教室から出ていく。その後に翔太が入ってくる。

翔太(○○)「美咲…」

深呼吸をひとつして、翔太は口を開いた。
翔太(○○)「俺たち、進路が違うじゃん。俺は東京の大学、美咲は地元に残る……」
  美咲は黙ったまま、机の上のペン先を回している。

美咲(久保)「……分かってた。でも、やっぱり……」
小さな声が教室に響く。翔太は視線を上げ、美咲の瞳を見た。

翔太(○○)「俺……別れたくない。だけど、このまま一緒にいるのは、お互いのためになら    
ない気がする」

美咲は小さくうなずいた。

美咲(久保)「……うん、私もそう思う。ずっと一緒にいたいけど、未来は違う方向にあるん
だもんね」

二人はしばらく沈黙した。やわらかな春の光が、教室を満たしている。
翔太(○○)「ありがとう、今まで……本当に幸せだった」
   翔太の声に、微かに笑みが混じった。

美咲(久保)「私も……ありがとう。翔太と過ごした時間、ずっと忘れない」


久保と小林が“卒業を前に別れる恋人たち”を演じる。卒業式の翌日、翔太が「東京の大学には進学しない」と恵美から聞く。信じられない思いで翔太の家を訪ねた美咲は、彼の真実を知る。翔太は重い病気を抱えており、海外での手術を受けるために日本を離れるという。



美咲(久保)「どうして……言ってくれなかったの?」
美咲の声はかすれていた。涙が今にもこぼれそうで、でも必死にこらえた。
翔太はゆっくりと視線を落とし、玄関の段差に腰を下ろした。
翔太(○○)「ごめん。言えなかったんだ。言ったら、きっと美咲は俺のこと、待とうとする 
だろ?」
美咲(久保)「当たり前じゃない……! 私、翔太のこと好きなんだよ。病気でも、遠くに行っても、支えたかった!」

翔太は小さく首を振った。
翔太(○○)「……だから言えなかったんだ。俺は美咲に“支えてもらう側”になりたくなかっ
た。手術は海外で受ける。成功するかどうかもわからない。だから、未来のない約束はしたくなかったんだ」

美咲は涙をこぼした。
美咲(久保)「そんなの勝手だよ……私にも選ばせてよ……」

翔太は静かに笑った。
翔太(○○)「ごめんな。俺、美咲の未来まで奪いたくなかったんだ」


久保は相手を立てる演技で、小林を輝かせる。小林も受けの芝居から一気に感情を爆発させ、観客を圧倒する。

井上「すごい…」
奥田「さすが久保さん…」


美咲(久保)「翔太?」

翔太(○○)「……美咲?」

その声を聞いた瞬間、世界が止まった。
そこに立っていたのは、少し痩せたけれど、確かに翔太だった。

美咲(久保)「翔太……ほんとに……?」
翔太(○○)「ただいま。約束、守りに来た。」

美咲は涙をこぼしながら駆け寄る。翔太の胸に飛び込み、言葉にならない声を震わせた。

美咲(久保)「手術、成功したの?」
翔太(○○)「うん。時間はかかったけど……帰ってこれた。」

美咲は泣きながら笑った。
翔太はそっと彼女の髪を撫で、空を見上げる。満開の桜が、風に乗って舞い散っていた。

美咲(久保)「また一緒に、歩いていけるんだね。」
翔太(○○)「うん。今度はもう、離れない。」

二人は手をつないで歩き出す。春の光が、二人の背中を優しく包み込む。
その手のぬくもりが、これからの未来を照らす光になる――。


舞台袖で峯村は、胸の中で静かに呟いた。
「やっぱり、この5人だからできるんだ…」

物語が終わり、暗転する。
割れんばかりの拍手が教室全体に包まれる

カーテンコール。久保が静かに微笑みながら戻り、小林はにやりと笑う。

○○「まだ終わっちゃいないよ。」

中村はくすりと笑い、伊藤は少し恥ずかしそうに呟く。

理々杏「また真似しちゃったかも…久保の芝居。」
峯村は台本を抱きしめ、心の中で安堵する。
峯村「この脚本を書いてよかった。」

久保の心には、遠藤さくらの姿がふと浮かんだ。去年の大会での失敗から休部している彼女が、もしこの舞台を見ていたら――。
「また、戻ってきてくれるといいな。」

新入生の3人――井上和、中西アルノ、奥田いろは――が息を呑んで舞台を見つめていた。
 井上は目を見開いたまま呟く。

井上「これが……演じるってこと……?」

 中西は冷静に観察しながらも、胸の奥がざわつく。

中西「この空気、何……?」

 奥田はいくぶん涙をこぼしながらつぶやいた。
 
奥田「私も……あんな風になりたい。」

久保は3人を見つけ心の中で、微かに笑った。
「よかった…届いたんだ…」

小林は袖で笑いながら肩を叩く。
久保「なに?」
○○「くるな、新しい風が」

続く

↓次のお話


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