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見えない動機 状態6|やりたい。でも、やってはいけない気がする。

——その葛藤は、あなたの問題ではなく、構造の問題だ。

「変えたい」と思っている。
もっとこうすればうまくいくのに、と見えている。自分だったらこうするのに、という考えが頭にある。やらずにはいられない、という衝動が、確かにどこかにある。

でも、動けない。
理由は、「それは自分のやることじゃない」という感覚です。権限がない。担当ではない。越権になる。前例がない。波風を立てたくない。

やりたい気持ちと、「やってはいけない」という判断が、毎日どこかでぶつかっている。

外から見れば、穏やかに仕事をしているように見えるかもしれません。でも内側では、ずっとエネルギーを消耗しています。

この記事は、そういう状態にいる人に向けて書いています。 やりたいのに動けないのは、あなたの諦めが早いからでも、覚悟が足りないからでもありません。「信念と制約の葛藤」という、構造的な状態があります。その構造を知ることが、出口を見つける第一歩になります。 

1.「やってはいけない」という判断は、どこから来ているか

「やるべきでない」という判断——それは、本物の判断ですか?

「権限がないから」「越権だから」「前例がないから」——これらは、言葉の上では合理的な理由です。組織の中で働く人間として、当然の自制と言えるかもしれません。

でも、その判断の背後に、別の何かが潜んでいることがあります。
「失敗したくない」という恐れ。「嫌われたくない」という不安。「どうせここでは無理だ」という諦め。「波風を立てる人だと思われたくない」という自己防衛。

これらは「やるべきでない」という言葉を着ていますが、その正体は恐れです。自分アジェンダ®ではこれを「借り物の動機」と呼んでいます——自分の内側から来たものではなく、外側の評価や恐れから来た動機です。

本物の判断(理性的な自制)と、借り物の恐れ(恐怖や義務感が「やるべきでない」という言葉を着ている状態)は、全く異なります。 でも、本人にとってこの二つを区別するのは、簡単ではありません。どちらも「やるべきでない」という同じ言葉で現れるからです。

「自分の判断は、本物の判断なのか。それとも恐れが形を変えたものなのか」——この問いを持つことが、状態#6を抜け出すための最初の問いになります。 

2.葛藤が続くと、何が起きるか

やりたい気持ちと「やるべきでない」という判断がせめぎ合う状態は、解消されないまま続くと、少しずつ変化していきます。

最初は葛藤です。毎日どこかで「やりたい、でもやれない」というエネルギーの消耗が続きます。外から見えないから、本人だけが知っている疲弊です。

次に、諦めが来ます。「どうせここでは変えられない」「自分が動いても意味がない」という結論が、静かに積み上がっていきます。この段階になると、提案することも、声を上げることも、少しずつ止まっていきます。最低限のことだけをこなすようになる——これが「静かな退職(Quiet Quitting)」と呼ばれる状態です。

そして最終的に、「離職の決断」へ。「この環境で自分の信念を実現することはできない」という結論に至り、外に答えを探しに行きます。

怖いのは、この変化が「突然」に見えることです。 周りには、静かに仕事をしているように見える。上司には、特に問題がないように見える。でも内側では、長い時間をかけて諦めが積み上がっている。 退職を告げられたとき、上司は「全く予兆がなかった」と言います。でも本人にとっては、必然の結論でした。 

3.「やるべきでない」という判断と、少し距離を置いてみる

「やるべきでない」という判断を、一度横に置いて、こう問いかけてみてください。

「もし何の制約もなかったとしたら、自分は本当は何をやっていると思うか。」

この問いに向き合うと、「やるべきでない」という判断の向こう側にある、本来の動機が見えてくることがあります。

自分アジェンダ®の事例——状態#6のひらめき

「財務は経営者自身が把握すべきだ」と言い聞かせながら、ずっと専門家任せにしてきた経営者がいました。本人は「やるべきでない(専門家に任せるべき)」と判断していた。

でも深掘りしていくと、「本当は財務が苦手で、専門家の前で恥をかきたくないだけかもしれない」という恐れが出てきました。 さらに問い続けると——「自分がやらずにはいられないのは、財務管理ではなく、信頼できるチームを作ることだ」と気づきました。

財務は専門家に任せ、チームビルディングに集中するという選択が、むしろ「自分らしい在り方」だと腑に落ちた。 「やるべきでない」という判断が、実は「本当にやりたいことではない」ことへのサインだったのです。

この経営者の話は、「やるべきでない」という判断が、本来の動機を覆い隠していた例です。そしてその覆いを取り除いたとき、「本当にやらずにはいられないこと」が見えてきました。
あなたの「やるべきでない」という判断の背後に、何があるでしょうか。 

4.「衝動の根っこ」を、一度掘り下げてみる

自分アジェンダ®では、人の動機を4つの層で考えます。行動(行動層)、判断(判断層)、気持ち(感情層)、そして最も深い信念や使命感(存在層)。

「やりたい」という感覚は感情層にあります。「やらずにはいられない」という感覚は存在層にあります。

そして「やるべきでない」という判断は、判断層にあります。
判断層は変えられます。でも存在層——本当にやらずにはいられない何か——は、簡単には消えません。

だから問うべきは、「判断をどう変えるか」ではなく、「存在層に何があるか」です。

自分への問いかけ
「自分がやりたいと思っていること、その根っこにあるのは何だろう?」 「越権とかルールとか関係なく、本当にやらずにはいられないことは、何だろう?」
「それをやっているとき、自分はどんな状態になっているだろう?」

この問いに、すぐ答えが出なくても大丈夫です。「わからない」という感覚も、一つの正直な答えです。

「わからない」と気づいたとき、少なくとも「自分は本当に何をやりたいのかを、ちゃんと確かめたことがなかった」という発見があります。それだけで、少し前に進んでいます。 

5.制約は、全部なくさなくていい

「やるべきでない」という判断が、理性的な自制から来ている場合——つまり、本物の権限の問題や、組織のルールの問題である場合——「制約を全部なくしてから動こう」と考えると、いつまでも動けません。

制約は、全部なくさなくていい。

「制約の中で、自分らしく動ける小さな出口はあるか」という問いに変えてみてください。

越権にならない範囲で、一人の同僚に意見を聞いてみることはできるか。公式な提案ではなく、非公式な対話から始めることはできるか。今の役割の中で、自分の信念を少しだけ反映できることはあるか。

完璧な環境を待つより、今できることから動き始める方が、閉塞感を開く力があります。

もし本当に、今の環境では何もできないと感じるなら——それはその環境が、あなたの信念と合っていない可能性があります。 その場合、「この環境でどう動くか」よりも「自分はどんな環境を求めているのか」を考えることが、次の一歩になるかもしれません。 それは逃げではなく、自分の存在層の動機を正直に受け取ることです。 

6.「諦める前に」、一人の人に話してみる

葛藤の状態にいるとき、それを誰かに話すことが、思ったより大きな助けになることがあります。

話す相手は、上司でも、信頼できる同僚でも、職場の外の友人でも構いません。「こういうことをやりたいと思っているんだけど、やるべきでないと思っていて、動けない」という状態を、言葉にして誰かに話すだけで、自分の中の整理が始まります。

「変な人だと思われるかも」という恐れがあるかもしれません。でも、「やりたいのに動けない」という状態を正直に話せる人は、信頼されます。「本音を話せる人だ」という印象は、意外なほど好意的に受け取られることがあります。

話すことで、「自分はこういうことをやりたいんだ」という輪郭が、少しはっきりしてきます。その輪郭が、次の一歩の足場になります。 

7.葛藤を抱えていること自体が、あなたの資質かもしれない

状態#6にいる人には、多くの場合、共通した特徴があります。

現状に満足できない。もっとこうできるはずだ、という感覚が消えない。自分の役割を超えて、全体のことを考えてしまう。

これは、組織の中で次世代リーダーになりうる人が持つ、本質的な特徴です。

問題は、その資質が制約の壁にぶつかっていることです。葛藤が生まれるのは、信念があるからです。信念がなければ、葛藤は生まれません。

だから、「自分はいつも悩んでいる」「なんでこんなに葛藤するんだろう」と感じているなら、その葛藤は弱さのサインではありません。信念があることのサインです。

葛藤を「個人の問題」として一人で抱えるのではなく、「信念の源泉を探るチャンス」として受け取ってみてください。 「自分は本当は何をやらずにはいられないのか」という問いへの答えが見えてきたとき、葛藤は方向を変えます。消耗ではなく、動くためのエネルギーに変わります。 

状態#5と#6の違い

前回の記事で扱った状態#5は、「やりたい、やるべきだと思っている、でも行動の壁がある」という状態でした。そこでは「壁を一緒に取り除き、小さな最初の一歩を設計する」ことが助けになりました。

今回の状態#6は、「やりたい、でもやるべきでないと思っている」という状態です。壁ではなく、葛藤が問題です。

この二つは表面が似ているようで、全く異なる構造を持っています。どちらも「動いていない」という点では同じですが、関わり方は根本的に違います。

状態#5には「壁の探索と一歩の設計」が助けになる。状態#6には「衝動の源泉の探索と現実的な出口を見つけること」が助けになる。

自分が今どちらの状態にいるかを知るだけで、「動けない自分への見方」が少し変わるかもしれません。

どちらも、意志の弱さでも、覚悟の問題でもありません。構造の問題です。そして構造は、理解することで変えられます。

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