見えない動機 状態#5|やりたい気持ちはある。でも、体が動かない。
——それは意志の弱さじゃない。「壁」があるだけだ。<自分アジェンダ® 状態#5>
変わりたい、と思っている。
研修で何かが刺さって、「よし、明日からやってみよう」と思って帰った日もあった。資料を読んで、「自分にもできるかもしれない」と感じた夜もあった。
でも翌朝、職場に着くと、体が動かない。
「声をかけよう」と思っていたのに、タイミングがわからない。「提案してみよう」と決めていたのに、「まだ準備が足りない気がして」と先送りにする。気づけば一週間が経っている。また何もしなかった、と思う。
そして、少しずつ自分への疑問が積み上がっていく。「結局、自分は口だけなのかな」「意志が弱いのかな」「向いていないのかな」——。
この記事は、そういう状態にいる人に向けて書いています。 あなたが動けていないのは、意志の問題ではありません。構造的な理由があります。その構造を知るだけで、少し楽になれるかもしれません。
一、「動けない自分」を責めるのを、少し止めてみる
ひとつだけ、お尋ねします。
あなたは「やりたい」と思っていますか?
「変わりたい」「試してみたい」「もっとこうできるはずだ」——そういう気持ちが、どこかにありますか?
もしあるなら、問題はそこではありません。
動けていないのは、あなたの内側に「やりたい」という気持ちがないからではなく、行動を阻んでいる「壁」があるからです。
壁があれば、どんなに意志が強くても、どんなに根性があっても、体は止まります。それは当然のことです。
自分アジェンダ®というフレームワークでは、人の動機を4つの層で考えます。外から見える行動(行動層)、考え方や優先順位(判断層)、気持ちや欲求(感情層)、そして最も深い信念や使命感(存在層)。
「やりたい」という感覚は感情層にある。「やらずにはいられない」という感覚は存在層にある。それがあるのに行動が出ていない——これが「状態#5」と呼ばれる状態です。
問題は、動機ではなく、壁です。
二、「壁」には顔がある
壁、と言っても、見えるものではありません。だから余計に厄介です。
よくある壁の一つは、失敗への恐れです。「やってみて、うまくいかなかったら?」「周りに変に思われたら?」「恥をかいたら?」——そういう想像が、行動の直前に浮かび上がって、足を止める。
もう一つは、「最初の一歩」が大きすぎることです。「積極的にチームに声をかける」「新しい提案をする」「コミュニケーションを変える」——どれも、それ自体は正しい方向なのに、いざやろうとすると、どこから始めればいいかわからない。ゴールが大きいほど、最初の一歩が見えにくくなります。
過去の経験が壁になっていることもあります。似たようなことを以前に試して、うまくいかなかった。そのときの感触が体に残っていて、無意識にブレーキをかけている。
あるいは、環境が壁になっていることもあります。「ここでそれをやっても、どうせ受け入れられない」という空気を読んでいる。周りが動いていないのに、自分だけ動くのが怖い。
壁の種類がわかると、対処の仕方も変わります。 「失敗への恐れ」が壁なら、最初の一歩のハードルを下げることが助けになります。 「やり方がわからない」が壁なら、手順を整理することが助けになります。 「環境が支持していない」が壁なら、安心して試せる小さな文脈を探すことが助けになります。 壁の名前をつけること。それだけで、少し楽になれます。
三、「動けない」ことへの後押しが、逆効果になるとき
動けていないとき、周りから「頑張れ」「大丈夫だよ」「やってみればいいじゃない」と言われることがあります。
その言葉は、悪意ではありません。励まそうとしてくれています。
でも、壁があるままで「大丈夫」と言われると、余計につらくなることがあります。「大丈夫じゃない」という現実が、理解されていないように感じるからです。
あるいは上司から「なんでやらないの?」と聞かれることもあります。それもまた、答えにくい。「なんで」と聞かれても、自分でも理由がよくわからないから。
社会心理学者クルト・レヴィンの「フォースフィールド分析」という考え方があります。行動を促す力(推進力)と行動を妨げる力(抑制力)のせめぎ合いで、人の状態は決まるという見方です。
この理論が示しているのは、「推進力を強めるだけでは、抵抗もまた強まる」ということです。「頑張れ」「やれ」という圧力が増せば、「でも無理だ」という内側の声も大きくなる。
だから、自分自身への「早くやれ」という圧力も、同じように機能します。自分で自分を追い立てても、壁は崩れません。むしろ、自己批判が積み上がるだけです。
四、動機の正体を一度、確かめてみる
ここで一つ、少し立ち止まって確かめてほしいことがあります。
「やりたい」という気持ち——それは、どこから来ていますか?
自分アジェンダ®では、これを「本物の動機か、借り物の動機か」という問いで考えます。
本物の動機とは、自分の内側から湧いてくる感覚です。「これをやっていると自分らしいと感じる」「これをやらずにはいられない」という、内発的な衝動です。
借り物の動機とは、外から来た期待に応えようとしている動機です。「上司に認められたいから」「研修でそう言われたから」「周りがやっているから自分もやらなければ」——これらは、外側から借りてきた動機です。
借り物の動機が悪いわけではありません。それも一つの動機です。 ただ、借り物の動機で動こうとするとき、体はどこかで「本当にやりたいわけじゃない」ということを知っています。だから、余計に動きにくくなることがあります。 「やりたい」と言いながら動けないとき、その「やりたい」が本物かどうかを一度確かめてみることは、自分への親切です。
確かめる方法は難しくありません。「もし誰も見ていなくて、評価にも関係なかったとしたら、それでもやりたいと思うか」と自分に聞いてみてください。
「それでもやりたい」と感じるなら、動機は本物に近いです。壁を一緒に探していくことが助けになります。
「誰も見ていなければ、別にやらなくていい」と感じるなら、「やりたい」の根っこにあるのは別の何かかもしれません。その「別の何か」を探すことが、次の一歩になります。
五、「小さすぎる」くらいの一歩から始める
動機が本物だとわかったなら、次にすることは、最初の一歩を「小さくする」ことです。
「積極的に声をかける」という目標があるなら、いきなりそれをやろうとしない。「明日、隣の席の人に『最近どうですか』と一言話しかける」くらいの一歩を設計します。
「新しい提案をする」という目標があるなら、まず「自分の考えをメモに書き出す」という一歩から始める。誰かに見せることすら、次の段階でいい。
一歩が小さいほど、失敗したときのダメージが小さくなります。失敗しても笑い話になる程度のハードルを設定することで、「やってみた」という事実が積み重なります。その積み重ねが、次の一歩を踏み出す力になります。
自分への問いかけ
今週一つだけ試すとしたら、どんな小さなことならできそうですか? 失敗しても、誰も困らない。誰も傷つかない。笑い話になる程度の小ささで、何があるでしょうか?
一週間後に、「どうだったか」を自分で振り返る時間を5分だけ作ってみてください。うまくいっても、うまくいかなくても、「やってみた」という事実がそこにあります。それで十分です。
六、上司や信頼できる人に、「壁」を話してみる
一人で壁と向き合うことには限界があります。
もし話せる上司や先輩がいるなら、「やりたい気持ちはあるんですが、なかなか踏み出せなくて」と正直に伝えてみることが、思ったより助けになることがあります。
状況対応リーダーシップ®(SL理論®)では、「フォロワー自身が自分の状態を言語化して上司に伝える」ことを、双方向のリーダーシップの実践として位置づけています。「SLテイキングチャージ」という考え方です。
「やる気がないと思われるかも」と心配する必要はありません。「やりたいのに踏み出せない」と伝えることは、むしろ誠実な自己開示です。
「最初は具体的に教えてもらえると助かります。慣れてきたら自分で判断できると思います」——そういう言い方でも構いません。自分の状態を言葉にすることで、上司は適切な関わり方ができるようになります。
もちろん、すべての職場環境がそれを安心して言える場ではないかもしれません。 そういう場合は、職場の外——信頼できる友人やメンターに話してみることも、同じ効果があります。「自分は今、こういう状態にいる」と言語化するだけで、少し状況が整理されることがあります。
七、「動けない時間」は、無駄じゃない
動けなかった時間は、無駄ではありません。
「やりたい」という気持ちを持ち続けながら、壁に阻まれていた時間は、何かを諦めていた時間ではありません。内側で、何かを考え続けていた時間です。
壁の名前がわかったとき、小さな一歩が見つかったとき、それまでの「動けなかった時間」が、その一歩の土台になります。
「早く動けていたら良かった」と思う気持ちは自然です。でも、「今、気づいた」ということで十分です。
やりたい気持ちが、まだそこにある。それが全てです。
この記事で紹介した「自分アジェンダ®」の状態#5は、意欲が高く、可能性に満ちた状態です。 「動けない」という状態は、変化の手前にある状態です。壁を知り、小さな一歩を設計することで、その先へ進むことができます。
次回は、もう一つの「動けない状態」——状態#6「やりたいのに、やるべきでないと思っている」という、さらに複雑な葛藤の構造を、同じく当事者の視点でお伝えします。
#自分アジェンダ #状況対応リーダーシップ #SL理論 #モチベーション #やる気 #自己啓発 #仕事の悩み #キャリア #Z世代 #成長 #離職 #メンタルヘルス #働き方 #自己理解 #リーダーシップ
いいなと思ったら応援しよう!
リーダーシップを難しく考えずに、いつもの行動がリーダーシップ、「だれもがリーダー」学習を提唱しています。わたしたちが長年かけて培ってきた知恵と知識を拡めたいと思っています。