【短編小説】みなもに揺れて
その昔 漁師を惑わし
悪さをする人魚がいた
怒った神さまは
人魚を醜い魚に変えてしまった
醜い魚に変えられた人魚は
人目を避けるように
深く深く潜っていった
泣き暮らす醜い魚を
不憫に思った月の女神は
月が顔をのぞかせる晩だけ
元の美しい姿に戻してやった
その魚の名を ラブカという
*
男は夜の海に網を投じていた。
(親父はわかってねえ。昼に魚が捕れなくなったなら、夜にやるしかなかんべ)
近頃あがる魚が目に見えて減った。
慣れない夜の漁でも、海に出るしかなかった。だが今のところ捕れたのは、中身の入っていない貝殻だけだ。
網をあげると、ずしりと確かな手応えを感じた。勢い込んで舟に網の中身をぶちまける。
網の中には月の光に照らされた、美しい女が横たわっていた。
「やや、なしてこんな所におなごが…」
男は絶句した。
網に女がかかったのもさることながら、その下半身が魚のように鱗でびっちりと覆われていたからだ。
「おい、なじょした?おめさん、どっから来た?」
男は女から優しく網を外してやると、布で体をくるんでやった。
女は喋ることができないのか、大きな瞳で男を見つめた。
その瞳には夜の星が瞬いていた。
喋ることはできないが、女は歌を歌った。
その歌は鼓膜を優しく撫でると、体の内側にまで染みわたり、男の身も心も暖かく包みこんだ。
夜の闇が薄化粧をするように、ほんのりと空が明るくなるまで、ふたりは舟の上で寄り添いあっていた。
女は慌てたように海に飛び込んだ。
「な、なじょした?もう行くべか?ちょ、ちょっと待ってろ」
男は今日捕った貝殻の中で、もっとも綺麗な貝殻に釣り糸を通すと、女に放った。
女はそれを首にかけると、明け始めた空から逃げるように、暗い海へと潜って消えた。
*
厚い雲が広がり、星のひとつも見えない夜だった。男は今日も、のっぺりとした海に向かって網を投げている。
男のあげる網に、ずっしりとした手応えが伝わってきた。
またあのおなごかと男は期待したが、舟の上に横たわっていたのは奇妙な醜い魚だった。
網に絡みつく無数のエラと歯が、助けを求めるように震えている。
暴れて網を傷付けられてしまう前に殺してしまおうと、男はナタを手に魚に近付いた。

A:ふと、エラに絡まった見覚えのある貝殻に目がとまった。
B:「気持ちのわりぃ魚だべ」
そうつぶやきながら男はナタを振り下ろした。
C:無数の牙がのぞく口が恐ろしげだ。男は甲板に落ちていたりんごを手に取った。
Aルート
ふと、エラに絡まった見覚えのある貝殻に目がとまった。
男はナタを下ろすと、エラや歯に絡まった網を優しく取ってやった。
そっと怪魚の頭を撫ぜると、いたわるように抱き上げた。
男は映るもののない真っ黒な海面に、横たえるように怪魚を放した。
怪魚は男を振り返ると一度大きく跳ね上がり、そのまま深い海の底へと姿を消した。
怪魚の作った波紋がゆっくりとおさまっていく。
そこにはいつの間にか顔を出していた月だけが、静かにみなもに揺れていた。
Bルート
「気持ちのわりぃ魚だべ」
そうつぶやきながら男はナタを振り下ろした。
ナタは怪魚の鱗に弾かれ、甲板に突き刺さる。舌打ちをすると、男は怪魚に手を伸ばした。
激しく身をよじった怪魚の口が、男の手にかじりつく。絶叫する男を尻目に、網から抜け出した怪魚は海へと飛び込んだ。
男の絶叫がこだまする真っ暗な海の上、怪魚が作った波紋がゆっくりとおさまっていく。
そこには貝殻だけがぷかぷかと、静かにみなもに揺れていた。
Cルート
無数の牙がのぞく口が恐ろしげだ。男は甲板に落ちていたりんごを手に取った。
怪魚の口におそるおそるりんごを近づける。怪魚がりんごにかじりついている隙に仕留めてしまおうという腹だ。
勢いよく頭をもたげた怪魚がりんごにかじりつく。ナタを振り下ろす間もなく、暴れ回った怪魚は網を引きちぎり、海へと飛び込んだ。
波立つ海面とかじられたりんごを、男は呆然と見つめていた。
このときの経験を活かし、男は成功への道をひた走る。
男の起こした波紋は、みなもが揺れるように世界中に広がっていった。
のちのスティーブ・ジョブズである。
全くショートショートにおさめられませんでした。
決められた字数の中で、ちゃんと話をまとめるのは本当に難しい。
ショートショートは難しいんですね。
知りませんでした。
次回挑戦するときは、字数におさまるように頑張ろうと思います。
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山根あきらさまのこちらの企画にも参加させて頂きました。
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