【ショートショート】思い出相続税
「相続されますか?」
目の前に置かれた小さな結晶を見つめる。
世知辛い世の中は、思い出にまで相続税を課してくる。
火葬して残った最後の結晶。かっちゃんの最後の思い出。
「相続しないと、どうなるんです?」
黒服を着た係の男が目を伏せたまま応える。
「こちらで砕いてお骨と一緒に埋葬させて頂きます」
蛍光灯の光を鈍く反射する、半透明の結晶を見つめる。
「ちなみに、おいくらですか?」
「はい、20円になります。軽いので」
思い出の重量で税が変わるのか。なんだか納得いかないが、私はスマートフォンをかざした。チャラーンとやたら軽い音が火葬場に響いた。
外のベンチに腰掛け、曇り空に結晶をかざした。結晶の中で何かが動いているのが見える。目を凝らすと頭の中に思い出が流れ込んできた。
高い空と鉄柵が見える。
私の前には学生服を着たかっちゃんがいた。
「ブラのホックを2秒で外せるようになった」
「彼女いたこともないのに?」
「姉ちゃんのブラ盗んで、ぬいぐるみに付けて練習したんだよ。もはや神業の域だな」
「童貞なのに?ちなみになんのぬいぐるみ?」
「キティちゃんだ」
笑い声が青空に吸い込まれていく。
「もっと他にあるだろ……ばかやろう」
空を見上げる。
鈍色の空に伸びる一筋の煙が、風に流されて消えた。
終
みんな、練習しますよね。
田原にかさまの毎週ショートショート【思い出相続税】に参加させて頂きました。
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