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【ショートショート】夜桜と

 夜の密度にじんわり溶け出すように、夜桜が街灯の薄明りを浴びている。

「おれは昼より好きだな」

「そうだね」

 桜の枝が風に揺られ、さらさらと音を立てる。

「桜自体は変わってないのに、不思議なもんだよな」

「自然光と人工灯では目に映る色も、見える範囲も違うからね」

 街灯に照らされた桜は、昼よりも妖しく、美しすぎて、少し怖い。

「全部は見えないから、引き立って綺麗に見えるってことか?」

「それもあるし、人間は無いものを勝手に頭の中で補完できるからね。見たいものを見たいように見てるんじゃない?」

 そう聞くと、桜の背後の闇が少しだけ動いた気がした。

「そんなに適当か?」

「あまりにリアル過ぎると、逆にCGに見えるでしょ?ちょっと見えないくらいがちょうど良いんだよ」

「それだと誰も同じものを見れない気がしちゃうけどな」

 遠くで救急車のサイレンが聞こえる。

「本当の意味では、そうなんじゃない?」

「え?」

「誰も本当の意味で同じものなんて見てない。この会話だって同じだよ」

「どういうことだよ?」

 少し気温が下がってきたのか、ポケットのスマホの熱を感じた。

「この会話の上限に達しました」

 ポケットの中で、小さく振動が走る。

 取り出した画面が、白く光る。

 その下に、今の会話が一字一句、整った文字で並んでいる。

 街灯に照らされた夜の桜が、ざわりと風に揺れた。


 終


田原にかさまの毎週ショートショート【夜桜男子】に参加させて頂きました。

前回のお題はこちら

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