【ショートショート】隣席の富士山 (600字くらい)
大食いパスタ専門店『暴呑』。店主が客の望む量のパスタを際限なく提供するとあり、大食いを自負する兵たちがこぞって押し寄せていた。
TVチャンピオンの予選をギリギリ通らなかったオレは、次回こそはと修行のためにこの店を訪れた。店内にはちらほらと見覚えのあるような客が座っている。
隣の席の客に、店主が料理を運んできた。山と見紛うほどに盛り付けられたパスタに向かって「まるで富士山や〜」などと叫びながら動画を撮っている。大食い系ユーチューバーのスコ麻呂である。
おれは舌打ちをひとつすると、店主にオーダーを告げた。
「隣席の倍……いや、3倍のパスタを頼む」
しばらく待つと、おれのテーブルの上にはエベレストのような高さのパスタの山が聳え立っていた。パスタを盛れる量の限界なのか、プルプルと脈打っているようだ。
おれはスコ麻呂を見てニヤリと笑った。ふと視線を転じると、ひとりの男がテーブルに仰向けに寝転がり、天井めがけて大口を開けていた。男の視線を追いかけると、店長が天井の梁の上に乗り、長く垂れ下がったパスタを男の口目掛けてサーブしていた。
5mはあろうかというパスタを、妖しく光るソースが伝う様はさながら天の川のようだった。
格の違いを思い知ったおれとスコ麻呂は、静かにフォークを置いた。
店内には男の満足そうな咀嚼音と、梁の上の店長の荒い息遣いだけが響いていた。
終
いや、それ大食いじゃなくね?
たらはかにさまの毎週ショートショート【隣席の富士山】に参加させて頂きました。
前回のお題はこちら
岩男さんも笑わせたいのでこちらも参加しています。創作大賞の結果をどうやって知るのかわからないので、まだ一縷の望みを隠し持っています。
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