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人事の羅針盤2025参加レポート(午後の部)

こんにちは。IT企業で人材育成・組織開発をやっているうえむらです。本記事では先日開催された「人事の羅針盤2025」を題材に、セッションで印象に残った点や私自身が感じ取ったことをお届けしていきます💪

午前の部は別記事にて公開しています。まだの方はぜひ辿ってみてください。

本記事では午後の部をお届けします!

ランチタイムに頂いた書籍とサンドイッチ

④研究知が切り拓く、人事の未来

午前最後のセッションに続き、神戸大学の江夏先生、同じく神戸大学客員准教授の岩本先が登壇。このセッションでは「どうすれば研究者と実務者がうまくコラボレーションできるのか」がテーマとなっています。

(ぱっつんさんの素晴らしい写真も合わせてお楽しみください📷️✨)

まずは江夏先生のお話。

研究者と実務家はなかなか噛み合わない。それは研究者の言葉が難しく感じられたり、同じ物事を違う角度から眺めがちだったり、実務と研究で関心を寄せる対象が異なることなどが要因となっています。

研究と実務の間にある「ずれの構造」をどうすれば乗り越えられるのか。そのヒントとして、研究者との関わりを活かす人事は「言葉の理解を深める傾向がある」ことが挙げられました。そのような人は学ぶことそのものに動機付けられているのかもしれない。理論やエビデンスを答えとして使うのではなく思考誘発性(インスピレーション)として活用する。問い続ける姿勢、答えをアップデートし続ける姿勢が研究と実務をつなぐ架け橋になる。そんなお話が印象的でした。

また面白かった視点として「学術語理解への重要度が低い人ほど、実際に学術語を理解できると業務の思考が深まる」という点がありました。学術的な話は自分には縁がないかな…と思っている人こそ学術を学ぶことで得られるリターンが大きい。パラドキシカルですが、まだ学べていないな…という人こそ学びのチャンスを持っていると思うと、未来が少し明るく感じられそうです。

これらの詳細は2024年に出版された書籍『人事管理のリサーチ・プラクティスギャップ』で詳しく語られているとのことです。(私も帰宅後、即ポチりました!)


続いて岩本先生のお話。

理論や概念の活用方法を、洞窟の中を歩く場面を例に説明していきます。概念はサーチライトの役割で、概念の働きを教えてくれるのが理論。ある現象が、なぜ、いつ起こるのかを教えてくれるもの。概念を知ることで、目の前にある石ころに躓かずにすむ。この例えは大変分かりやすかったです。

また理論や概念を活用する具体例として、どう採用するか?という話が挙げられました。構造化面接、メタ分析、基本心理欲求理論など、概念や理論を活用して採用における評価の精度を高めること、候補者に提供する体験をよりよくするための科学的手法が示されました。

たとえば構造化面接については、構造化にはLevel1からLevel4の度合いがあり、入社後のパフォーマンスを予測するという意味では、Leve2とLevel3の間で大きく効果の違いが生じることが分かっています。

・Level1:質問の縛りはなく、自由に話してもらう。
・Level2:質問の縛りは最小限で、基本的には自由に話してもらう。
・Level3:質問がある程度決まっており、仕事内容に合わせた具体的な質問と評価軸が決まっている。
・Level4:質問が完全に決められており、質問に対する「答え」もある。

【社内勉強会】採用面接を科学する

また組織科学の領域では「GRIT」という概念についての興味深い事例が共有されました。

GRITはやり抜く力、粘る力を指しており、成果に直結する力という印象を受けます。しかし、とある営業組織ではGRITが高すぎると営業活動量が少なくなるという相関がみられたそうです。

その理由について考えられる仮説として、GRITが高いことで「諦めきれない」「粘りすぎてしまう」という行動がかえってマイナスに影響しているのではないかという仮説が示されました。難易度の高い顧客に時間を使い過ぎた結果、その他の顧客に時間が使えなくなり、全体の営業活動量が下がってしまうのではないかとのこと。なるほどたしかに。

また実務家と研究者が一緒にやっていく上で重要なこととしては以下の観点が示されました。

  • 実務家と研究者がゴールを共有していることで、お互いが楽しめる

  • 実務家と研究者を「つないでくれる人」の存在が重要

セッションのお土産として、紹介頂いた論文や書籍を岩本先生がXで投稿されています。こちらもご参考ください。


また、このセッションで登場した「実務家と研究者をつなぐ」という点については私の個人的なエピソードにも紐付いています。

以前、自社で提供してきた研修の良し悪しが分かりづらいという問題提起から本格的に効果測定を行うことになった際、チームに効果測定の専門知識を有するメンバーがジョインしたことがありました。

新メンバーが持つ専門知識を既存メンバーが理解するために開いた勉強会において「研修効果を測ることは自分達がこれまで目を背けてきたものをも映し出すことがある。その覚悟はありますか?」という問いが投げかけられました。この言葉には私自身も少なからず衝撃を受けた記憶があります。

また実際に効果測定に取り組む過程においては、専門知識を持つメンバーと既存メンバーの間で継続的な対話を重ね、徐々に理解を深めていきました。一連の研修効果測定の改善についてはnoteにまとめています。合わせてご覧ください。


⑤テクノロジーがもたらす事業インパクト

このセッションではPeopleX社CHROの勝村さん、LiberCraft三好さんが人事領域でのテクノロジー活用についてお話頂きました。ここまで歴史や研究の話を聞いてきたところから一転、視点を未来を向けたトークが展開されていきます🔥

まずは勝村さんから対話型AI面接についてのお話。AIと対話を30分続けるのは技術的な難易度が高く、この障壁を乗り越えたことがPeopleX社の競争の源泉となっています。実際に特許を取得されており、今後のHR領域でのAIビジネス戦線で先手を打つ姿勢が印象的でした。


続いてLiberCraft三好さんからはデータサイエンス視点でAIの価値を語っていただきました。

AIにより非構造的なデータを構造化する話や、推定⇒介入⇒学習の再設計で事業価値のさらなる創出が目指せるのではという話が印象的でした。以下のような具体例も挙げて下さっています。

  • アンケートの自由記述をタグ・ポジネガ・重要度で構造化し、捉えるべき顧客の声を即座に抽出

  • 顧客の行動データをログベースで蓄積し、セグメント別の最適文面を自動生成

  • 1on1コミュニケーションのさらなる活用でオンボーディング体験、エンゲージメントが向上


そして人事図書館館長の吉田さんも交えたパネルトークへ。

テクノロジーを活用できる会社/活用できない会社を分けるポイントは?

  • AIを銀の弾丸的に捉えている経営・社員が多いと上手くいかない。(人事が現場に寄り添っていたところから、AIを活用することで寄り添わなくなった結果、社員の離職増に繋がった例もある)

  • 生成AIは100%の精度にはならない。100%の精度が出る前提で考えてしまうと導入・活用は上手くいかない。そういうものだという心持ちが必要。

社内でのテクノロジーの習熟をどのように進めているか

  • AI活用を進めていくことでこなせる業務量が増えるため、人の判断量も増えていく。けれども実際にこなせた業務が増えたという話はあまり聞かない。

  • AIを使い倒し、自らの業務量を増やすことにいち早く慣れることでAI時代の競争力を獲得できるのではないか。

テクノロジー活用にあたって人事に期待したいこと

  • ウェットな領域だからこそAIやデータを活用して一緒に物事を進めていってほしい。

  • AIによる一番の変化は開発速度が飛躍的に向上したこと。そして技術力がなくともプロトタイプが作れる。人事自身が商品開発担当になる時代。


ビジネスの最前線でAI活用にコミットし続けてきたお二人だからこその言葉に圧倒されながら、私自身が人事としてどのようにAIと向き合うべきかを思い浮かべていました。

明確に言えることとしては、人や組織の視点でAIを効果的に活用するアイデアや施策はやはり人事がリードすべきという点。なぜなら人事には人や組織についての課題が蓄積されているからです。

AIは魔法の杖ではなく、問題解決のツール。これまでは解けなかったけれどAIだからこそ解ける良質な問いを見つけることこそが、これからの人事に求められるケイパビリティのひとつだと思います。

そして良質な問いを見つけるためには、AIの得意・不得意を知ること、自らがAIを使って業務にあたること、仲間と共にアイデアを共有し合うことなどが必要と考えられます。これらは半径5メートルの範囲でできる小さなアクションだからこそ、日々積み上げられるかどうかが未来の大きな差につながります。今、自分にできることからはじめよう。そんな思いを新たにしたセッションでした。

⑥最先端Tech企業の人事が語る テクノロジーは人事と組織をどう変えるのか

ゆめみ太田さん、UiPath村上さん、Workday金野さんによるセッション。外資系Tech企業でどのようにAI活用が進められているのか、テクノロジーをどのように捉えているのか。様々な角度からお話を聞くことができました。

UiPath村上さんからは「エージェンティック・オートメーション」という概念が紹介されました。これは業務フローを人とAIエージェントとロボットがチームとして協力し合い、シームレスに連携し合う仕組みとのこと。

またWorkday金野さんからはAIを社内でどれくらい活用されているかをトラッキングする「EverydayAI」というプラットフォームが紹介されました。

その結果、ハイパフォーマーはそうでない社員と比べて毎日AIを2倍以上活用していることが分かったとのこと。このAI使用率格差を極力減らしていくことが人事に課せられているそうです。一体どんな取り組みをしているのか具体的な話を掘り下げて聞きたい欲が高まりました。

ゆめみCHROの太田さんからは近未来を感じさせるお話を聞くことができました。

  • すでに社内では生成AIでコーディングやデザインの30%~40%が自動化されている

  • Sora2に代表される写真、動画生成によりマーケティング業界に大変革が起こることが予想される

  • スマートグラスのようなデバイスがAIと合流するとすごい未来が起こる

こうした話のなかで私の心に残っているのは、太田さんの以下の言葉。

テクノロジーは多くの人事パーソンにとって縁遠く感じられるものです。しかし人事業務で日頃から使っている手続きや対話は心理学、社会学などの理論を下敷きにしたものも多いですよね。技術や理論を実践に落とし込む過程は、本質的にはテクノロジーも学問も同じと言えます。たしかにその通りだなと。

この太田さんの言葉で午前中の歴史や研究の話と、午後からのテクノロジーの話がつながって見えた気がしました。

⑦これからの時代における人事の核心

セッションもいよいよ大詰め。ここからは永島寛之さん、遠藤亮介さん、坪谷邦生さんの3人でのトークセッションが繰り広げられました。

御三方の簡単な紹介は下記の通り。

御三方とも豊富な人事経験に基づき現在は独立されています。コンサルティングや講演、書籍等で大変著名な方々です。私も以前から追いかけており、このセッションをとても楽しみにしていました。

まずは永島さんのセッション。マーケティング領域での経験と人事責任者を務めた経験を絡めつつ、人的資本経営の潮流について俯瞰しつつ解説。ここ最近は人事外の領域から人事を応援したいという声も多いため、人事はPRやマーケを巻き込むことも重要になるのではというお話がありました。

そうした文脈でHRをHuman Relationsと捉えてはどうかという提言がなされました。

  • IR (Investor Relations) : 投資家との関係性をつくる

  • PR (Public Relations) : 社会との関係性をつくる

  • HR (Human Resource) : 人を管理・最適化する

3つのRが並ぶなかでHRだけがニュアンスが異なることへの違和感。管理・最適化よりも、人と人、組織と人との関係性をデザインし、価値を生み出す存在=Human Relationsになることがこれからの人事に必要な視点なのではないか。この主張は多くの人事パーソンに響く言葉だと思います。


続いて遠藤さんのセッション。遠藤さんは今から20年近く前、まだHRBPという言葉が一般的になっていなかった時代から、グローバル大企業でHRBPとしての経験を積み、その後はCHRO経験を積まれた方。私は以前、人事図書館で遠藤さんのお話を伺ったことがあり、その際に感じた「これはほんまもんのHRBPの話や…(小並感)」という記憶が色濃く残っています。

遠藤さんからは人事の進化の流れについてお話頂くなかで、組織が複雑化し、分断化が進むことがビジネスのボトルネックになることから、人事はその分断を橋渡しすることで「意味と関係をつくる存在」になっていくべきではないかという提言がなされました。

外資系企業では社長が毎月タウンホール・ミーティングを開催し、遠藤さんは社長のメッセージを社員に届ける役割を担っていたそうです。その際、社長が舞台裏でひとり呟いていることや日頃からの考えを含めて社員に言葉を届けること、単なる通訳ではなく翻訳者となることを心掛けていたという話をされていました。


最後に坪谷さんのセッション。人事とは「人を活かして事をなす」存在であり、人とコトとがつながらないのは事業環境や人々の多様性が増すほど「方向性」が見えにくくなっているからであるという問題提起がなされました。

このような背景のもとで人事がリーダーシップを発揮するには地図が必要。自分が今どこにいて、何に取り組んでいるかが分からなければ、人々を動かすことはできない。人事に良質な地図を提供するために「図解」シリーズを出版してきた坪谷さんの熱い思いが語られました。(2025年11月には『図解 採用入門』が発売予定。私も予約して楽しみにしています)

また、人事は人と事、現場と経営、短期と長期といった様々な二項対立のなかで葛藤を抱えがちな職種であることにも触れられました。葛藤をいかに保持し、力に変えていくか。その限りを握るのは「哲学」であり、意味づくりにある。人事に必要な哲学を「中庸(アリストテレス)」「禅(十牛図)」「弁証法(ヘーゲル)」「縁起(龍樹)」「自覚(西田幾多郎)」の5つに厳選し、人事の意思決定を支えるフレームワークを提供されているそうです。めちゃくちゃ興味深い。


お三方の濃厚なクロストークは私の脳内に良質な葛藤を生み出しました(今もなお消化しきれていません)。確実に言えることとしては、人事の役割は従来から変わりゆく最中にあり、未来の人事のすがたは今とは大きく変容しているであろうということ。

事業環境の変化、組織のカタチの変化、人々の変化。様々な変化を受け入れ、その中から解くべき課題を見定め、解決できる能力を先回りして獲得する。「変化のマネジメント」こそがこれからの人事に必要なケイパビリティ。そんな言葉を受け取ったような気がしました。

変化をマネジメントする最善の方法は、自ら変化をつくり出すことである。」

これはドラッカーの有名な言葉ですが、自らが変化の先頭に立つこと、チェンジ・エージェントとして組織変革の担い手になることをお三方は体現されています。私自身も変化の中で自らのあり方を問い直していきたいと思いを新たにするのでした。

人事の羅針盤を持って、私たちはどうするか(エンディング)

そんなこんなで気づけばエンディングへ。ものすごい振れ幅の情報量を一日中浴びてきたからか、脳内をどう整理したものか?という方向に私の思考は大きく傾いていました。

そうした面持ちで話を聞いていたところ、吉田さんから投げかけられたのは以下のような問いかけ。

人事の羅針盤を持ち、私たちはどうするか
あなたがリスクを負ってでも踏み出したい一歩は何か

…そうだった。私自身がここから何をしていくか。それこそが考えるべきことだ。吉田さんの言葉によって最後にもう一段階、脳が揺さぶられるような感覚がありました。本当に吉田さんの応援団長力はすごい🔥

自ら旗を立てる人事のプロ・専門家が増えることが吉田さんの願い。私自身もその思いに大いに共感しています。

まずは自らがその姿を体現できるよう日々精進していきつつ、組織や人についての学びを半径5メートルからじわじわと広げていく活動を推し進めていきたいと思います。


ここまでお読みいただきありがとうございました!人事の羅針盤2025の臨場感、濃厚なセッションの様子をおすそ分けできていれば幸いです。イベントに参加された方々とはセッション内容を対話していきたいと思っています。ぜひお気軽にお声がけください。

それでは、また。

うえむら(@Uemura_HR

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