既読のない海で掘り返す化石は美しい
『毎日ハナコ』という、夫しか読者のいない日記連載をしていた話《大塚ぐみさん》
こちらの感想記事です。
ヤスシです。
ええ、もうね、読後感がすごい。
最初は「夫しか読者のいないメルマガ」という、世界一ニッチなサブスクの話かと思ったのに、途中から「ん?え、なに?!」とトランジットして人生の発掘調査に変わっていく。読んでる側もGmailの地層に頭から突っ込まされる。
「毎日ハナコ」「時々ハナコ」「これからは多分また毎日ハナコ」のタイトル群、このネーミングセンスよ。大塚ぐみさん、ぽっと出のエッセイ書きじゃないって証拠を突きつけてくる。このタイトル並びがあまりにも人類。ダイエット日記も筋トレも語学学習も読書記録も、まぁだいたいこの推移をたどる。
でもこの作品、ただ「昔の自分かわいい〜」で終わらないのがずるい。そもそも10年以上前の日記がおもしろいってどういうことだ。あー、ずるい。書き出しなんて完全にサザエさん予告。「つまです」。方言まで入れてくるなんて不定期の旅行回かよ。
読み進めるうちに、メールの文面が黒歴史から救命ボートに変わっていく瞬間がある。あの転調、パーフェクトに心を不意打ちしてきた。
しかもさ、回復の方法が、「壮大な夢を持つ」でも「人生を変える習慣」でもなく、
夫にどうでもいいことを送り続ける
……良すぎる。
人って案外「今日のポテト欲がすごい」くらいの情報で命をつなぐんだな……って思わされた。メンタルって、高級フレンチじゃなくて永遠に出てくるおかわり自由の味噌汁みたいなもので、こういう細切れの日常がじわじわ効く。
他にも刺さったのは、Gmailが「既読機能のないエアポケット」って表現。
LINEだったら「既読ついたのに返信ない」が発生するけど、Gmailにはそれがない。
『毎日ハナコ』はインターネット漂流瓶なのだ。夫、毎日ボトル拾ってる。浜辺の管理人すぎる。DASH島のスタッフすぎる。
そして最後、
「10年ぶりハナコ」を送ろうとしてやめるところが、これまた絶妙だった。
ここで送っていたら「はい!続編制作決定!」だったのに、ちゃんと土をかけて閉じる。
化石は掘り返すから美しいのであって、毎日持ち歩くとただの骨。骨格標本になってしまう。
読み終わった後、なんだか自分の昔の送信履歴を見たくなった。いや見ないか。怖すぎる。たぶん2014年くらいの私は、「了解です!」を「了解death!」とか送ってる。発掘した瞬間に考古学学会が閉鎖される。
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