あのしんどい子育てをもう一度。
むかしのこと。実家に来ていた親戚のおっちゃんが寂しそうな笑顔でこう言った。
「もう一回、子育てしたいなぁ」
その頃私は子どもたちが小さかったので「そんなアホな。せっかく手を離れて自由なのに」と本気で思ったもんで。
で。うちの子たちも高校生、中学生になり、土日は部活でほぼ家にいない。夜も遅い。小さい頃はあんなに欲しかった自分時間が、今となっては自分だらけだ。
で、なにをしてるかというと、ゲームしながら「もうちょっと小さかった頃の写真でも見るか」とスマホを漁る。いや、漁るっていうか、埋まってる宝探しに近いかな。写真ってのは時間の冷凍保存みたいなもんで、あれ開くと一発で胸がキューンだ。もう少し正確に言うと、胃の下あたりがグワンってなる。あれ、何の臓器なんだ。
たとえば、息子が戦隊モノにハマっていたころ。階段の2段目からジャンプして「トッキュウ1号!!」って叫んで転んで大泣きしたあとに撮った写真。なぜか笑ってる写真。親ってのは、わが子の怪我すらちょっと面白いと思ってしまう罪深い生き物なもんで。
その笑ってる子が、今は「つかれた。しんどい」の言葉で家に帰って、無言で風呂に入って、無言で寝るんだ。トッキュウ1号が、いまや無言65号さ。
でもさ、「いまが一番かわいいときよ」って言う人いるじゃん? あれ、たぶん一生そうなんだろうね。未来を知らないから、今を最大に愛せるっていう呪文みたいなやつ。
だから、私はこれからしばらく、文句タラタラで帰宅してくる高校生を、今が一番かわいいと思うことにする。こっちはしっかり「おかえり」と言って、無言でお茶を出して、無言で洗濯をする。育ってる間って、ずっと育児なんだね、たぶん。
思ったんだけど、「振り返れるのは、過ぎ去ったから」っていうのは、逆に言えば、振り返れない今こそが、ど真ん中の真剣勝負ってことなのかもしれない。
親戚のおっちゃんが「もう一回子育てしたい」って言ってたのを思い出した私は、仕事帰りにコンビニでアイスを4つ買った。帰ったら、家にいたのは私一人だった。冷凍庫にアイスを並べて、「甘いもの食べて疲れを癒やせ」って言うつもりだったけど、言う相手がいなかった。
でもまあ、それでもいいかって思った。
冷凍庫を開けた時、未来の誰かが「これ、いつ買ったの?」って言うかもしれないじゃないか。
そのとき、私はこう答える。「トッキュウ1号が無言になった頃だよ」
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