10回引越した私が「窓」にこだわるわけ。
引越しで大事なのはデザインでもでもなく“窓”である。
最優先は、何にもさえぎられない空が見えること。

浪人時代の学生寮において、窓を開けても壁を眺める毎日だった。時間のうつろいを求めているのに四季を感じられない景色は私に「お前はいつまでも変わらない。今の生活から抜けることは出来ない」と言っているようだった。絶対にこんなところ出ていってやると誓った。

大学からの一人暮らしとは名ばかりで親の言うまま寮に入れられた私は、思いがけず楽しんでいた。カトリック系の女子寮には最上階に礼拝堂をかねた食堂があり、全面ガラス張りで眺望は素晴らしかった。陽射しが体を暖めてくれると、凝り固まった心も解けていくことを知った。

就職した時も家具家電の一切は親に選ばれてしまったが、窓からの眺めだけは私を癒してくれた。坂の上の大学病院のそばで、学生が漕ぐシャーっという自転車の音と、ときどき遠くで鳴るサイレンの音だけが濃紺の中に溶けていた。

結婚してからは親と夫からの指示により「子どもを連れて一人で買い物に行くんだろうから、一階にしておきなさい」という決まりを守った。おかげで階段から転げ落ちることはなかったので、彼らの狙いは成功したのだろう。
自家用車はあったが夫が通勤に使うため、日中赤子を背におぶって買い出しにいくのが常だった。それでは週末にまとめ買いすればいいと思うが、土日は夫の「貴重な」時間だったため、深夜から釣り道具が積み込まれ起きた頃には駐車場は空だった。

朝も夜もなく乳を差しだし、外に出るという選択肢すら忘れていた頃。ふと窓に目をやるとずらっと並ぶの乗用車が私には壁に思えた。また閉じ込められてしまったと。

空さえ見られれば。私がここから出られなくても雲は形を変えるしどこかに流れていける。私の代わりに遠くまで行ってほしいと思った。
それが私の窓にこだわる理由。窓さえあれば私は自由になれるから。
前の記事もどうぞ。
いいなと思ったら応援しよう!
この記事を気に入ってくれたら、よければチップお願いします。一口100円から、何度でもOKです。いただいたお金は記事作成に使わせていただきます。